第47話 ゲームセンター
ゲームセンターには、UFOキャッチャーやレースゲームなど定番のゲーム機がずらりと並んでいた。
「
そう尋ねると、芽依はコクコクと頷き、千颯の制服の袖をつかんだ。
「あれ」
芽依が指さしたのは、プリクラだった。
(おお……いきなりそう来たか……)
まさか出会って2日目の女の子とプリクラを撮ることになるとは思わなかった。戸惑いつつも、芽依に誘われるままカーテンの中に入った。
プリクラ機の中は意外と狭く、芽依との距離も自然と縮まる。密室という状況も相まって、妙に緊張した。
百円玉を入れると、ガイド音声が流れる。
『好きなモードを選んでね』
画面に映し出されたのは、フレンドモードとカップルモード。いったい何が違うのか分からない。
迷っている間にも制限時間があれよあれよと迫ってくる。すると隣にいる芽依が手を伸ばした。
「えい」
可愛い声を出しながらポチっと押したのはカップルモード。驚く千颯に、芽依ははにかんだ笑顔を見せた。
可愛すぎる表情を向けられて、自然と頬が緩む。心の準備ができないまま、撮影がスタートした。
『まずは指でハートを作ってね』
画面にはお手本となる画像が映し出される。千颯はあわあわしながらポーズを真似る。
「親指と人差し指を交差して……これで合ってる?」
「はい、合ってます!」
芽依からオッケーが出た状態で指先をキープする。そのまま画面に向かって笑顔を作った。
画面に映る自分の笑顔はとてもぎこちなかったが、まあ仕方がない。それよりもぱっちり目を開いて指でハートを作る芽依は破壊的に可愛かった。
脳の処理が追い付かないうちに、次の撮影が始まる。
『隣で寄り添って、頭をコツンとくっつけよう』
一気に距離感が近くなるポーズを要求されて千颯は焦る。芽依も真っ赤な顔をしながら俯いていた。
心の準備ができないまま、撮影のカウントダウンが始まる。すると芽依は千颯に一歩近づき、身を寄せた。
小柄な芽依が首を傾けると、ちょうど千颯の肩の位置に頭が来る。こつんと小さな頭が千颯の肩に乗った。
シャンプーの甘い香りが漂う。その瞬間、心臓を鷲づかみされたような感覚になった。
「お兄さん、顔真っ赤……」
「そりゃあ、そうなるよ……」
千颯の反応を見て、芽依はくすっと小さく笑った。
結局、頭同士をくっつけるポーズにはならなかったけど、芽依が千颯の肩に頭を乗せる可愛らしい写真が撮れた。
そしてガイドの音声は、さらに際どいポーズを要求する。
『後ろからぎゅーっとハグをしてね』
画面には、男が後ろからハグするポーズが表示される。
「これは流石に……」
後ろからハグは荷が重すぎる。知り合って二日目の女の子にすることじゃない。
芽依の反応を伺うと、真っ赤な顔をしながら狼狽えていた。千颯と目が合うと、小動物のような俊敏な動きでプリクラ機の端まで逃げた。
「ハグはちょっと……」
俯きながら蚊の鳴くような声で呟く芽依。その反応を見て、千颯は安堵した。
それから芽依を怖がらせないように笑って見せる。
「芽依ちゃん、おいで」
「え……」
千颯が手招きすると、芽依はおずおずと近付いてきた。ガイド音声が『3・2・1』とカウントダウンする。シャッターが下りる直前に千颯は動いた。
「はい、ピース」
「は、はいっ」
芽依は慌ててピースを作る。すると二人並んでピースをする無難な写真が撮れた。
芽依は驚いたように千颯を凝視する。説明を求められているような気がしたため、千颯はガイド音声に従わなかった理由を明かした。
「ああいうのは、ノリでするものじゃないから」
小恥ずかしさを感じながらも、千颯は正直な思いを伝える。
すると芽依は、緊張の糸が切れたかのように肩の力を抜いた。そして頬をそっと緩める。
「ですね」
