第6話 ティセ子さん憤慨! お金が丸くない!!
「書記、コボルト一族との条約締結書がないか調べてくれ」
「はい、確か見た覚えが……」
書記の人は、背後に見える立派な建物、村の役場に駆け込み、すぐに分厚い書類を持って出てきました。
「ちょうど50年ほど前の資料を虫干ししようとしていた所でした。その中にありました」
すぐに50年前の資料が出てくる辺り、どこぞの自称IT先進国よりも偉いですね。
「え~~と、コボルトコボルト。有りました! 確かに52年前、コボルトの族長グギャと北の小川を境界線とするという条約が結ばれています!」
書記の人がそう言うと、村長さんは思わずうなります。
「おお、なんと! そういう事だったか。50年も前というので、すっかり忘れていた」
そしてティセ子さんたちに向き直ると言いました。
「これは私たちの失態です。実の所、我々にとって村の北側で獲れる獲物には、もうほとんど価値が無いのです。しかし一部の無鉄砲な若者が、遊び半分で出かけていたようです。これからは再発防止に全力を尽くします」
「素晴らしいと思います」
ティセ子さんも満足げに肯きました。
「庶務、コボルト語ができる者を連れて、謝りに行ってくれ。手ぶらではなんだな。肉や野菜、そして新鮮な水も持って行ってくれ。後日、私も正式に陳謝しにいく」
「分かりました、村長。すぐに手配します」
庶務の若者は、さっそく仕事を始めました。
「しかしお嬢さん、よく知らせてくれたね。お嬢さんたちがいなければ、我々はコボルト一族ともっと険悪な関係になってしまうところだった」
「良かったですね」
ティセ子さんは上機嫌で両手をぱたぱたさせています。
「お礼と言ってはなんだが……。おい、会計係」
村長に呼ばれた会計係はなにやら耳打ちされます。そして一つ肯くと、役場に入り布の袋を持ってきました。
「銀貨十枚に銅貨50枚だ。しばらく旅費には苦労しないだろう」
そう言うとティセ子さんとラヴィーさんに硬貨の入った袋を渡しました。
「いえいえ、当然の事をしたまでです」
ティセ子さんはそう言いましたが、せっかくなので硬貨は受け取りました。
「それではお元気で。私たちはもうしばらく村に滞在しております」
「うむ、何も無い所だが、ゆっくりして行ってくれ」
村長さんはそう言ってティセ子さんたちを見送りました。
「よし! クエストクリア!!」
村の広場から出るなり、ラヴィーさんは硬貨の入った袋を掲げてそう叫びました。
「まぁ、私は何もしなかったけどな」
「それもそうですね」
ティセ子さんはそう言いました。ラヴィーさんはティセ子さんに構わず、袋の中の硬貨を確認します。
「銅貨一枚で大体普通の食事一食、500円くらいか。銀貨はその10倍くらいの価値だから、5000円。合わせて75000円というところかな」
妙にこの世界の貨幣価値に詳しいラヴィーさんです。
ティセ子さんも袋から硬貨を取り出して眺めてましたが、なにやら不満げな様子です。眉をひそめて言いました。
「丸くない」
そうです。硬貨は丸くないのです。鋳造技術の限界か、銅貨はいびつな八角形。銀貨は小判型です。
丸い物が大好きなティセ子さんも、これにはがっかりです。
「駄目です。いけません。お金なのに丸くないのは許せません。異世界もまだまだですね」
ぷんぷんです。しかしラヴィーさんはそんなティセ子さんをなだめるように言いました。
「いや、銅貨や銀貨は丸くないかも知れないが、きっと金貨はまん丸だぞ!」
「丸い?」
「そうだ、きっと高額な硬貨ほど丸くなる!」
根拠は無いのですが、ラヴィーさんはそう主張しました。ティセ子さんは納得してくれたようです。
「ラヴィーの言うことももっともです。丸い物は素晴らしいですからね。高額なお金が丸いのは当然です」
何とかティセ子さんは機嫌を直してくれたようです。
硬貨を袋に戻したティセ子さんは立ち止まり言いました。
「良い事をした後はお腹が空きますね」
「お腹空いたねえ」
どこからともなく現れたティルさんが言います。
「お腹空いたわね」
やはりどこからともなく現れたティオさんも言います。
「うわ、なんだ。ポメラニアンにアビシニアン! どっこから沸いて出た!!」
ラヴィーさんの突っ込みにティルさんは考えます。まだ考えます。さらに考えます。ようやく結論が出たようです。
「よくわかんない!」
よく分からないそうです。
「私はふらふら歩いていたら、ティセたちが居たから着いてきた」
ティオさんはそう言いました。
「まったく、いい加減な奴らめ!」
「ティルとティオも一緒になったという事で」
ティセ子さんがそう言い出しました。
「お、なんだ。新しい冒険か!」
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