美桜とクリスマス 2018/12/23(Sun)

「ねえ、お姉ちゃん? 私、本当に邪魔じゃない?」

「邪魔じゃないってば。女の子同士で付き合うってそういうのじゃないの」


 何度も言ったのに不安がる美空を元気づけながらリビングを飾り付ける。

 折り紙で輪っかを作ったりといった「いかにもな手作り装飾」を一緒に作っていると、妹もだんだんノってきたのか笑顔になった。


「美空にも料理、手伝ってもらうからね?」

「うん、なんでも言ってね?」


 最近はお姉ちゃんよりも美空のほうが戦力になり始めている。

 というか、下手すると数年後には我が家の食を一手に引き受けてもらうことになるかもしれない。

 ちなみにお姉ちゃんはというと、湊の家にお泊まりである。ケーキとか買って向こうで料理をご馳走になる予定らしい。

 湊のお母さんはパーティの後片付けが終わったら友達と飲み明かす予定だとか。

 親のフットワークが軽いのはこの世界のいいところ──なんて思うのは、わたしもこっちの流儀に染まってきた証拠だろうか。

 お姉ちゃんも彼氏に「お弁当作って」とか言われればやる気になりそうな気がするけど……今のところその気配はない。

 と。

 飾り付けが一通り終わったあたりでチャイムが鳴り、恋と玲奈が連れ立ってやってきた。その後ろには小百合さんもいる。


「メリークリスマス、美桜ちゃんっ!」

「こんばんは。美空さんも、本日はよろしくお願いします」

「はいっ。メリークリスマスです、恋さん、玲奈さん」


 クリスマスだからではないだろうけど、恋は赤系のコート、玲奈は白いコート姿だった。

 下に着ている服もいつも以上に気合いが入っている。


「二人とも今日はいつもより可愛いね」

「美桜ちゃんだって気合い入ってるじゃない」

「そうかな? そう見える?」

「ええ。美桜さんがマニキュアをなさっているのは珍しいですし」


 前に教わって以来、たまに挑戦しているけれど学校ではできないし、なかなか外でやる勇気がなくて二人に見せたのは数えるほどだ。

 でも今日は色合いこそ控えめながら爪も飾っている。


「美桜様、本日は準備のお手伝いとして存分にお使いくださいませ」

「ありがとうございます、小百合さん。でも、小百合さんもちゃんと楽しんでくださいね?」


 恋も料理上手だし、小百合さんもいてくれるとなればむしろ戦力過多なくらいだ。

 我が家のキッチンは広めだけれどさすがに三人も入れば定員いっぱいだ。


「うーん……もしかして美空には玲奈の相手をしていてもらったほうがいいかも?」

「美桜さん。それではわたくしが戦力外のようではありませんか」


 頬を膨らませる玲奈だけど、うん、まあ、わたしや恋に比べると慣れてないのは間違いない。


「まあまあ玲奈ちゃん。五人もいると逆にやりづらいよ」

「そうそう。ほら、クラッカーにいろいろ載せたりとか、リビングでできる調理もあるから」

「玲奈さん。一緒にお手伝いしましょう?」


 こう言って説得すると機嫌を直して「かしこまりました」とやる気になってくれた。


「えへへ、美桜ちゃんとお料理するのも久しぶりっ」

「うん。なかなか『みんなで料理しよう!』ってならないもんね」

「だよね。一緒に住めたらもっとお料理できるのになあ」


 楽しそうだけど、中学一年生で同棲とかさすがに進みすぎじゃないだろうか。


「ふむ。美桜様と恋様はお嬢様と婚約なされたわけですから、既に当家の一員も同然。アイドル活動も始めることですし、共同生活を行える『家』が必要かもしれませんね」


 と思ったら小百合さんがなんだかすごいことを言いだした。


「小百合さん。婚約はちゃんと手続きじゃないって言ってましたよね?」

「それはそれ、これはこれです」

「その手がありましたか。……帰ったらお母様に提案してみましょう」

「玲奈まで!?」


 家一軒建ててもらうとかさすがに申し訳なさすぎる。

 わたしのお給料でもぜんぜん足りないと言って恋を味方につけ、思いとどまってもらおうとするも、


「では、我が家がいったん肩代わりした上で三十年の分割払い、利息なし、滞納も可、三人で等分して支払うということでいかがでしょう?」


 頭の中でひーふー、と計算したわたしはちょっとだけ「なるほどそれなら」と思ってしまった。


「それは良い考えですお嬢様。将来婚姻を結べば皆様の共有資産になるわけですから、実質的に西園寺家が大部分負担したとしてもなんの問題も」

「ありますってば!」

「そうだよ! すっごく楽しそうだし便利そうだけど!」