それからも数カット撮影し、無事に撮影タイムが終わる。二人は落書きコーナーに移動したが、芽依は落書きをしない派なのかほぼ何も書かない状態で終了した。
プリクラ機から出て、プリントされるのを待つ。カタンと出てくると、芽依は期待に満ちた瞳でプリクラを見た。
次の瞬間、芽依の顔から笑顔が消える。
「えぇ……」
顔を引き攣らせながら、プリクラと千颯を交互に見る芽依。何事かと思い、出来上がったプリクラを見ると、微妙な反応になった理由が明らかになった。
「これは酷い……」
プリクラに写った千颯は、加工が施され過ぎてエイリアンのようになっていた。目が異様に大きくて、唇が真っピンク。隣にいる芽依は可愛く映っているというのに、千颯の違和感は半端なかった。
「お兄さん、いります?」
芽依は苦笑いを浮かべながら千颯に尋ねる。芽依の写真は可愛いけど、隣に写り込んだ自分はどう考えても余計だ。たぶん貰っても見返すことはないだろう。
それに万が一
「大丈夫だよ。芽依ちゃんにあげる」
千颯は作り笑いを浮かべながら丁重にお断りした。芽依は苦笑いを浮かべたまま、プリクラを鞄にしまった。
プリクラを撮り終えてから、芽依と目が合うタイミングが極端に少なくなったような気がする。隣を歩くときの距離感も、心なしか遠い。
(もしかして、現在進行形で蛙化されてる?)
自分の好感度が下がっていることを自覚して、千颯は挽回の方法を探した。すると、太鼓のリズムゲームを発見した。
「芽依ちゃん、太鼓やろうか」
「あ……はい!」
ようやく目が合った芽依は、ゲームへの参加を承諾してくれた。
百円玉を入れると、ゲームが始まる。二人で遊ぶモードを選んで、太鼓の面を叩いた。
次に難易度の選択をする。芽依はノーマルモードを選択する傍らで、千颯は迷わずハードモードを選択した。
「俺、この手のゲームは得意なんだよね。中学の頃、友達とよく競ってやっていたから」
千颯はリズムゲームには自信があった。だからこそ、カッコいいところを見せるため、自分の得意分野で勝負することにした。
「そーなんですね!」
芽依は再びキラキラした笑顔を向けてくれる。ちょっとは効果があったらしい。
曲は芽依も知っていると言っていた人気アニメの主題歌を選んだ。千颯はバチをしっかり握って曲が始まるのを待った。
曲が始まると、千颯はカッと目を見開いた。開始早々から団子のように流れてくる音符に合わせて手を動かした。
ドッドッカッカ、ドッドドカッカ――。
瞬きも忘れて、乾いた目で太鼓を叩く千颯。その姿は、何かに取り憑かれたようだった。
隣にいる芽依は、ぽかんとした表情で千颯を見つめる。自分の音符を追うことすら忘れていた。
千颯の太鼓の音につられて、ギャラリーが集まってくる。それでも千颯は集中力を切らさなかった。
曲が終わると「フルコンボだドン」と陽気な声が響く。その瞬間、千颯は「しゃーっ!」と嬉しそうに拳を突き上げた。ギャラリーからもパチパチと拍手を頂く。
良いところを見せられたと満足げに微笑む千颯。しかし芽依の反応は、想像していたものとはまったく違った。
「お兄さん、お上手ですね……」
芽依は引いたような表情で千颯を見つめていた。想像とは真逆の反応をされて千颯は戸惑う。
するとギャラリーの一人が「ガチすぎてキモ……」と呟いた。その言葉を聞いて、自分の行動が逆効果だったことを思い知った。
(やってしまった……)
千颯はがっくり項垂れた。
深いダメージを追ったことで、千颯はつい現実逃避をしてしまう。
(これが
きっと雅だったら「すごいやん! そんな特技あったん?」と目を輝かせながら賞賛してくれる気がする。そう考えると虚しい気分になった。
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