第33話 ダナン VS ドルガー②

 僕は魔力模擬剣まりょくもぎけんを、しっかり構えた。


「覚悟しろ、ダナン!」


 ドルガーは横に飛び、それとともに上から剣を落としてきた。


ね斬り!」


 ドルガーが叫ぶ。意外だ、こんな技ができたのか?


 ガキイイッ


 しかしながら、力任せの攻撃だ。僕は腕がしびれたまま、魔力模擬剣まりょくもぎけんで受ける。


「ギャハハハハハッ! けや!」


 ドルガーは着地するなり、僕の背後に回り――。

 

 ヒュ


 僕の首を狙った!


 ガキン!


 僕はその剣を受け、横にすべらし、受け流した。腕はしびれているが、たいしたことはない。


 よしっ!


「な、なに?」


 ドルガーは危険を感じたようで、声を上げた。


 ここっ!


 僕は回り込みながら、片手でドルガーの胸部を突き刺そうとした。


「は、ひっ」


 ドルガーは後退してける。


 しかし、僕のこの突きはワナだ。


 僕は心の中で、叫んでいた。


ざん!)


 ――僕は、ドルガーの右腕に、魔力模擬剣まりょくもぎけんを振り下ろした。


 ズバアアアアッ


「あっぎゃ!」


 ドルガーは叫び声を上げる。


 ドルガーの右腕に斬撃ざんげき


 うおおおおっ


 観客が声を上げる。


「き、決まった!」

「完璧! す、素早い」

「ダナンの腕狙いの斬撃ざんげきだ!」


 完全に決まった。


 ドルガーの右腕に、僕の魔力模擬剣まりょくもぎけんが振り下ろされていた。


 魔力模擬剣まりょくもぎけんなので、腕が切断されることはないが、これは見事に斬ることができた。


 ドルガーの右腕は強くしびれ、今日一日、使いものにならないだろう。


「う、ぎ、ぎいいいっ」


 ドルガーは片膝かたひざをつき、自分の魔力模擬剣まりょくもぎけんを床に落とし、左腕で右腕を押さえている。


「き、貴様~! ダナン! やりやがったな」

「『まいった』をしろ、ドルガー」


 しかしドルガーは、動く左手で、ズボンのポケットから何かを取り出した。


 小瓶こびん? 液体が入っている。


 真っ赤だ……。な、なんだ?


「お、おい?」


 僕がドルガーに声をかけると、ドルガーは歯で小瓶こびんの木のコルクを抜いた。


 そして!


 グビイイイッ


 真っ赤な液体を飲んだ!


「ぷっはああああ~」


 ドルガーは小瓶こびんの液体を飲んで、口を手の甲でぬぐった。


「こいつは効くぜ~。やっぱり、魔族のエキスを、体に入れねえとよぉおおおお~」

 

 お、おい……ドルガー? お前、何を飲んだんだ? 闇のスキル? エキス? 何のことだ?


 そして――いつの間にか彼の頭にはつのが生え、口には牙が生えていた。


「まさか本当に、この『魔獣変身』を使うときがくるなんてなあ」


 ドルガーはどんどん変身していく……。

 

 ドルガーの肌の色は真っ青になり、髪の毛はボサボサと長く生え始めた。


 体もでかくなったようだ。筋肉は膨張ぼうちょうするように発達し、まさに二足で立つ魔獣系の魔物のようだ。


 ど、どうなっているんだ?


 彼の手には、いつの間にか巨大なおのが握られている。


「異次元空間にこのおの――『魔界のおの』を隠し持っていて良かったぜ……」


 おのは使用不可のはずだが、審判長や審判団は試合を止める気配はない。やはり彼らは、ドルガーに買収されている!


つぶれろや!」


 ブオオオオオッ


 魔獣――ドルガーは、おのを真上から振り下ろした。


 ズウウウンッ


 僕はそれを後退してかわした。斧の落下スピードが速いため、僕は左腕の松葉杖を、力強く、うまく使って後退しなければならなかった。


 巨大なおのは、舞台床にめりこむ。


「ぬうううんっ」


 ドルガーは今度はおのを、横に払った。


 が、僕はそれも後ろに下がってかわした。近づかなければ、何ということもない。だが、これではこっちが攻撃できないか……。


 ざわざわざわっ……。観客のほうから声がしている。


「おいおい……どうなってんだ? ドルガーは」

「あいつ、勇者じゃなかったっけ?」

「変身魔法か? 最近は、魔物にも変身できるんだな」

「それより、おのを持つのは反則じゃねえのか?」


 観客も戸惑っているようだ。


 しかし、またしてもドルガーの目が光った。


 左斜め上から、斧が振り下ろされる。――速い!


 ガキイイイイッ


 僕は片腕で――魔力模擬剣まりょくもぎけんで、そのおのを受けた。


「な、なんだと」


 ドルガーは声を上げた。


「お、俺のおのを受けるとは! しかも――片手で? あ、ありえん!」

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