第4話:禁断の取引・悪魔の誓約と絶望の選択

 私の目の前には、信じられない、いえ、信じたくない光景が広がっています。

 大半の矢は、白銀の鎧にはじかれています。

 ですが近距離から放たれた弩の矢の幾本かが、白銀の鎧を貫通しています。


「ワァハッハハハハッハ、ファハッハハハハハハ、アッハッハハハハッハ!

 これでおしまいだよ!

 その矢にはタップリと毒が塗られている、もうろくに動けまい!」


 卑怯者です、どうしようもない卑怯者です!

 たった一騎の誇り高い騎士に対して、矢を使うだけでも卑怯なのに、その矢に猛毒を塗るなんて、王族や貴族が行うことではありません!


「卑怯者、恥知らず、人でなし!

 人質を取ったばかりか、毒を塗った矢を射かけるなんて、それでも王太子なの!

 恥を知りなさい、恥を!」


「おお、心地よい言葉だ。

 善人面、正義に味方を気取る愚か者が口にする負け惜しみほど、心地よいものはない、もっと負け惜しみを口にしろ、嘲笑ってやるよ!

 ワァハッハハハハッハ、ファハッハハハハハハ、アッハッハハハハッハ!」


「神よ、もし本当に神がおられるのなら、何故このような行いを許されるのですか!

 何故天罰を下してくださらないのですか!

 もし今直ぐ王太子を罰することなく、ダニエラを見殺しになされるのなら、もう神など信じない。

 悪魔に魂を売っても、ダニエラを助けて王太子を殺します」


 思っていた通り、何の反応もありません。

 神が天罰を下す事もなければ、奇跡を起こしてダニエラを救うこともありません。

 王太子達が厭らしい笑いを浮かべているだけです。


 このまま何もできずに、ダニエラが死んでいくのを見るだけなんて嫌です。

 それくらいなら、悪魔に魂を売って王太子達に報復した方がましです!


「悪魔よ、魔王よ、私の魂を売り渡します。

 だからダニエラを助けて、王太子達を殺して!

 私の魂では、ダニエラを助けて王太子を殺すのに足らないというのなら、この手でダニエラを助けて王太子を殺せる力を授けて!」


「ワァハッハハハハッハ、ファハッハハハハハハ、アッハッハハハハッハ!

 ついに白状したな、パトリツィア、皆聞いていたな?

 パトリツィアは皆の前で神を罵り悪魔に祈ったぞ!

 もはや言い訳できなくなったな、パトリツィア。

 これでコートネイ公爵家のおしまいよ!」


 怒りで何も考えられない、王太子に斬られた顔が痛い。

 潰れた目が熱を持ってズキズキと痛みます、眼の熱が全身を駆け巡ります。


(よい覚悟だ、パトリツィア、お前の魂からの叫びはわが心に届いた。

 力が欲しくば与えてやろう、だが本当にいいのか?

 このまま死ねば人として生まれ変わることができる。

 だがわれの力を受ければ、人の枠から外れてしまう、それでもいいのか?

 人でなくなる覚悟はあるのか?!)

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