シスコン探索者は今日も惰眠を貪る

雪兎

プロローグ

 2046年10月8日午前未明、世界各地で唐突にダンジョンが現れた。

 街中に、山中に、神社に、教会に、あらゆるところに突如出現した。ちょっとした祠や洞窟が、地下街やビルが、世界遺産がダンジョンへと変貌した。


 世界は混乱に陥った。

 なにしろ異世界のファンタジーのような空間がいきなり現れたのだ。既存の物理法則で説明できない空間、現象、気候。そして、ダンジョンの中に蔓延る異形の怪物。それこそファンタジーに出てくるものから、地球上の動物が変化したもの。神話上の怪物から、妖怪と言った魑魅魍魎、空想上の生物が多く跋扈しているのだ。

 まさに何でもありというダンジョンに人々は恐怖した。


 ダンジョンの中では重火器といった文明の利器はなぜかモンスターたちに効き目が薄かった。人類の最先端の武器が効かない事態に各国の政府はダンジョンを完全に閉鎖して管理しようとした。

 しかし、全てのダンジョンを管理することはできない。興味本位でダンジョンに入っていく人はいる。彼らは自らを探索者と名乗り、ダンジョンの最奥を目指して様々な検証を行っていく。そして、斧や剣、槌といった武器がモンスターに効果があることが分かっていく。


 ダンジョンが出現して一ヵ月ほどたったころ、ダンジョンに潜っていた人々に変化が起こっていた。

 彼ら探索者たちはみな等しく、明らかに人間離れした身体能力を手に入れたのだ。

 そして、その中には一部まさに超能力のような力を使える人が一定数いた。ある者は炎を意のままに操り、ある者は念動力のように物を浮かせ、ある者は異空間に物を出し入れできるようになっていた。


 ダンジョンができて三ヵ月が経ち、世界中の混乱もある程度落ち着くと多くの国の協力のもと世界探索者組合というものが作られた。

 組合は世界各国のダンジョンと世界全ての探索者を管理下に置いた。ダンジョン内はどの国にも属さないことになり、組合の規則のみが効果を発揮することとなる。組合はどの国にも属さず探索者のために存在する世界的規模の組織とし、世界の平和とさらなるダンジョンの開拓を目標に掲げた。


 ダンジョンが現れてからこのような短期間で世界規模の組織ができた理由、それはひとえにダンジョンがもたらす恩恵にあった。

 モンスターたちは探索者に倒された後、それこそゲームのようにダンジョン内に解けるように消えるのだ。そして、そのモンスターが消えた後には等しく未知のエネルギーがこもった鉱石が残された。また、稀にそのモンスター由来の素材のようなものが残ることがあった。

 この鉱石は『魔石』と呼ばれるようになり、新たなエネルギー源として非常に活躍することとなる。また、素材も様々な用途に使われ高値で取引された。


 ダンジョンができて10年たった現在、世界各国で数多の探索者がダンジョンへと挑んでいる。ある者はその未知の領域を解き明かすため、ある者はその利益により一獲千金を求めて今日もダンジョンへと足を踏み入れる。

 そして、ここにも大きな『使命』のためにダンジョンを駆け抜ける一人の青年がいた。



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