【番外編】『元』美桜は監禁青年になった
目が覚めるとまず、独特のにおいに顔をしかめた。
男子になってからは嗅ぎなれたにおい。
身を起こしたわたしは、自分が男なのをまず確認した。すらっとしてるけど痩せてはいない、けっこう綺麗な身体。
全裸だ。股間のそれは朝特有の状態だけどちょっと元気がない。昨夜いっぱい出したんだろうな、と、ベッドにこびりついた染みを見て思った。けっこう多い。一対一ではこうならないんじゃないかと今までの経験から判断。
見た感じ男の子の部屋だ。
室内には他に誰もいない。本棚の様子や服の感じからすると大学生? 姿見がないのでちゃんとは確認できないけど背も高くてなかなかイケメンっぽい。
なんかいい感じっぽいけど、わたし、入れ替わりたい男の子と入れ替わったんだよね?
スマホのスリープ状態を解除して日付を確認。
七年、巻き戻ってる。ううん、元の世界に帰ってこれたんだ。よしっ! と声を出しそうになって、まだ状況がわからないからと我慢する。
ロックは指紋認証で突破してホーム画面を開く。とりあえずブラウザとグループチャットと──とチェックしてみて、わたしは違和感を覚えた。
グループチャットに登録されているメンバーが異様に少ない。
というか新しいメンバーを探して登録する画面さえ出てこない。……機能が制限されてる? ネットで検索できる情報も少なくなっている感じがした。
窓も南京錠と鎖で封じられていて、鍵がないと開けられない状態。
代わりに空調はついているみたいだけど……わたしはなんとなく自分の状況がわかってきた。
軟禁、もしくは監禁。
入れ替わった先のあの世界だとたまにそういう事件も起こっていた。元の世界、つまり今のこの世界だと重罪だからあんまりやる人はいなかったけど、それでも絶対にない話じゃない。
わたしだって、もう少し成長していたら湊くんとかを相手に検討していたかも。
男の子を家に閉じ込めてえっちなことし放題。……うん、わたしには「えっちできるんならいいじゃん」としか思えないけど、回数が辛かったのかな? それとも不細工だった? このあたりは会ってみないとわからないか。
あんまり調べものばかりしていると時間が経ちすぎてしまいそうなので、わたしは部屋のドアへと歩み寄った。
「あれ?」
鍵が壊されてる。てっきり厳重になってると思ったんだけど、そうか。立てこもられないようにしてるんだ。鏡がないのは割って凶器にされない工夫。他にもはさみとかそういうものも見当たらない。
向こうで女の子と付き合っていると「死んでやる!」みたいな事件もあったのでこういうのにも気づけるようになった。
となると今のこの子はそこまで思いつめていたのか。
身体に傷はないから暴行は受けていないはず。それならたぶん大丈夫か、と思いつつ外に出ると、いいにおいがした。
マンションだ。
広くて清潔感がある。お金持ちとかむしろ勝ち組み──後ろから柔らかい感触。
「あら、もう起きたの? さすが、男の子は元気ね」
さらにリビングの方からも気配がして、
「お兄様、おはようございます。お目覚めのご奉仕はいかがですか?」
キッチンで料理をしていた女性も顔を出した。
「おはよう。もうすぐご飯できるから、たくさん食べて精をつけなさい」
いや、普通に美人じゃん。これ、ただの勝ち組じゃん。
思いながら、わたしはこてっと首を傾げて尋ねた。
「あの、どちら様ですか?」
「は?」
「え?」
「ええ?」
記憶喪失の状態だと女たちは理解したようだった。
朝からお肉多めのしっかりした食事(わたしの分だけで女たちはもっと量少なめ)に舌つづみを打ちながら、わたしはどうやら家族らしい女たちの相談を聞いた。
「どうしましょう……。やっぱり相当ストレスだったのかしら」
「お兄様だってたくさん気持ち良くなっていらしたのに」
「けれど、これは逆にチャンスなのでは?」
聞こえてますよー、と思いつつ便利なので指摘はしない。
「あのね? あなたは私たちにとって大切な王子様なの」
「お兄様には私たちとセックスする役割があるのです」
「生活のことは私たちが全部やってあげるから、あなたはこの家でのんびり暮らしていればいいの」
状況説明、という名の洗脳。
近親相姦とはまたすごいことを。しかも母、姉、妹の三人がかりだ。
「あ、血は繋がっていないから安心してね?」
嘘つかないでくださーい。
いや、三人の性欲の強さを考えると本当に血が繋がってないんだろうか?
わたしはツッコミを入れたい衝動を抑えつつ「そうなんですね」と頷き、向こうの方針に合わせることにした。
別にセックスするの嫌いじゃないし。
近親相姦はアレだけど妊娠するのは向こうでわたしじゃない。実の肉親を監禁して長期間にわたってレイプとかどう考えても捕まったらまずいのは家族のほうだし。して欲しいならいくらでもしてあげればいい。
でもまあ、小さい頃から家族に性欲を向けられて歪んだ教育を受けさせられて、いつからか部屋からも出してもらえなくなったんじゃ本当のこの身体の持ち主が病んで「死のうかな」ってなっても仕方ないか。
食事の後、家族はそれぞれ用事があるらしく出かけていった。
確認してみたけど窓はがっちがちの防弾だし玄関は二重ロックで鍵がないと外に出られない仕様。全ての部屋に監視カメラが仕掛けられていて下手な行動もできない。
わたしでさえ「うわあ、そこまでする?」とドン引きである。でもまあ、本気で監禁調教とかしようとしたらこのくらいは当然必要か。
とりあえずわたしには差し迫った問題じゃないしスルー。
暇な時間に「香坂美桜」について検索してみると……まあなにも出ないかな、と思いきや出るわ出るわ。
『mioは日本のモデル/声優/俳優/マンガ原案者。姉はモデルの香坂美姫』
は? なにこの肩書き?
イラっとしたわたしはスマホを床に叩きつけかけてギリギリで止めた。新しいの買ってもらえるかわからないし。
っていうか、二年ちょっとでどうやったらこの肩書き手に入れられるの? 中身ただの男子高校生だよね? しかも童貞の。
調べてみた経歴はわたし自身がやってもこうはならないと思えるもので、理不尽すぎる状況にわたしは本気で「燕条湊」に怒りを覚えた。
しかもあいつは恋、玲奈と付き合っているらしい。
名前までは出て来なかったけど「幼馴染の女の子二人」で他にいるはずがない。なに勿体ないことしてるの? 美少女モデルなら男の子の一人や二人寄ってくるでしょ。っていうか恋たちはわたしが落とすつもりだったのに余計なことしないでよ。
「うん、よくわかった。わたしの身体を奪って好き放題してくれた恨みは絶対晴らしてやる」
あいつだけは絶対に許さない。
恋も玲奈も他の女の子も全部寝取って絶望させてやる。その上で奴隷として利用してやるのも面白そうだ。
そのためにはまず、
「家族全員、調教し直してわたしに逆らえないようにしよっと」
家族としかセックス経験ない受け身男と一緒にしないでほしい。
わたしは経験豊富だし、テクもいろいろ知ってる。落とすこと自体はたぶん難しくない。
まあ、時間はかかっちゃうだろうけど。
「千里の道も一歩からだよね。こっちの世界に帰ってこれただけでも御の字だし」
こうしてわたしは新たな戦いを始めることにした。
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