しろがねの春 短歌連作20首

滝口アルファ

しろがねの春 短歌連作20首

戦争のニュースは土地の名を伝うリビウ、オデーサ、ブチャ、マリウポリ



後ろ手に縛ったうえに射殺とは わたしはわたしのルーティンを生きて



モザイクの飼い主の遺体の前にゴールデンレトリーバー座る



黒海に沈みゆく旗艦「モスクワ」のように重たい重たい春愁



おにぎりを二個あたためてもらう春こんな時間でさえ一度きり



風光る あなたのイントネーションに大阪弁がときどき薫る



髪の毛のさらさらをかきあげるとき耳がかがやく希望のように



ミサイルは落ちてゆくとき飛び立った母国へ戻りたくなりました



春の夜の「きのこの山」が折れていた 性的暴行する兵士たち



春の夜の焼け野原にてバラバラのわたしが蒼く蒼くかがやく



春昼のハシビロコウは知っているごとし世界を滅ぼす呪文



この道に散らばっているはなびらは時の妖精たちのあしあと



青空の回転扉空転す刹那のように永遠のように



ウクライナ人の女性が歎きつつ顔おおうときネイルむらさき



もし射殺されるにしても(見知らない兵士は嫌だ)あなたならいい



たんぽぽがぽんぽん咲いてゆくようにミサイル着弾しているのだろう



攻撃をことごとく撥ね返しゆくバリアになりたかった、あなたの



春のクッションにあおむけのまま昼寝するポメラニアンですね平和は



戦死して英雄なんて 夕暮れを煮詰めたようなメープルシロップ



しろがねの春 人類が滅びたるようにハシビロコウがほほえむ


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