第14話 舞台裏
〈シンヤ様の配信見た?〉
〈あの人また、ひと睨みでモンスター追っ払ってたな〉
〈そんなことより、あれだけ偉そうにしてたムトウたち情けな過ぎだろwww〉
〈泣いてたwwwww〉
〈いや、あれは俺でも泣く。シンヤ様、怒るとマジで怖い〉
〈あいつらあのあと、自分たちで協会に行ったらしいな〉
〈あれで無視してまた配信なんてしてたら、今度こそシンヤ様にボコられるだろw〉
〈サクちゃんの為に怒ったシンヤ様かっこいい! これは惚れる!〉
〈俺も惚れる〉
〈お前は惚れんなw〉
〈でも、協会もいつまでもほっとかないよな、絶対〉
〈深層の探索もただでさえ進んでないんだし、強い奴は何人いてもいいからな〉
〈じゃあ俺らのシンヤ様も遂にSランクか。感慨深な〉
〈誰だよお前は〉
〈またトレンド1位シンヤ様じゃん。お前ら語りすぎだろ〉
〈シンヤ様のチャネル登録伸びすぎだろw 昨日まで10万だったのに、今もう30万wwww〉
〈これ明日には50万いくかもなwwww〉
〈サクちゃんとコラボして欲しい〉
ありとあらゆるSNSで、シンヤについての話題が飛び交う。一時的とは言え、シンヤの配信は同接数が20万を超えており、多くの注目を集めた。更にその配信が無許可で勝手に切り抜かれ、多くのサイトで拡散されている。
ムトウたちが泣きながら土下座した映像は加工され、ネットのオモチャになってしまった。それもまた、配信者が抱える問題の1つだ。
「あー、疲れた……」
そんなネットの騒ぎなんて気にする余裕のないシンヤは、あれからすぐに配信を切って、真っ直ぐ家に帰った。そしてそのまま、ベッドに倒れ込む。
「あそこで殴られなくてよなったー。あいつらがもうちょい考えなしだったら、恥をかいてたのは俺の方だ。あー、しんど」
終始、余裕で冷たい表情を心がけていた慎也。けれどそんなのは無論ただの演技で、内心は緊張と恐怖でいっぱいだった。
「向こうは4人だし、普通に喧嘩すりゃまず勝てない。それに、モンスターが迫ってきた時とはマジでビビって黙っちゃったし……。あー、胃が痛い……」
ショウタから貰った『呼び声の鈴』。それを使って、ムトウたちを追い込む。その作戦は、ダンジョンに向かっている最中で思いついた。
ショウタの時は上手くいったんだから、多数のモンスターにも『威嚇』が有効なことは分かっていた。あとはムトウたちが、本当にサクラコたちにモンスターをけしかけたのか。それを確認し、もし本当に犯人なら彼らの心を追い詰める必要があった。
一度の『威嚇』で、確実に心をへし折る為に。
「ちゃんとできてたかなー。目つきの悪さには自信があるけど、台詞とかは格好つけすぎたかもな」
30回くらい心の中でゲロを吐きながら、なんとかやりきった慎也。しかし今回は今までと違い、後悔はない。巻き込まれたのではなく自らの意思で、『威嚇』を使った。不安もあるが、それより清々しさが優る。
「俺って元は短気だからな、気をつけないと」
怒ると、考えなしで行動してしまう癖がある慎也。ショウタや忍子に偉そうなことを言っておきながら、本当は彼が1番頭にきていた。女の子の前だから格好つけたいとかではなく、ただ単純にサクラコ……美香子が泣いている顔を、あれ以上見たくはなかった。
「つーかこれでまた、ボロを出せない理由が増えたな」
ここまで騒ぎになった今、実は本当は弱いなんてことがバレたら、きっとただでは済まないだろう。もしかしたら、ムトウたちが仕返しに来るかもしれないし、そうでなくても同じような連中が嗤いに来るだろう。
「……今は考えるのはよそう」
疲れたように息を吐き、思考を切り替える。
「あー、やばい。そういや、大会おじゃんになったから、俺Fランクのままじゃん」
今更ながらに気がついて、絶望する。協会が急に制度を変えたせいで、Fランクのままだとろくにキノコ狩りもできない。キノコ1本で生きていくと決めたのに、このままだと食べていけない。
「次の大会は……1ヶ月後、か。まあまだ貯金はあるし、しらばらくはいいか……」
ベッドの上でゴロゴロと現実逃避。ネットがどんな状況になっているのか気になるが、今は怖くて見れない。もしかしたら配信を見たショウタたちから連絡が来ているかもしれないが、それも見る気は起きない。
「あーいや、連絡先は教えてないか」
美香子にはどうしてかこの家の場所を知られてしまっているが、流石にしばらくは動けないだろう。……でも、落ち込んでいたようだから、美香子とはもう一度話をしておきたい。励ます気はないが、気にするなと伝えてあげたい。
慎也は小さく息を吐く。
「もう少し落ち着いてから、お見舞いに行くか。流石にこのまま放置するのは、薄情だからな」
気だるげに呟いて、目を瞑る慎也。しかし、そのまま眠らせてくれるほど、世界は優しくはなかった。
ピンポーン、とチャイムの音が響く。
「…………」
何があっても絶対に起きないぞ、と覚悟を決めて、目を瞑り続ける慎也。けれど、一向にチャイムの音が鳴り止む気配はない。ピンポーンピンポーンピンポーン。
「……くそっ、出ればいいんだろ、出れば」
どうせ配信を見たショウタたちが、美香子からこの家の場所を聞いて駆けつけて来たのだろう。そう思い、諦めて玄関の扉を開ける。
「………………は?」
けれどそこに居たのは、見覚えのある全く別の少女だった。
「やほっ、リノンだよ。……なんてね。こんにちは、慎也さん」
「……え? なんでリノンが、俺の家に……」
チャンネル登録者1000万人を超える、日本で1番有名なダンジョン配信者。Sランクのリノン。そんな彼女がどうしてか慎也の家にやって来て、可愛らしく白銀の髪を揺らして笑う。
「貴方のその特別なスキルについて、少し話がしたいの。……いいよね?」
その言葉を聞いて、『ああ、遂にバレてしまった。全て終わった……』と慎也は心の中でゲロを吐いた。
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