第1話 現状説明

今から七千年ほど昔、人類は地球という星に住んでいた。


しかし、その星は滅んでしまった。


愚かにもその時代の人々はそれぞれで私利私欲の限りを尽くし、自らの傲慢さで母なる星を沢山の同胞の命と共に枯らしてしまったのだ。


当時100億を超えていたという人類はその1割も満たない数まで減ってしまったという。


そして生き残ったかつての大国達は最後の力を振り絞って独自の播種船はしゅせんを建造。


多種多様な星で満ちている宇宙へ希望を託し、一斉に飛び立っていった。


それから五千年後、日本というかつての国が作った播種船『扶桑ふそう』が第二の地球、現在で言うところの『蓬莱ほうらい』を発見した。


惑星に降り立った日本人の末裔達は入植を開始。


倉庫の奥深くに保存されていた文献にならって国家を、現在まで続く『秋津洲あきつしま皇国』を作り上げた……というのが簡単な人類の歴史だ。


今の人間なら誰でも知っていることだろう。


そして現在、人々がここ蓬莱に居を構えてから2千年と少し、平和で安全な日々を送っていた人類に対して神からの新たなる試練が降りかかって来ていた。


その名は『甲標的こうひょうてき』、人類に仇なす未知の勢力。


攻めてくる理由も目的も分からず、ただひたすらに攻撃を仕掛けてくる存在だ。


一応は文明的なものが見て取れたため、対話を試みるも一切が不可能。


まずどの兵器にも人間のような知的生命体が乗っていなかった。


代わりにあるのは特殊なゲルのみ。


全てが『無人機』だったのだ。


これを受けて人類は、一度滅びかけた戦争などもう懲り懲りだったのだが、話し合いによる平和的な解決が出来ない以上、残された手段は一つしかない。


殺らなければこちらが殺られる。


人々は心の奥底に留めておいた野生の闘争心を再び掘り起こし、人類存続の為に、愛する人の為に、明日を生きる子供達の為に武器を手に取った。


自分も、東雲しののめ安芸あきもその1人だ。


兵士に憧れて軍の道に入ったのが15の時。


海軍高等学校の機甲専門科を卒業したのち、練習艦『鹿島』で数年の訓練を経てようやく卵の殻を破ることが出来た。


今は皇国宇宙海軍、第四艦隊所属の航宙母艦『笠置かさぎ』に配属されている。


そして今日、初めての出撃を行うことになった。


気分が昂った。


この六年近くの青春を捧げた理由はこの時の為にあったのだと柄にもなく嬉し涙を流したくらいだった。


まあ大袈裟に言ったものの、作戦内容は至って単純。


蓬莱と月の間を航行している第四艦隊の周囲を少し巡回するだけ。


強行偵察も偵察爆撃も何もない、ただのお散歩。


要するに自分のような若鷲の為の特別な任務だ。


その……筈だった……。


[くそっ!後ろに付かれた!]


[持ち堪えろ!俺が行く!]


[あっ!待て今は……!]


[ぐっ……ひだん……だっ……!]


状況が理解出来ない。


あれだけ強くてカッコよくて優しくて頼りになった先輩達の機体識別反応が、通信から聞こえてくる悲鳴と共に次々と消えていく。


気付けば自分の『天雷てんらい』と先輩達6人の『晴嵐せいらん』、合計7機のうち既に半分近くが居なくなっていた。


あまりのことに呆然としていると隊長機からの怒声で我に返る。


その時にはもう晴嵐は2機しか残っていなかった。


[安芸!機体は飛べるか!?]


「は……はい!」


[よし!ならお前は母艦に戻れ!]


「は……は!?じ、自分も戦います!」


[馬鹿野郎!貴様が戦っても犬死にするだけだ!それより早く回収部隊を呼んでこい!まだ生きている奴が居る!分かったな!?]


「……はい!わがりまじだ!!」


隊長に言われた通り、敵に背を向けると機体を一気に加速させた。


涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながら。


背後からの反応が最後のひとつになるのを確認しながら。


そうして確か……。


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