第40話 ゲルダ VS パトリシア
「よくぞ、来てくれた! 私はゲルダの父――ラッセル・プリシッチです」
ラッセルさんは、僕らを礼拝堂の中に案内してくれた。
礼拝堂では少女が車椅子に乗って、祈っている。
「ゲルダ! お客さんが来てくださったぞ」
ラッセルさんが、少女に声をかけた。
すると少女は、器用に車椅子をその場で回転させた。
ラッセルさんは静かに言った。
「私は一年前、商人だった。しかし、娘のために聖職者になったんだよ」
すると少女――ゲルダが口を開いた。
「あなた方は……? 私はゲルダです」
「ダナンです。久しぶりだね」
ゲルダは前を向き、僕を見上げた。
ゲルダは、金髪の長い髪の毛の少女だ。とても美しい女の子だった。
父親と同様に、聖職者の服装をしている。
ラッセルさんは、ゲルダに僕らのことを色々、説明してくれた。
「ああ、なんてこと」
ゲルダは僕の左手の松葉杖を見て、言った。
「私をトードス草原で助けてくれようとした方が、ここに来てくださるなんて。神に感謝いたします」
ゲルダはそう言い、続けた。
「ジャイアント・オーガに襲われたときは、ダナンさんが助けてくださったので、逃げ切れたのです。しかしその後、急に出現した黒い魔導士の魔法を受けたのです。そして足が効かなくなってしまったの」
「黒い魔導士……? それは何者なんだ?」
僕が聞くと、ゲルダは答えた。
「後で聞いた話では、大魔導士グロードジャングスという男だそうです」
「……その人! 知ってるわ」
アイリーンが声を上げた。
「闇の魔導師といわれる、危険人物よ。その人に攻撃されたのね」
「はい。その話はあとでするとして……私はワクワクしているのです」
ゲルダは輝くような笑顔を見せた。
「皆さん剣士でしょう? お手合わせを願えますか?」
ええっ?
僕らは顔を見合わせた。
「
ランダースが、彼にとっては少しだけ
「あんたは車椅子だ。手合わせ……練習試合だろ? そんなこと、やめておけ。危険だ」
「あら、私は結構強いんですのよ」
ゲルダは上品に、クスクス笑った。ラッセルさんもニコニコ笑っている。
「怪我防止のために、弱い魔力に設定した、
ラッセルさんは言った。
「さっそく練習試合をしましょう。どなたか、娘と対戦したい方はいらっしゃいますか?」
パトリシアが前に進み出た。
「私がお相手しよう、お
「まあ、何とカッコいい
ゲルダはパトリシアを見て、笑って言った。僕らは吹き出しそうになった。
「私は女だが!」
パトリシアは顔を真っ赤にして、
「あ、あら……パトリシア様、これは失礼いたしました」
ゲルダもちょっと顔を赤らめている。パトリシアは、まだむくれながら言った。
「いや、べ、別にいいが」
「で、では、こちらへ」
ゲルダは礼拝堂の横の扉のほうへ、車椅子を移動させた。
◇ ◇ ◇
そこは、礼拝堂の敷地内の、大きな草原となっていた。
ここなら、練習試合ができそうだが……。
パトリシアはラッセルさんの持ってきた
「ゲルダ、いいのか?」
「はい」
ん?
ゲルダは車椅子に座ったまま、念じ始めた。
すると、車椅子の後ろに備えつけられていた
「なんだありゃ? いや、魔力で武器を浮かび上がらせるのは、結構見るが……?」
ランダースが首を
その時だ。
ビュン
そんな音とともに、ゲルダの
「う、うおおっ」
ガキイッ
パトリシアは、ゲルダの
「ゲルダは、念力で
ラッセルさんは説明した。
ガスッ ガシッ ガシイッ
「こ、こんな……! こんなバカな」
パトリシアがうめく。
まるで透明人間が、パトリシアと戦っているように見える!
シュ
ゲルダの
「もらった!」
パトリシアは
ゲルダは無表情だ。
すると取り残されていた
パトリシアの前に、一瞬で現れた。
「う、そだ」
ゲルダの
シュ
「だが! スキがあるぞ、ゲルダッ」
パトリシアは間一髪で、斬撃をかわし――。
ガキイッ
空中の
「何ですって? まさか!」
驚きの声を上げたのは、ゲルダだ。
タッ
パトリシアは大きくジャンプして、
こ、これはパトリシアの勝ちか?
カンッ
パトリシアの
ゲルダはその攻撃を見切ったように、車椅子を後ろに移動させて、かわしていた。
し、しかし、ゲルダの
念力は届きそうにないのでは?
ギュン
しかし! そんな音とともに、もう一つの
「えっ?」
パトリシアがうめく。
そ、そんな? ゲルダはもう一つ、
ルール上は、二刀流は反則ではない!
「う、うおおっ! こ、こんな攻撃は初めてだ!」
パトリシアは叫んで、それをかわそうと横に素早く移動しようとするが……!
バシュ
すでに、パトリシアの左肩が
「一本! それまで。ゲルダの勝ちだ!」
ラッセルさんが声を上げる。
僕たちはこの戦いを、呆然として見つめていた。
ゲルダは
しかし、パトリシアに完全勝利した。
念力で、二つの
そして瞬間移動。
見たことのない剣術に、僕らは声が出なかった。
パトリシアは顔を真っ青にして、左肩を押さえていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。