 実際には家事の問題とかもあるからそんなに時短にもならないと思う。

 いや、玲奈が一緒に住むなら小百合さんも来てくれるだろうし、普段の料理や掃除はお願いできちゃったりするんだろうけど。

 どうせなら叶音も一緒に住めば実質寮みたいなものだし、ちょっとお金を追加してレッスンルームを作ればものすごくいろいろ捗る──。

 やめよう。あるところからお金を引っ張ればいい、みたいな考え方をするとキリがなくなってしまう。


「もう。みんな、馬鹿なこと言ってないで料理の続きするよ?」

「はーい」

「仕方ありませんね」


 などと言いつつも夕方にはなかなかに豪華なメニューが完成した。

 恋が買ってきてくれたチキンも美味しそうだし、その他にポテトのグラタン、ポタージュにパエリア、野菜サラダ、カナッペ等も用意した。

 小百合さん以外は未成年なので飲み物はジュースで。

 グラスに炭酸を注ぐとそれでもけっこうそれらしい。

 後は玲奈の用意してくれたケーキを切って、みんなで「せーの」で。


「メリークリスマス!」


 かなり多めに用意した──食べきれなければ冷蔵庫に入れておいて我が家の朝ご飯にすればいいと思っていた料理もけっこうなスピードで減っていって。

 女の子ばかりなので会話も尽きない。

 みんなで喋って、笑って、美味しい食事を楽しんだ。


「どうしよう。これじゃすぐ帰る時間になっちゃうよ」


 恋が可愛い悲鳴を上げるので、わたしは「こんなこともあろうかと」と答える。


「二人に泊まってもらう準備もできてるよ」

「ですが、美桜さんは明日お仕事なのでは?」

「そうだけど、お母さんも帰ってくるし美空もいるし、二人の朝ご飯くらい出せるよ」

「私も夜はみなさんのお邪魔しませんから!」


 美空が真顔で拳を握ると、二人は嬉しさと恥ずかしさが半分ずつ、みたいな顔をした。


「小百合」

「お帰りが遅くなられましてもお送りできる体制は整えております」


 運転のために小百合さんもお酒は飲んでいない。


「お帰りになられるかどうかは存分に楽しまれてから決められては?」

「……そうね。そうなると十中八九、泊めていただくことになるけれど」

「わたしは大歓迎だよ」


 というわけで、クリスマスパーティは延長戦に。

 いつ交換しようかとタイミングを見計らっていたプレゼントも取り出し(もちろん美空と小百合さんのぶんも用意してある)みんなで渡し合った。

 楽しい時間。

 幸せなクリスマスが過ごせたことを神様に感謝しないといけない。


 あれから、大きなトラブルは起きていない。

 学校の同級生や先輩が何人か、わたしのあらぬ噂を立てたり露骨な嫌がらせをしてきたりはしたけれど、あまりに露骨すぎて周りを巻き込めず被害は拡大せず。

 梟森先輩と玲奈のコンビが「あの子に手を出すってことは……わかってるよな?」的なオーラを放ってくれたこと、元凶である男が記憶を失いわたしへの攻撃性を放棄したこともあってすぐに収束した。

 話を聞いてみたところ、優しくしてくれたイケメンに「やれ」と言われただけでわたしに恨みがあったわけではないらしい。

 わたしとしてもそのくらいで目くじら立てる気はない。

 せっかく玲奈たちと仲直りできたんだから、もっと幸せを噛みしめたい。


 交代でシャワーを浴びた後は三人でわたしの部屋に。

 お姉ちゃんの部屋を借りたり客間を使ってもらうこともできたけど、二人が一緒がいいと希望したからだ。

 いや、うん、別にえっちなことをするためじゃない。

 美空もいるわけだし。さすがに変な声を上げるわけにも……恋たちもわかってるよね?


「今年ももうすぐ終わりですね」


 夜の静けさに包まれながら玲奈が呟けば、恋が天井を見上げて「そうだね」と微笑む。


「来年はどんなことがあるかなあ」

「きっとあっという間の一年になるよ」


 わたしたちのアイドルユニットは承認され、来年一月には正式に玲奈たちも事務所所属となることが決まった。

 お仕事にレッスンにと本当に慌ただしくなるだろう。

 でも、


「みんなと一緒なら、きっと楽しくなるね」

「うんっ、私も楽しみ」

「そうですね。来年も、再来年も、ずっと一緒に」


 わたしたちは一つのベッドで抱き合うようにして眠った。

 シングルのベッドで三人眠れるのは今のうち。もしかしたらそろそろ最後かもしれない。

 それでも、わたしは。わたしたちは。


 今日のある幸せと絆を噛みしめ、明日を迎える。

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