5-18 総動員 ★三人称
テーラ隊隊長が率いる合同騎士団と聖女たちが、呪いの矢を携えた
魔法騎士団の本部では、王都防衛のために残った二隊長が、しかめ面で魔法通信機に向かい合っていた。
「それで、死の山が噴火する兆候があるというのは本当なのか?」
「以前の報告では、死の山は落ち着いていて、年内に噴火する可能性は限りなく低いということだったように思いますが」
『攻撃』を司るイグニ隊の隊長と、『頭脳』を司るアクア隊の隊長が、交互に魔法通信機に向かって問いかける。
『状況、急変。山に何か細工した可能性、高い。今晩か明朝、噴火、起きる』
魔法通信機から聞こえてくる無機質な話し声は、『攪乱』を司るヴェント隊の隊長だ。彼らは間諜や斥候、情報収集の任務を一手に引き受けている部隊である。
「魔女たちは大丈夫なのか? 避難は?」
『避難、してない。館に、結界張ってる』
「なるほど。報告にあった地竜の結界と、魔女や騎士たちの結界魔法でしのぐつもりですか」
『是』
アクア隊の隊長が冷静に状況を言い当てると、ヴェント隊の隊長は短く肯定した。
「それで、館の状況は? 魔獣の襲撃は続いてるのか?」
『魔法通信、入らない。詳細な状況、不明』
「おいおい、本当に大丈夫なのか?」
「館には団長がいるんです。それに、うちの隊のエースも山へ向かったようですから、心配は不要でしょう」
「そうだといいんだがな」
心配そうに眉を顰めるイグニ隊隊長と、団長と隊員を信頼して微笑むアクア隊隊長。対照的な表情を見せる彼らに、魔法通信機からさらなる情報がもたらされた。
『もうひとつ。聖女たち、襲撃されてる。数名、負傷。戦闘、開始』
「足止め、というわけですか。そちらの戦況は?」
『敵、矢を使う魔獣、三頭。罠で敵、追い詰める作戦。まだ、戦況、動いてない』
「それこそ問題ないな。聖女たちには、『守護』を司るテーラ隊の隊長がついているんだ。普通の魔獣に負けることはないはず」
「ええ。そうですね。ただし、戦況が厳しくなったら――」
『是。ヴェント隊、近く、待機中。機を見て、加勢する』
そう言って、ヴェント隊の隊長は魔法通信を切った。魔法通信機が沈黙し、すぐさま待機中という表示に変わる。
「――同時多発的に攻撃、ですか。さて、我々の出番も近そうですよ」
「ふん。どうせもう招集はかけてあるんだろう?」
アクア隊隊長は、イグニ隊隊長の問いかけに、にこりと微笑む。すなわち、肯定、ということだ。
「私は司令部に残り、各所からの情報を取りまとめて指示を飛ばします。貴方は――」
「わかっている。隊員を何人か連れて、城壁の外で存分に暴れてくればいいんだろう?」
「強力な高位魔獣が襲ってくる可能性があります。充分注意してください」
「俺を誰だと思ってる。言われずとも、城壁内、王都には、一匹たりとも通さんよ」
二人の隊長はしかと頷き合って、それぞれの持ち場へと急いだのだった。
◇◆◇
ヴェント隊の隊長が魔法通信を切った頃には、早くも戦況が変化していた。
「さすが、『守護』のテーラ隊」
戦場近くにある、一軒の空き家。
外目には古びて風化した木造家屋だが、見た目に反して、建物の中は白い照明が煌々と輝く、明るく清潔感のある内装になっている。
室内には魔法通信機や映像を壁に映し出す魔道具が設置されており、簡素なものだが机と椅子も用意されていた。
魔法騎士団は、王国各地に、このように空き家に偽装した作戦基地を所有しているのだ。
「通信で、機を見て加勢する、そう言った。でも、これなら、必要ないかも」
ヴェント隊隊員の『目』を通じて、上空から戦場を俯瞰している映像を見ていた隊長は、そう独りごちる。
テーラ隊の隊長は戦場に出るや否や、すぐに魔獣たちと呪いの矢の弱点を看破していた。
『防御魔法は風属性に設定しろ! 吹き散らせずとも、速度が減じれば武器や盾で落とせる! 岩や氷の壁は駄目だ。視界を遮る上、破片が飛び散って逆に危ないぞ!』
隊長は的確な注意喚起を拡声用の魔道具で戦場全体に飛ばしつつ、近くの騎士には小声で何かを指示していく。
魔法騎士・神殿騎士の合同騎士団と
『矢を落とす自信がない者は結界内に下がれ! 強化結界の中なら矢は届かん!』
最初こそ奇襲を受けて負傷者を出してしまったものの、防御に長けたテーラ隊の結界魔法に加え、聖女たちが結界を強化したことで、呪いの矢は結界内に届かなくなっている。
聖女たちも、結界を張っている者を除いて、負傷兵たちの治癒と解呪に専念できていた。
テーラ隊の隊長は天幕付近に戻り、副隊長と話を始めた。これから本格的に罠の設置に入るようだ。
精鋭の騎士たちが、設置型の魔道具を抱え、次々と結界外へ出て行く。
「敵、素早くて突進力もある。でも、急停止、急旋回が困難。進路塞いで、罠へ誘導するみたい」
ヴェント隊の隊長は、『目』から送られてくる映像を見ながら、そう分析した。
「魔道具の設置、悟られずに完了したら、勝利。でも、敵に悟られたら、別の手、必要になる。ヴェント隊の皆、阻害魔法、手伝う」
「はっ」
隊長がそう呟くと、天井裏から部下の返答が聞こえる。
ヴェント隊の隊長は、部下の気配があっという間に遠ざかっていくのを確認すると、再び壁に映る『目』の映像に注視し始めたのだった。
そして、舞台は再び魔女の館に移る――。
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