【1部完結】ゲームっぽい異世界で何やかんやする話

1部

プロローグ

 民衆の大喝采の中、私の胸中にあるものといえば困惑、つまり『どうしてこうなった……』であった。


「お父様! 私この方の伴侶になりたく思いますわ!」


 などと言いだしたこの国のお姫様が見つめる先は当然私。いや、まぁやらかした事を考えればある程度は予想が出来ていたことでもある。あるのだが、初対面の相手にそう言われると困惑の方が大きいわけであり。


 美しい、というシンプルな表現が一番合うのだろう。整った顔立ちにさらさらしていそうな長く靡き輝く金髪、それからどことなく海を思わせるような深い青の瞳。慎み深いという表現が似合いそうな、それでいて精一杯元気に叫んだような声。


 それを聞いた私の斜め後ろから、もはや物理的に冷え込んでいるのではないかと錯覚するほどの冷気。あるいは怒気、殺気などにも分類されそうなほどのプレッシャーを放つのは私の弟子。


 気になりすぎてちらりと視線を向ける。『表情こそにっこりとした笑顔だが目が笑っていない』というものを初めて見たな、などと現実逃避。私の顔もうっすら苦笑いに変わりそうになる。


 こちらも金髪碧眼、といいつつどちらかといえば『可愛い』顔立ち。姫様の金髪が光に透き通るように輝く金髪だとしたらこちらは自ら光を放つような金髪とでもいうのだろうか。


 逆に透き通った青空を思わせるような瞳まで踏まえると、金髪碧眼18歳という記号なら共通していてもここまで違うのだなぁ、と思う。まぁ更に言えば慎ましい弟子の胸と比較してお姫様の方はドレス越しにもお山の主張がはっきりしているが。


 背後の気配にすぐそばにいた人達の空気は凍るが、逆にそれを理解していない民衆のボルテージは最高潮だ! になっている。おそらくはお姫様の声がよく聞こえたのだろう。


 『自分の国のお姫様』と『ドラゴンスレイヤーの英雄』が結婚ともなれば、それはそれは一大イベントである。大歓声も沸くというものだ。私も遠くから眺める側に回らせていただきたい。


 正面方向に向き直れば、きらきらとした眼差しでこちらを見つめるお姫様。正直名前も知らないわけではあるし、ぶっちゃけ逃げ出したい気持ちの方が大きいんだよなぁ、と正直な感想を飲み込みつつ。


 『どうしてこうなった』と、この世界に来てからの事を思い返すのであった。

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