第34話 ダナン VS ドルガー③

 僕は片腕で――魔力模擬剣まりょくもぎけんで、そのおのを受けた。


「お、俺の『魔界のおの』を受けるとは! しかも――片手で? あ、ありえん!」


 ドルガーは声を上げ、また巨大おのを今度は右斜めに持ち上げた。


「ありえんのだああっ!」


 ビュオ


 ドルガーはまたしても高速で、全力で振り下ろしてきた。


 しかし僕には、おのの軌道がすべて見えていた。


 カッ


 周囲にかわいた音が響く。


「え? お、おろ?」


 魔獣ドルガーは動きを止めて、自分の巨大なおのを見た。


 ガシャッ……


 僕の手前に、おのやいば部分が、金属音を立ててむなしく落ちた。


「な、なんだ?」

「おい、何が起きた?」

「みろっ! ドルガーのおのが……」

  

 観客がざわめいている。


 ドルガーの魔界のおのられ、やいば部分ごと、地面に落ちた。


 僕はおの魔力模擬剣まりょくもぎけんで斬撃し、おのやいば部分を切断したのだ。


「ばっ、ばかな!」


 魔獣ドルガーは、一歩、二歩、後退した。


 僕は松葉杖を使って、少しずつドルガーとの距離を縮めていく。


「ま、待てっ。少し休憩きゅうけい時間を入れよう。――そ、そうだ! ランゼルフ・ギルドに戻ってこないか? 楽しいぞー。元のギルドに戻って、皆と楽しくやろう」


 ドルガーはニコニコ笑顔で言った。しかし、魔獣の顔で笑顔になっても、ちっともなごまない。


「『戻ってこい』と言われても、もう遅い」


 僕は言った。


 しかし――魔獣ドルガーは冷や汗をぬぐいながら、笑った。


「な~んてな!」


 ドルガーの手には、さっきの魔界のおのが握られていた。魔力で再生した? いや、そうじゃない。


 しかも、右手、左手にそれぞれ一本ずつ――! おのの二刀流か!


「異次元空間に、魔界のおのを十本ストックしてある! ダナン! これでお前もおしまいだ!」


 ドルガーが、わめいているその時……!


『エクストラ・ボーナス 【大天使の治癒ちゆ】の発動を開始いたします。十五分間、ダナン・アンテルドの右足は完全回復します』


 僕の頭の中で――声が響いた。そうか、【大天使の治癒ちゆ】が発動したか。


 この時がきた。

 

 これですべてを――全力を出せる。


 タッ


 僕は飛んだ――。


「は、ひっ……! ま、待て!」


 魔獣ドルガーは叫んだ。


 僕はドルガーに向かい、空中で魔力模擬剣まりょくもぎけんを振り下ろした。


 ガッキイイイッ


 魔獣ドルガーは、二本の巨大おのをクロスさせて、僕の攻撃を防いだ。


「くおのやろおおおっ!」


 ドルガーはうめく。僕が着地した時!


 ドガアアアッ


 ドルガーの足蹴り! とてつもなく強烈な前蹴りが、僕の胸部に当たった。


 僕は七メートルは吹っ飛んだ。確かに魔族の力だ、攻撃の威力はすごい。


 だが!


 スタッ


 僕は一回転して、床に降り立った。


「なっ、なんだと? あの渾身こんしんの前蹴りを!」


 ドルガーは声を震わせた。


 さすが【大天使の治癒ちゆ】の効果だ。右足は完全に動くぞ! 


 それに僕は、前蹴りの直撃の瞬間、後ろに飛び下がった。そうすることで、前蹴りの威力も半減させた。


 僕は松葉杖を、舞台外にいたアイリーンに手渡した。


 アイリーンは僕の松葉杖を抱えながら、声を上げた。


「ダナン! 【大天使の治癒ちゆ】の効果は、十五分だけだよ! 今、試合時間が十分経過……。試合時間はあとニ十分もある」


 ドルガーはずしゃりずしゃりと、一歩一歩近づいてくる。


「なるほど、魔力か何かで、右足が回復したのか? こざかしい!」


 ブオッ、ブオオオオオッ


 ドルガーは魔界のおのを、僕に向かって――。


 二本いっぺんに投げつけてきた!


(まさか、おのを投げつけるとは!)


 僕がそれをけると、おのは頭上を越え、空の向こうにいってしまった。


 ……が、二本とも、また戻ってきた。


 ブーメランのようだ! しかも、速度が増している!


 ブオオオオン

 

 僕はそれをまたしてもける。


 パシッ


 ドルガーはおのを二本、手で受け止め、ニヤリと笑った。


「よくぞけた。だが、これで終わりだと思ったかああ!」


 ドルガーは全速力で僕に近づいてきた。そして――。


 右手のおの、左手のおのを、同時に僕めがけて、振り下ろしてきた。


 僕はそれを簡単にける。


 ガイイイイイインッ

 

 二本のおのは、すさまじい金属音を立てて、床に当たった。


 僕の足は軽い、まるで羽が生えたようだ。


 しかし――。


 ドルガーの頭上を見ると、巨大なおのが宙に浮いている。


「フフフッ」


 ドルガーは笑った。


「これで――決着だ」


 四本目の魔界のおのだ! 魔力でおのを宙に浮かせて、落下させるというのか!


「破壊する!」


 ものすごい勢いで、おのが急降下してきた。


 しかし! 僕にはおのが落下してくる軌道きどうが見える!


 ガイイイイイン


 僕は急降下してきたおのを、魔力模擬剣まりょくもぎけんで弾き飛ばした。


「な、なにいいっ?」


 魔獣ドルガーは目を丸くして、僕を見た。

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