【掌編小説】テーマ:ゲーム、指【練習】
沙路 涼
第1話 ゲームと指
「なあ相坂よ、ゲーマーに大切なものは何だと思う?」
少し離れた席でキーボードを打つ相坂と呼ばれた女性は質問の問い主の方を一瞥してから答えた。
「室長、今それ必要な質問なんですか?」
「必要必要、マジ必要な質問だよ?」
「こんな忙しい時にわけわかんない質問しないでくださいよ。んー、でもしいて上げるなら目が大事じゃないですか?」
「わかってないなお前、指だよ指」
室長は机から立ち上がり少し休憩に行こうと外へ誘い出された。
「でもなんで指なんです?目が悪いととゲームできないじゃないですか」
「まあそれは確かにな、でもたいていゲームにのめり込んでるやつのほとんどが目大切にしてないぞ。限界まで目を酷使してゲームしてさ、目の寿命縮めてるやつばっかだ。だから目は特別に除外だ」
室長はニヤニヤと笑っていた。
「えー、なんかずるいです。しかし、なんでこんな話を?」
まあまあそこにでもかけなと室長に促されたまま座る。ガコンという音ともに自販機で室長が買ってくれたジュースを手渡された。
「実はな、オレ……退職が決まったんだ」
「え?」
手渡されたジュースを落としそうになる。
「原因不明の神経系の病気なんだとさ」
「それって手足が動かなくなるやつですか?」
さっきの指の話とつながる。
「ああ、そうだ。だからもう俺には良いゲームが作れない」
悔しそうな顔が月夜に照らされていた。
「俺は自分自身やりたい物を作ることをモットーにゲームを作ってきた。だがもうゲームをやれないならいいゲームは作れない。」
良いゲームは自分自身が楽しめるゲームだ。自分自身が楽しめないゲームは良いゲームではない。室長が私に教えてくれた在りし日の言葉が思い浮かぶ。
「だがオレにはお前というオレの教えを受け継いで名作を出したゲームプロデューサーの星がいる。だからオレはお前にこの席を譲ろうと思う」
「っ!?わたしはあなたという憧れにまだ全然近づけていません!まだ教えてもらえてないことばっかです!」
自然と涙が込み上げてきて手で顔を覆ってしまう。
「わたしは……貴方の作ったゲームでまだ遊びたいです!遊びたいんです!」
届くはずもない必死の懇願も神は許してくれない。
「すまないな相坂よ、もうオレは指が動かねえんだよ……神経系の病気の進行が早くてゲームもなんもこの体でできなくなっちまった」
「そんな……」
よくみると室長の腕はかすかにふるえていた。
「だからあとは任せた。なんだよ泣くんじゃねえよ」
その震える手は私の頭を優しくなでた。
「わたしが、わたしがあなたのためにゲームを作ります!だから、だから待っててください!」
室長は嬉しそうに笑って
「ああ、楽しみに待ってるよ」
それから室長は1か月後に退職された。
――そして、数年後
「えー、これからフルダイブ型ゲーム、エサカの発表会を行いたいと思います。このゲームを開発された相坂さん、よろしくお願いいたします」
進行役から話を振られたマイクを取り、席を立って軽く会釈をした。
「プロデューサーの相坂です。皆様本日はよろしくお願いいたします」
席を座ると質疑応答は進行し質問の束をぶつけられる。
「えー、ではこのフルダイブ型のゲームを開発されようとした経緯はなんでしょう?」
思わず息をのむような質問が来てしまった
「私には……、私には恩師がいまして、その方がある日ゲーマーに必要なものって何だと思う?って聞いてきたんです」
会場はシーンと静まり返る。
「私は目って答えたんですけど、その方は指って答えまして。でもよくよく考えたら両方大事ですよね?でもそんな大事なものが使えない方もいる。わたしはそんな方にも楽しんでもらいたくて、このフルダイブ型のゲームを開発したんです!」
「それは素晴らしいですね!ではその恩師に言いたいことありますか?」
「そうですね、では……一つだけ。たいへん長くお待たせました室長。任されたもの、超面白く仕上げて見せました!私のゲーム、ぜひ楽しんでください!」
会場から拍手の波が巻き起こった。
「とてもいい言葉ですね、相坂さんありがとうございました!」
――その様子を病室の脇のテレビでベッドから見ていた男性は震える手を布団から取り出し、親指を突き上げてグッドを送った。
【掌編小説】テーマ:ゲーム、指【練習】 沙路 涼 @sharo0826
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