第2話 怪しい事務所とグラサンの人

 ん…?なんか思ったより大きいし綺麗な事務所…?だな。


 槙野まきのさんが事務所に入るなり大きな声で誰かを呼びつける。

 それにダルそうに答える低い男の声が聞こえた。


拓人たくと!ちょっといい?」

「なんだよそんなでかい声出さなくても聞こえてるよ」

「スカウトしてきたわ」

「お前スカウトはすんなって…お?」


 槙野さんが話しかける先にはグラサンにオールバックに髭を生やした四十代くらいの男の人がいた。

 グラサンを下にずらして睨みつけられる。

 怖い…。


「ほお?………よし客間に案内しろ」

「ちょ、ちょっと!」


 めちゃくちゃ強引だし本当に怖い‼︎

 もしこれが詐欺かなにかだったら…。


『うちの秘密を知っちまったら帰すわけにはいかねえなぁ…?』

『今すぐ一千万円よ。そうしたら見逃してあげるわ』

『ひえ〜!』


 なんてことに…⁉︎


「ごめんなさい‼︎」

「は?」

「え?」

「お願いですおうちに帰してください!穏便に…穏便に済ませてくださいな〜〜…お金は持ってないんです…」

「なんの心配をしてるか知らないけど、大丈夫よ。あなたはまだ学生よね?やるとしたら読者モデルの仕事よ」

「ど、読者モデル…?」

「まあアルバイトみたいなものよ。とりあえず今日は説明だけさせてもらうから、身構えないで頂戴」


 詐欺では…ない…?


「奈緒、変なヤツ連れてきたな」

「面白い子でしょ」


 馬原拓人まはらたくとさん。

 この赤輪あかわプロモーションという芸能事務所で採用担当をしている、なんかすごい方らしい。

 説明を受けたところによると私は読者モデルとしてスカウトをされたようだ。

 そして私にその気があればオーディションに参加して本当に読者モデルとして活動してほしい、と。


「とまあ、こんなとこだな。書類は渡しとくわ」

「やるかやらないかは憂希美ゆきみちゃん次第だけど、どちらにせよ一報は頂戴ね」

「…モデル」

「もう一度言わせてもらうと、あなたは絶対に輝ける。私が保証するわ」

「もう少し、考えさせてください」

「ええ。待ってるわね」


 無事何事もなく解放され、家に帰った。

 絶対お金取られると思った。

 頭の中は何も想像がつかないようなモデルの想像ばかり。

 …ってもちろんモデルの仕事なんて何もわからない。つまり、何も考えられてない。

 私に出来るのかな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る