【本編完結】彼女に蛙化現象されたから、クラスで人気の京美人を彼女にして見返してやります

南 コウ

第一部

第1話 別れ話は突然に

「ちょっと待って? 愛未あいみ、いまなんて?」

「だからね、別れてほしいの」


 放課後に彼女から呼び出された藤間ふじま千颯ちはやは、唐突な別れ話に絶句する。驚きのあまり口を半開きにしてフリーズしていた。


 それもそのはず。なにせ藤間ふじま千颯ちはや木崎きさき愛未あいみが付き合い始めたのは、つい昨日のことだったからだ。


「別れるって、なんで急に? 俺、何かした?」


 千颯は過去の記憶を遡る。


 昨日の放課後、千颯はなけなしの勇気を振り絞って、中学時代から片思いをしていた愛未に告白をした。

 中二から片想いをし、高二の春にようやく想いを告げる決心がついたのだ。


 木崎愛未は黒髪セミロングが良く似合う、清楚な見た目の女の子。目立つタイプではなかったが、クラスの男子からは密かに人気があった。


 玉砕覚悟で告白をしたところ、なんと返事はOK。

 「これからよろしくね」とはにかみながらお辞儀をする姿は最高に可愛かった。


 それなのにどうしてこうなった?

 何の理由も告げられないまま、あっさり別れを承諾するなんてできなかった。


 千颯が理由を尋ねると、愛未は冷ややかな表情を浮かべながら答えた。


「なんかさ、急に冷めちゃったの」

「冷めた?」


 冷めたって、昨日の今日で? 愛情ってそんなにすぐに冷めるものなのか?


「冷めたって言っても、俺、とくに何もしていないような……」


 昨日の放課後からいまこのタイミングに至るまで、別れを切り出されるような事件はなかった。


 告白が成功した後は、一緒に下校をして、途中カフェに立ち寄ってから、駅で解散した。この過程でおかしなことはなかったはずだ。


 まったく思い当たる節がない千颯に、愛未は告げる。


「別に千颯くんに何かされたわけじゃないよ。私が色々気になっちゃっただけ」

「気になったって何が?」


 千颯が尋ねると、愛未は大きく溜息をつきながら理由を明かした。


「千颯くん、学校を出てすぐに、なんでもないところで躓いたでしょ?」

「んん? そうだっけ?」

「躓いてたよ。それを見て、カッコ悪いって思っちゃったの」

「かっこ……」


 千颯はグサリとダメージを受ける。心臓を抑える千颯に、愛未は言葉を続ける。


「あとね、帰りにスバタに寄ったでしょ? その時に千颯くん、めちゃくちゃ長い名前のフラペチーノ頼んでたよね?」

「トールサイズのダブルチョコ抹茶クリームフラペチーノ?」

「うんそれ。なんでしれっとカスタマイズしてるの?」

「だって好きだから。抹茶とチョコの組み合わせが最高だよ?」

「通ぶってカスタマイズするのって、ちょっと萎えるんだよね」

「なえ……」


 千颯は再びダメージを受けた。HPは既に半分を切っていたが、愛未はまだ攻撃を続ける。


「それにさ、お会計の時に小銭をじゃらじゃら出してたよね? 十円玉十個で百円作ってなかった?」

「いやそれは、自販機のおつりが全部十円で出てきたから」

「お会計でもたついてるのもダサい。いまどき電子決済でしょ?」

「ださ……」


 千颯はさらにダメージを受ける。もう立っているのもやっとな状態だった。

 瀕死の千颯に、愛未はとどめを刺す。


「極めつけはLIEN。絵文字で赤のビックリマーク使ってたでしょ?」

「普通のビックリマークじゃ味気ないと思って……」

「おじさんっぽくて無理」

「おじ……」


 千颯は息絶えた。そのまま膝から崩れ落ちる。

 地面に倒れる千颯を前にして、愛未は死体蹴りともいえる発言をした。


「そういうのひっくるめて、気持ち悪いって思っちゃったんだ」


 どう考えてもオーバーキルだ。千颯はもはや反応することすらできなかった。


 気持ち悪いという言葉が、脳内で何度も繰り返される。好きな相手から気持ち悪いと言われたことで、首をくくりたくなるほどの絶望に襲われた。


「じゃあ、そういうことだから。さようなら、千颯くん」


 倒れる千颯を一瞥して、愛未は去っていった。


 一人取り残された千颯は、おのれの境遇を嘆いた。


(なんでだ? 俺の行動はたったの一日でフラれるほどのことだったのか? わからない。愛未の気持ちが何一つわからない!)


 乾いたアスファルトには、千颯の涙が染み込んでいった。


◇◇◇


本作をお読みいただき誠にありがとうございます!

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作品ページ

https://kakuyomu.jp/works/16817330659490348839

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