第12話 日昇権利奪還戦③

知った風に俺を語るな。


今更出てきてなんのつもりだよ。


サポートってなんだよ。


翔は、突然聞こえたハレの声に言い返したい気持ちが溢れた。


しかし。その気持ちを一旦置いた。


いや・・・。違うな。それが俺の駄目な所だったのかもな。


俺はいつもそうだ。


言わなきゃいけない事、言いたい事、何かと理由をつけて言わないで逃げて来た。


だからこそ、まだ間に合うこの状況に全力を尽くさないでいつ頑張る?


十字架の剣の先を化物に向ける。


「俺は・・・斎藤実知佳に、この世界に絶望してる彼女に言いたい事がある・・・。だから邪魔をするな。」


化物はニタニタ笑い、武器を構える。


それが奴等の返答だった。


「わかった。それなら・・・押し通る。」





翔と化物が居なくなった四人しかいない教室。湊が実知佳に歩いて近づく。


「翔君のおかげで邪魔が消えた。これで心おきなくあんたをぶっ飛ばせる。」


見下している人間に舐められた怒りが指先に集まり、湊の握りこぶしが小刻みに震えていた。


「真奈美さん。悪いけど俺も湊と一緒にやるよ。傷塗れの翔が引き付けてくれてんだ。無駄にしたくねぇ。・・・良いよな?」


真奈美は即答できなかった。


夏樹と特に湊からは血の匂いがした。


人間関係を自分の立場や能力で無理矢理都合よく解決してきた匂い。


理由があれば文字通り人になんでもできる人種。


きっと斉藤実知佳に何をするかも想像できる。


暴力や権力で人を縛るのは好きでは無い。


やめて欲しい。


マフラーに包まれた、首を撫でながら思考する。


それでも平和に解決する方法なんて思いつかない。



そんな彼女にできることは限られていた。


「うん。お願い。私もできることは協力する。」


強く夏樹に言い切った。


真奈美にできることと言えば、この場で傍観者にならないように努めるくらいだった。


「・・・・・・ろす。」


実知佳が小声で何か呟いた。


「なに?声が小さくて聞こえないんだけど?」


「殺す。余計なことはもう考えない。私の中にあるのはこれだけだ。」


実知佳が手を挙げる。


すると教室が再び五十人程の化物でにぎわった


状況が元通りになり、三人は恐怖した。


しかしもっと恐ろしかったのは、窓から見えた翔を囲う化物の群れ。


「つまりまた新しく戦力を作り出したのか。翔の周りと教室、全部で百体って所か。」


三人の表情が曇って行く。そんな時だった。三人の頭に聞き覚えのある声が響いたのは。


「すいません。遅れちゃって。こっちにもサポートを届けに来ました!」


ハレの言葉の直後夏樹のバットが、湊の全身が、真奈美の頭が一瞬だけ光を帯びた。


困惑している三人を置き去りにしてハレは声を脳に送る。


「このサポートは

『自分の誇りに私の力を付与する事』

四人全員に同じ強化内容を施しました。これで今までとは変わった戦い方ができるでしょう。それでは、頑張ってください。」


湊がハレの言葉に表情を変えた。


「頑張って下さい。じゃないでしょ!貴方ここにいるなら最後まで協力しなさいよ!」


「なおこの声はビデオレターみたいなものです。会話をすることはできないので悪しからず。」


その情報に湊はチッと舌打ちした。


そうして最低限の情報だけ伝えてハレの声は聞こえなくなった。


「結局あいつは俺達に何がしたかったんだ?誇りに力ってなんだ?真奈美さんわかる?」


「あの口振りから察するに何か私達に力をくれたんだと思う。けどそれをどうやって使うのか全然わからない。」



「誰かと話してた?何を・・・・・?いやもうどうでも良い。今から壊れゆくこの世界みたいにね。じゃあ死んで。」



実知佳の声に合わせて化物が三人突っ込んでくる。


三人ともナイフを持っていて確実に殺しに来ているのが伝わった。


