第1話

 あたくしは私立の氷雨幼稚園に入園して、年少さんの時はへび組で、年中さんからはさめ組になった。


 今年で、4歳から5歳になるのかあ。


 スクアーロ様とは、喧嘩してからは、合わなくなった。

 あたくしとしても、その方がいいんだけどね。


 あたくしは、幼稚園になってから、鈴木と仲良くなり、この青春?を何事もなく過ごすつもりでいた。


 そんなある日、あたくしは幼稚園の年長さんになり、クラスもさめ組から、ひさめ組に変わった。

 

 あたくしの名前も、氷雨ヒサメ。

 幼稚園の名前は氷雨で、それでいてひさめ組。

 なんか、自分でも笑っちゃうね。


 年長さんということは、今年で5歳から6歳になるということ、か。

 思い返せば、いろいろなことがあったけど、楽しかったな。

 そんな思い出に浸っていた。


 そんなところに、だった。


「スクアーロ様?」


 スクアーロ様が目の前にいた。

 しかも、ここはベランダにいるので、スクアーロ様は宙に浮いているということになる。


「数年ぶりだな」


「何年前だっけ?」


「今、何歳だ?」


「今年で6歳になるけど、今は5歳」


「そうか。


君と最後に会ったのは、3歳の時だから、そうすると2年前ということになるな」


 気まずかった。

 最後に喧嘩して、それ以来合っていないし、まさか向こうから現れるとは思わなかった。

 今、考えればくだらない内容だけど、こんなことぐらいで頭に登ってしまう当時のあたくしは、幼稚だなって思っている。


 だけど、過去の出来事だ。

 自分がした失態というのを、覆すことなんてできるだろうか?


 ううん、スクアーロ様は許してくれない。

 

「スクアーロ様、もしかして恨んでる?」


「何をだ?」


「あたくしと喧嘩したこと」


「そんなものは、喧嘩両成敗。


おいらは、そのことを今になってせめるつもりはない」


「それなら、どうしてここに来たの?


あたくしに謝ってほしいの?」


「謝らなくてはならないのは、おいらの方かもしれない」


 あたくしは、驚きを隠せなかった。


「幼い君に、水の聖女としての使命を果たせと押し付けることは、よくなかったと思っている。


いくら選ばれし者でも、普通の子供と変わらない。


それを理解してなかったのは、おいらの方だ。


本当にごめん」


 スクアーロ様の方から、謝った・・・・?

 どういうこと?


 だけど、あたくしにも非はある。


「あたくしの方こそ、ごめん。


つい、かっときて言ってしまったけれど、この後に悩んだの。


あたくしも、ちゃんと考えてなかった。


自分のわがままばかりを押し通そうとしてた。


だけど、それじゃだめなんだってわかった時には、君はすでにそこにいなかった」


 スクアーロ様は、二度と現れないって思っていた。

 その時に後悔しても遅いし、今更になって水の聖女としての使命を果たしたいなんて、虫がよすぎると思ったから、何もできずにいた。


 だから、こうしてまた会えたことは正直、嬉しい。


「氷雨幼稚園に通う、ひさめ組の氷雨ヒサメは、今日から差スクアーロ様との関係をやり直したいと思います」


 生半可な気持ちじゃだめだ。

 心から謝罪しているってことを、わかってもらわないと。


 だけど、なぜかスクアーロ様は笑っていた。

 あたくしは、なぜここまで爆笑しているのかわからなくて、不思議そうな顔をした。


「全部、氷雨ってつくのか。


苗字も、下の名前も、幼稚園も、クラスも」


 スクアーロ様の笑っている理由がわかったら、あたくしは恥ずかしくなってきて、顔を真っ赤にした。


「仕方ないじゃん。


偶然一致だって」


「偶然にしては、被りすぎでは?」


「スクアーロ様、笑いすぎ。


あたくしだって、少しは気にしているんだから」


「本当にそうか?」


「本当だもん。


あたくしが嘘をつくと思う?」


「思わんけど、面白いわ」


「何それ?


何が言いたいの?」


「そのまんまの意味」

 

 あたくしは、クスッと思わず吹き出してしまった。


「わかんないって」


 こうして、スクアーロ様とあたくしはその日は笑い合って過ごした。


 

 次の日は、スクアーロ様に様々なことを注意されることになった。

 戻ってきたのはいいけど、どうしてこうなった?


「言い方が君は、きつい」


「そんなにきつい?」


 あたくしは、普通に話しているつもりだけど、そこまで言い方とか悪い?

 考えてみても、自分じゃよくわからないや。


「カチンとくる話し方をすることがある」


「例えば?」


「今のが、生意気に聞こえる」


「え?」


 どこにもカチンとくる要素があったんだろう?

 5歳児の頭で、考えてみる。


「口調が強めんだ。


いつもな」


「挙動不審に言えばいいということ?」


「口調に気をつけてほしいという話で、何をどうしたら極論にでる?」


「スクアーロ様のお説教なんて、いいの。


あたくしの予定とか、覚えてる?」


「予定?」


 スクアーロ様は、首をかしげている。

 この様子だとやっぱり忘れているか、最初から知らないかのどっちかだ。


「使命ばかりにとらわれて、イベントとか簡単に忘れちゃうんだあ。


今日は何月?」


 スクアーロ様は、あたくしのお説教なんて忘れているかんじで考えこんでいる。


「7月だが、大事なことがあったか?」


「7月と言えば?」


「夏休みか?」


「それも合ってるけど、あたくしの誕生日は7月にあるの」


「ごめん、知らんかった」

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おふざけ水の聖女 野うさぎ @kadoyomihon

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