泡沫の夢物語。-男と女の物語。短編集-
久遠 れんり
美樹と大和 はっぴぃ
第1話 小雨の夜。幼馴染みを拾う
小雨の降る夜道。
家に帰る途中。
道に倒れた、馬鹿を発見した。
確か、10数年ぶりの再会。
周辺は、LEDの外灯から降る光を反射する、キラキラ。
タイトなグレーのスカートスーツ。
鞄は抱えているが、靴はない。
軽く周辺を探す。一つは見つけた。
どうせ後で、こいつの始末は必要だろう。
振りまかれた、吐瀉物を見つめる。
今の小雨では、弱すぎる。
ここは、町会長している親父さんの玄関近く。
翌朝まで持ち越せば、怒り狂って掃除をしている姿が目に浮かぶ。
「よっと」
小脇に抱える。意外と軽い。
自身のスーツも、濡れるが仕方が無い。
すぐに、ぐっしょりと濡れた感覚が伝わってくる。
一体いつから、あそこに寝ていたのだろう。
小さな一軒家。我が城へ帰り着く。
スレンレスの表札には、大城 大和の表記。
その下には、マジックで塗りつぶした名前と、柊(しゅう)と楓(かえで)の文字。
「ただいま」
「お帰りなさい」
「ああ。母さんありがとう。子供達は?」
「さっき寝たところ。それで、それは何? 奥さんが一年前に出て行って、まさかどこかで拉致でもしてきたの?」
心配そうにはしているが、抱えている娘は、母さんも知っている。
「その向こうで、この雨の中。道路に寝ていた」
「あらまあ。町の方で、一人暮らしをしているはずなのに。まあ、何かあったのでしょうねえ。お風呂場に連れて行って。何でも良いから着替えと、下着は新しいのはあるけれど合うかしら」
そう言って、家の奥に入っていく。
とりあえず、風呂場の床に座らせて、湯船にもたせかける。
「これだけして、目が覚めないって、どうなんだ?」
思わず呼吸を確認する。
呼吸は正常そうだが、匂いに釣られて、自身も胃の中身が持ち上がってくる。
「やば」
とりあえず、上着だけは脱がして、タオルで水気を拭い。ハンガーに吊るす。
「お待たせ。興味があっても、年頃のお嬢さん脱がしちゃ駄目よ」
「分かっているよ。じゃあ任せた。俺は町会長さんの家の前に、こいつがやらかしものを掃除しに行ってくる」
「それは大変。お願いね」
「はいはい」
外に出ると、バケツに水を汲み。箒を片手に、現場へと向かう。
水を流し、箒で流す。
一度では足りず、二度。
その後、駅までの道をたどり。靴を探す。
すると、道路脇の側溝に、有名なドーナッツ屋の箱と一緒に、靴が落ちていた。
「と、いう事は、あいつ此処で転んだな」
帰ったら、母さんに聞いてみるか。
ぐしゃぐしゃのドーナッツは、箱ごとバケツに入れて、持ち帰る。
無論。水のたまった靴も。
帰り着くと、母さんの呼ぶ声が聞こえる。
あわてて、風呂場へ向かう。
「どうしたんだ?」
「良かった。髪も汚れているから、洗いたいの」
「じゃあついでに、俺も風呂に入るから、ちょっと待っていて」
部屋着に着替え。
下着一式を持って、風呂場へ到着。
俺の格好は、シャツとパンツ。
目を覚まされたら、完全な事案だが、仕方が無い。
あぐらをかいて座り、足の間に美樹のお尻を据える。
彼女を、仰向けに抱えるようにして、髪を洗う。
無論母さんが。
彼女は今、バスタオルのみ。
やはり右膝に、打ち身とすりむいた後がある。
すると、左足のくるぶしに擦り傷。
後で洗って、治療をしよう。
ドキドキする状況だが、絶望的な吐息。
「母さん、膝とくるぶしの所も洗って」
「まあ怪我?」
「道路脇に落ちたようだね」
「あらまあ。こんなになるまで。何があったのかねえ」
「さあ?」
「さて、ついでだし、体もさっと洗うから、出て行って」
「あーはいよ」
そうして、外で待つ。
だが中から。独り言だが、母さんのぼやきが聞こえる。
「立派な体をして、重いこと」
そんな声の後。
「まあ、つんつるてん」
そんな声が、聞こえた。
何が何だ。凄く気になるワードだ。
「よし。いいよ。外にバスタオルを、もう一枚敷いといて」
「分かった」
脱衣所の床にバスタオルを敷いて、その上へ彼女のお尻を乗せる。
「じゃあ風呂へ入るよ」
「じゃあ。あたしは、服を着せたら帰るからね」
「ああ。ありがとう」
母さんにお礼を言って、風呂へ入る。
そうして入浴し、出てくると。
足下に、彼女が寝ていた。
無論俺は、まっぱだ。ぶらぶらだ。
あわててバスタオルを取り、浴室で体を拭く。
そっと彼女の脇を通り、着替える。
きっと重くて、運べなかったのだろうが、焦るよ。
「よっ」
彼女を、寝室に運び。寝かせる。
そうして、やっと落ち着き。
スカートなどを浴室に吊るし、浴室の乾燥機をしわ取りモードで動作させる。
ストッキングは、穴があいていたので、勝手だが捨てた。
やっと、晩飯と思ったら、ベッドから落ちる音がする。
部屋に入ると、ベッドに両手と頭だけ乗せた状態で、彼女がつぶやく。
「お水~」
「ああっ。はいはい」
そう言って、水をポットに入れ、グラスと共に持ってくる。
手渡すと、一気に飲み干し。また一言。
「吐く」
「わっ。ちょっと待て。此処で吐くな」
あわてて彼女を、トイレへ引きずっていく。
「うう~」
と言った後、見事な噴水。
背中をさすりながら、声を掛ける。
「出るなら全部出せ」
そう言って、もう一度。強引に水を飲ませる。
そして、もう一回。
その後は、水しか出ていなかったから、スポーツ飲料をゆっくりと飲ませ。ベッドへ戻らせる。
うん。洗面器を用意しておこう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます