美桜と将来の夢(その4) 2017/6/26(Mon)

「美桜さんのアカウント、賑わっていますね」

「ねー? フォロワー数増えてると私まで嬉しくなっちゃう」

「ありがとう。わたしも時々確認してニヤニヤしちゃう」


 嘘です。

 正直、一日に何度もチェックしちゃってます。

 あれからさっそく始めたつぶやいたー&リンスタへのボイス投稿。

 反響は上々で、いいねやコメントもけっこうついてくれている。ボイスを聴いた人からのフォローもあって嬉しい。


 投稿を始めてから一週間と少しが経った月曜日の休み時間。

 恋と玲奈が話題に出して褒めてくれた。


「あれって部屋で録ってるの?」

「うん。無料の短いのだしそれで十分かなって」


 もちろん生活音にはなるべく気を使っている。

 スマホのスピーカーに口を近づけて録音すればノイズはそこまで気にならない。

 おかげで毎日のように新しいのを投稿できていた。


「今度はこういう台詞やって欲しいとかリクエストも来てるよね?」

「そうそう。ネタがなくなると困るからありがたいよ」


 全部採用できるわけじゃないけど、使えそうなのはネタ帳にコピペして残している。


「ですが、リクエストの選別は重要かと。中には邪な目的の方もいらっしゃるでしょう?」

「あー。ちょっとえっちな台詞を書いてくる人ね。あれはちょっと困るかも」


 この世界だと中の人はおっさんじゃなくて女性のはずだけど、だからOKというわけでもない。

 小学生ということもあるのでエロに手を出すわけにもいかず、いまのところは反応せずスルー。続くようならブロックやミュートも視野に入れようと思う。


「小学生でこういうことしてる子が珍しいからかなあ」

「美桜ちゃんが可愛いからじゃないかなっ?」

「美桜さんは顔出しもされていますからね」


 読モとして名前を売る上でこれは避けて通れない道だ。

 代わりにSNSで顔出しして釣る──もとい、知名度を上げる手段も使える。

 身バレ防止に関しては地域性のある話題や写真をアップしない、行った場所のつぶやきをすぐに投稿しないなどで対応する。

 っていうか、今の僕の肩書きは現役小学生読者モデルにして声優志望ということになるのか。

 自分で言うのもなんだけどなかなか特殊な存在である。


「ファッション関連の投稿も続けていくのでしょう?」

「もちろん。読モもやめたわけじゃないし、どうせお洒落は必要だもんね」


 女子になって一年以上。

 ファッションの重要性は痛感している。男が少ないせいもあるとはいえ、女子という生き物自体、かなりお洒落に比重を置いている。

 適当に買った安物の服を着まわし続けるとかだと社会からの評価が大きく落ちる。

 お洒落にあまり興味のない人でも「ある程度」の身嗜みは必要で、そのある程度が男子に比べて大変なのだ。


 玲奈は「良い心がけです」と微笑んで、


「続けていけば美桜さんの知名度も上がっていくでしょう。わたくしたちで独占できないのは少々不服ではありますが」

「美桜ちゃんが有名になって活躍するのはいいことだもんねっ。私たちも自慢できるし」

「ありがとう。恋と玲奈とはこれからも友達だし、頼りにしてるから」


 SNSでの宣伝がわりと上手く行っているので、頃合いを見てもう一つ新しいことを始めるつもりだ。


 最近始まったばかりの「クリエイター向け投げ銭サービス」。

 要するにプロ・アマチュア問わずクリエイターが直接ファンに依頼を募集できるサイトだ。ボイスにも対応しているので、ファンからの「お金を払ってでもこの台詞を読んで欲しい!」という希望を叶えられる。

 声優志望のまま、一足飛びに「お仕事」をした実績を積み重ねられるシステム。

 アマチュアで声を売るということで「同人音声」という形も考えたけれど、これは編集の手間とかがけっこうかかる上にえっちなのが主流なのでいったん様子見。もうちょっと大きくなってから、例えば中学に入ってからとかでも遅くないだろう。