「あいつマジで何も説明しないな!結局何すりゃいいんだよ!あー!もう!」


夏樹がやけくそにバットを振って化物に叩きつける。


ぐにゃ


化物の顔に命中するとバットは顔にめり込んで行った。


妙な手ごたえだった。まるで大きなゼリーを叩いたような感触。


納得いかないまま力を込めて振り切り、化物の顔をエグった。


すると化物の体はブルブル震えて、数秒後破裂した。


「え・・⁉」


「嘘・・・⁉倒した・・・?」


湊と真奈美は硬直した。何度でも再生し復活した化物が再生せずに破裂したのだ。


「だからなに?たった一体倒しただけで。」


残りの二体が夏樹に襲い掛かる。


化物の攻撃を避け一回ずつ顔と頭を叩いた。


顔と頭が凹み二体の化物も同じように破裂した。


夏樹がバットを眺める。


「よくわかんねーけど倒せるなら五十体・・いや百体居ても俺が勝つぜ。もう負け認めてくんねーか?」


余裕そうに夏樹が呟くのを実知佳は黙って聞いていた。


「夏樹君!足!」


真奈美の唐突に叫び声に反応し、夏樹はその場を飛び離れる。


すると夏樹が居た場所から手が四つ生えて来た。


ナイフを持っていた手もあり、真奈美の声が無ければ足を貫かれていた。


「ありがと!完全に気配なかったわ・・・・なんでわかったの?」


「なんか・・・頭に映像が流れて来たの。地面から生えて来た手に、夏樹君の足が刺される映像。もしかしてと思ったから・・・。」


真奈美はハッとした。


「なるほど。説明しなかったのはそういうことか。深く考えなくて良いんだ。」


「どういうこと?」


湊が尋ねる。


「ハレからもらった力は単純なパワーアップだと思えば良い。いつも通り敵を殴る。いつも通り考える。それだけで力を扱える。」


「へぇ…そうなん………ッ!!」


湊の言葉が途切れる。彼女の背後には化物が居てナイフが背中に刺しこまれていた。


「いっ…たいなぁ…!何すんのよ!」


体を後ろに振り向ける遠心力で回し蹴りを化物に向ける。


彼女の足は化物の首を捉え、そのまま頭を吹き飛ばした。


「おい!大丈夫かよ。」


「ごめんなさい。怪我は?」


背中に手を当てる湊に、夏樹と真奈美が近寄る。


「なんで真奈美さんが謝るのよ。大丈夫…うん。本当に大丈夫なのよ…全然痛く無いし傷もついてない。……なんで?」


湊が蹴り殺した化物の亡骸を見て、真奈美が答える。


「多分、これがハレの力なんだと思う。夏樹君はバットの強化、金沢さんは全身の強化、そして私は思考能力の強化が行われてる。」


「誇りにハレの力を付与するってそういう事だったのね。てことは夏樹。あんたバットが誇りなの?野球でもやってたの?」


「やってねーよ。俺もよくわかんね。もしかしたらそれも適当なんじゃねーか?てかそういう話なら湊は自分の存在が誇りって事になっちまう。」


「そうだけど?」


「・・・そうかよ。実は四人の中で一番強いのはお前かもしれねーな。」


「流石にあんたの方が強いでしょ。それに翔くんもかなり強いと思うし結局男の子には勝てないよ。」


「そういう意味じゃ…まぁいいや。そんで真奈美さんどうする?」


「不意打ちの対処は全部私がやる。二人は好きに動いて良いよ。これで勝てるから。」


突破口を見つけ、三人の目にゴールが映ったように見えた。


「いつもそうだ。この世界が味方するのはお前らみたいな優秀な奴ばかりだ。」


パワーアップし、希望に満ち溢れた三人をみて実知佳は反吐が出た。


「世界が挫折も絶望も教えずにお前らを甘やかすなら私が教えてやる…新しい世界のトップとして…」


教室中の化物が三人に向かって、容赦なく襲いかかった。






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