第30話 ドルガー VS パトリシア
僕はダナン・アンテルド。右足を大怪我し、いつも左脇に松葉杖を一本抱えている、魔法剣士だ。
二週間後、「全国ギルド大霊祭」があるが、そのメインイベントとして、僕と勇者ドルガーの試合がある。
一方、僕の周囲の人々にも、変化が起きた。
ランゼルフ・ギルドに所属していたパトリシアやモニカ、マチュア、マイラ、そしてポルーナさんがランゼルフ・ギルドを辞めた。そして、僕の所属するマルスタ・ギルドに所属してくれたのだ。
◇ ◇ ◇
今日はマルスタ・ギルドの魔法剣術道場で、試合に向けて、パトリシアと訓練をすることにした。
「ダナン! 今日は二人っきりで、練習できるな!」
パトリシアは広場で目を輝かせて、僕に言った。
「ま、まあね」
「一緒に汗を流し、愛の交流を深めようじゃないか!」
彼女の言っている意味はわからんが、練習パートナーができて助かった。
ちなみにアイリーンは、今日は看護師のアルバイト。ランダースは朝から、飲み屋で酒を飲みまくっているらしい。
◇ ◇ ◇
そんなわけで外の広場で、パトリシアと剣術の訓練をしていると、誰かが広場に入ってきた。
ん? 誰だ?
すると――黒服の男たち五名が、僕とパトリシアを取り囲んだ。
「何だ! お前たちは!」
パトリシアが声を上げる。
「俺だよ」
黒服の男たちの後ろから現れたのは、ドルガーだった。
「ドルガー? な、何しに来たんだ?」
僕は驚いて聞いた。ドルガーはニヤリと笑って答えた。
「ダナン、お前との試合前に、練習試合をしようじゃないか。ランゼルフ・ギルドでは、なかなか手が合う者がいなくなってな」
ドルガー? お前は何を言っているんだ? 僕との本番の試合の前に、僕と練習試合?
頭がおかしくなったのか?
僕は当然、きっぱり断ることにした。
「常識外れのことを言うなよ。試合は、試合当日、試合場でする。お前に、手の内をさらしたくないからな。さっさと帰ってくれ」
「そうか? お前の隣にいる、パトリシアなら、俺との勝負を受けると思うが」
「なに?」
パトリシアはピクリと眉を動かした。
ヤバい。パトリシアはプライドが高い。ドルガーの
ドルガーはクスクス笑っている。
ん? ドルガーのヤツ、なんだか前と雰囲気が違うぞ。やつれたような、体に不気味な薄暗い「気」をまとっているような……。
「ドルガー! お前は前に、私にダナンのことを悪く言ったな! そして道場破りまがいのことをさせた」
パトリシアはドルガーをにらみつけた。
「ダナンは良い人だ。ドルガー、お前は私をだまし、
僕は(しまった)と思った。やっぱりこうなったか……。
「いいねえ、その気の強さ……。さすが天才美少女剣士だ」
ドルガーは
「タアアアアアアーッ! 先手必勝!」
パトリシアの
「ハハハ、やっぱり来たな、パトリシア!」
「新しい俺の力を、見せてやるぜえっ!」
ドルガーは笑った。
何? 新しい力――だと? どういうことだ?
ガッ、ガシッ、ガシッ
パトリシアの上、右横、左斜めからの三連斬りだ。
素早い!
僕との対戦のときよりも、
しかし……。
「なんだ、それは? 軽い、見せかけの剣技だな」
ドルガーはそう言った。
パトリシアの素早い三連撃を、すべて受けきったのだ。
ドルガーに、そんな技術があったとは? ドルガーは防御に関しては、あまり得意ではなかったと思うが……。
その時!
――ドンッ
ドルガーは一歩踏み出し、パトリシアの右肩に、自分の左手を突き出した。
ドガアアアッ
パ、パトリシアがっ……!
五メートルは吹っ飛んだ……?
「う、うぐっ」
パトリシアは背中を地面に打ちつけ、うめいた。そして目を丸くして、ドルガーを見た。
僕も驚いていた。ドルガーは、パトリシアの肩口を突き飛ばしただけだ。
男女の力の差、体重の差はある。
しかし、人間が突き押しただけで、五メートルも吹っ飛ぶものなのか?
「こ、このっ!」
パトリシアは立ち上がった。どうやら、肩の骨は外れていないようだ。
すぐに、ドルガーの胸部めがけて、
しかし、ドルガーはそれを
まただ!
ドルガーの、
僕が「ウルスの盾」にいた時、ドルガーはこんな華麗な技術はもっていなかったと思う。いつの間に、こんな
「ここだっ」
パトリシアの目が、ギラリと光ったような気がした。
ヒュッ
パトリシアの得意な、下段斬り!
足狙いの剣技だ。
「ぬうううんっ!」
ガシイッ
しかしドルガーは、パトリシアの下段斬りを防いだ。
それだけではない。
パトリシアの
そして!
ミシッ
自分の
「う、ぐっ!」
パトリシアは左肩を押さえ、
(まずい!)
僕はあわてて松葉杖を使い、ドルガーとパトリシアの間に入った。
「待て、ドルガー! 練習試合では、
僕は
しかしパトリシアは、「ダナン!」と叫んだ。
「私の負けだ! ダナン、君は今は勝負してはならない。君は後日、正式な試合があるだろう!」
うっ……。
ぼ、僕はドルガーに襲い掛かりそうになっていた。
僕は
「おいおいおい、口ほどにもねぇな。パトリシア~」
ドルガーはニヤニヤ笑いながら言った。
「ダナン、そんな弱っちいヤツと、練習していたのか? まったくあきれるよ」
僕はまだパトリシアの前に立っている。パトリシアを、ドルガーの攻撃から守るためだ。
ドルガーはまだ、
それにしてもドルガー……。
まさか、ここまで強いとは?
とくに、さっきパトリシアを手で突き飛ばしたが、すさまじい「力」だった。
僕はピンときた。
マリーさんに「スキル」を引き出してもらった、あの時の僕と似ていないか?
「お前……その強さ、その力……。まさか?」
ドルガーはピクリと僕を見た。
僕は聞いた。
「『スキル』……だな?」
「まあ、スキルっちゃスキルだな。当たり、ということにしとくか」
どういうことだ? スキルと似て非なるものを、身に着けたというのか?
とにかく、早くパトリシアを病院に連れていかないと。
多分……彼女は肩の骨が折れている。
「ドルガー、早く帰れ! パトリシアは怪我をしている!」
僕が叫ぶと、ドルガーはクスクスと笑った。
「ダナン、今日、俺がここに来た理由は、お前に俺の今の実力を前もって知らせておこうと思ってな」
「何だと?」
「これは心理戦だぜ? すでに勝負は始まっている」
そして叫んだ。
「ダナン! 試合当日は、てめぇを『
「早く帰れっ」
僕が叫ぶと、ドルガーは「またな」と笑いながら、広場を出ていった。
「うう……」
パトリシアは左肩を押さえて、真っ青な顔で座り込んでいる。肩の骨が折れているはずだ。
「パトリシア、待ってろ!」
僕は急いで、ギルド長室に駆け込んだ。そして、ブーリン氏にパトリシアの怪我を話し、白魔法救急隊を呼ぶように頼んだ。
僕はドルガーに怒りを感じ、
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