「しゃべるだけでお金になるの? すごーい!」

「恋もやってみる? あ、でも、わたしたちは未成年だからお母さんにお願いして登録手伝ってもらわないとだよ?」


 お金のやり取りがある以上は口座の登録とかも必要になる。

 当然、どういう活動をしているかは親にも筒抜けになるわけで、


「なにそれすっごく恥ずかしいよ!?」

「あはは、だよね。うちはお母さんがそういうの緩いから大丈夫だけど」

「芸能一家ですものね」


 美空が芸能の道に進んだら本当にそんな感じだ。

 あの子は頭がいいからいくらでも進路を選べるだろうけど。


「……ですが、そうですか。美桜さんがそんなサイトに登録を」


 なにやら考え込むようにする玲奈。


「もちろんえっちなリクエストとかはお断りするよ?」

「ええ。美桜さんですからその点は心配しておりません。ファンの要望がダイレクトに伝わるシステム、素晴らしいと思います」


 冷静な玲奈からの思った以上の好感触。

 これはいけるかもしれない。

 僕はそれからさらにしばらくが経ってボイスの知名度も上がってきたのを見計らってお母さんに相談し、投げ銭サイトへの登録を正式に許可してもらった。

 これで登録しようと思えばいつでもできる。

 あと必要なのはユーザーページに表示する画像。つぶやいたーのアカウント画像がそのまま使われる仕様で、今は暫定的にシマエナガのぬいぐるみを使っているけど、女性声優として売っていくのなら女の子の画像のほうがいいだろう。

 自分の写真?

 小学生女子の画像とかなんかいかがわしくなりそうだから却下。

 こういう時はイラストにしておくほうが無難だ。

 かといって僕に絵心はないので、誰か上手い人に頼むことになる。


 それこそ投げ銭サイトで描いてもらうか、そうでなければ知り合いにお願いするか。

 知り合いで絵の上手い人。

 一人、思い当たる人がいた。友達のお兄さんでプロのマンガ家。


「いいよ」


 お兄さんはあっさりとOKしてくれた。


「ありがとうございます。あの、お礼はいくらぐらい……?」

「別にいいよ。友達だし」

「そういうわけにはいきません。プロになった以上、こういったことはきちんとするべきだと思います」

「でも年下の女の子からお金を取るのもなあ」


 少し考えたお兄さんは「じゃあ、こうしよう」と言って、


「俺の名前の宣伝にもなるから相殺ってことで」

「わたしのアカウントで宣伝した程度じゃ足りませんよ」

「でも美桜ちゃんって身内じゃん。原案だし」


 よくわからない言い合いをした結果、担当編集の人にも相談、


「mioさんのアカウントですし、ヒロイン似のキャラを描いてはいかがでしょう? それなら宣伝効果も上がるかと」


 編集部側としてもmioとマンガの関連をさらに印象付けられる。

 そういうことなら、と僕はしぶしぶお兄さんへのお礼を断念。代わりにアシスタントをまた少しだけど手伝った。

 そうして開始した投げ銭サービス。

 そうそうリクエストなんて来ないよな、と思っていたのも束の間、始めてから一日も経たずにリクエストが入った。


『初めまして。毎日mioさんの声に癒されております。

 突然のお願いで恐縮ですが、囁くように「お姉様」と呼んでいただけないでしょうか。

 よろしくお願いいたします』


 なるべく安くしようとワンコインに設定したとはいえ、お仕事はお仕事。

 レッスンの日に合わせて防音室で録音して納品するとその日のうちにブースト(お礼代わりの追加)がかかった。その人はそれ以来常連となり、僕の知名度アップに貢献してくれたのだった。

 親友と同じハンドルネームなのもなにかの縁か。


 ありがとう『rena』さん。

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