第六章 魔女との邂逅
4-32 魔女の館
白銀の大蛇――地竜に囲うように守られて、魔女の館は、ひっそりと存在していた。
広い大地にもかかわらず、その屋敷はこぢんまりとしており、領地の農園地帯に建つ一軒家を彷彿とさせる家屋である。
家屋はレンガ造りの平屋建てで、扉が一つと小さな窓が二つある他は、何の飾り気もない。屋根からは煙突が伸びているが、煙は出ていなかった。
庭には井戸があるものの、もう長いこと使われていないようだ。
火山地帯だからか、庭が雑草で覆われているということはないが、その代わりゴロゴロとした石や小岩があちらこちらに転がっている。
「ここが、魔女の屋敷なのですか……?」
「……こんなに素朴な家屋だったんだな。それに、随分荒れ果てている様子だが」
私が思わずそうこぼすと、ウィル様は顎に手を当て、眉に皺を寄せた。
「ウィリアム、お前、来たことがあるのだろう? 以前からこんな様子だったのか?」
「ああ、あるにはあるが……あの時は、見えていなかったから、どんな様子だったのかは……」
そういえば以前ウィル様が、時間遡行前は大怪我をして視力を失っていたと言っていた。
この屋敷には、魔法に疎い私でも感じられるほどの、濃厚な魔法の気配がある。ウィル様はそれをたどって、ここまで来ることができたのだろう。
「……まあ、いい。ここまでは全員無事にたどり着いたが、この扉の先には果たして何が待っているやら」
シナモン様が、彼女にしては珍しく固い表情を見せ、ぶるりと身震いをした。
「――行くか」
ウィル様が短く告げると、全員、意を決したように頷く。
そして、魔女の館の扉をノックすると、ギイ、と音を立ててゆっくりと開いた。
*
家の中は、さほど荒れてはいなかった。
リビング……というよりも土間と表現した方が良いだろうか。
木が育たないからだろう、大きな石を切り出して作ったテーブルと、スツールが二脚。
テーブルにはチェック柄のクロスが掛けられている。布製品はどこかから入手できるようだ。
その奥には鍋や食器が置かれていて、シンクやかまどもあるが、もう長いこと使われていないのが見て取れた。
「さあ、どうぞどうぞ、座るのじゃ。硬い椅子で申し訳ないがのう……あ、しかも二脚しかないのじゃった」
魔女はそう言って、一生懸命
「うんしょっと……あ、すまんのう、わらわが座ったら一脚しか残らないのじゃ」
魔女はちょこん、と石のスツールに座って、足をぶらぶらさせる。
そして、呆気にとられている私たちに向かって、改めて挨拶をした。
「皆の者、よく来たのじゃ。わらわが『魔女』じゃ」
魔女は、ふふんと胸を張って、尊大な態度をとる。
高く可愛らしい声で私たちを見上げているのは、床まで届くほどの長い
扉が開いた瞬間は、従者か何かかと思ったのだが、やはり彼女が魔女本人だったようだ。
「あなたが……魔女?」
「そうじゃ、不服か?」
「いえ。その不思議な魔法の力……間違いなく貴女が魔女なのでしょう」
可愛らしい姿をしているが、彼女から発せられている魔法の力は、とてつもないものだ。
純粋な魔力とも、聖力とも呪力とも違う、不思議な気配である。
「お客が来るっていうから、首を長くして待っておったのじゃ。ええと……そちらの二人は初めましてじゃな?」
「……二人?」
「ああ、すまぬ、二人と一匹じゃった」
私たちは、顔を見合わせる。
ウィル様は魔女と会ったことがあるはずだが、シナモン様も、クロム様も、もちろん私も、彼女とは初対面のはずだ。
「……ああ、そうか、覚えておらぬか。まあ、良い。しかし、二回目にして無傷でここまで来るとは、そちもなかなか優秀な男のようじゃの。旧友を思い出すわ」
魔女はウィル様に視線を向けて、満足そうに頷く。
「あの……ここに来る前に巨大な鳥が現れたのですが、あれは? 合格とか何とか言っていましたが」
「わらわの友人じゃ。悪人ヅラじゃからよく勘違いされるが、根はいい奴なんじゃよ。いきなり襲いかかってくるような危険人物がわらわに近づかないように、番犬ならぬ番鳥のようなことをしてくれてるんじゃ」
「うっ……危険人物」
「……まあ、人のことは言えないが、戦い慣れしているせいで脳筋な行動を取りがちだよな。騎士という人種は」
シナモン様がぼそりと突っ込みを入れ、ウィル様は気まずそうに目をそらす。
時間遡行前の彼は、鳥に氷魔法を放ったと言っていた。彼らにとって危険人物に該当すると判断されたようだ。
「あれに認められたから、
「今回は願い事ではなくて、聞きたいことがあって来ました」
「ほう? 言ってみよ」
「――前回、俺が願ったこと。その代償と……『土産』のことで」
「ふむ。見つけたか? わらわの望む、『賢者の石』を」
魔女はすう、と、その
品定めをするかのように、その視線をウィル様に向け、薄く笑んだ。
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