3-29 神殿騎士、カッコ仮



「状況報告に参りました。神殿騎士、カッコ仮、アイザックと申します」


 牢屋を訪れ、王太子殿下に頭を下げているのは、ウィル様の兄、アイザック様であった。


「ああ、ウィル。どうだい、神殿騎士の制服、似合う?」


 アイザック様は、驚いている様子のウィル様に、くすりと笑いかける。


「……急拵えの偽神殿騎士団なのに、道理で統率が取れていると思いましたよ。兄上が霧魔法で密かに指示を出していたのですね」


「そういうこと。本物の神殿騎士は一人だけ、あとは魔法騎士団の新人さんたちと、OBの俺――他の団員に顔を知られていない者だけで構成された、偽神殿騎士団さ」


 なるほど、神殿騎士団が偽物だったのか。

 魔法騎士団の指示を受けていた人たちだったから、私たちは簡易的な縛り方をされて、同じ牢に入れられたのかと納得する。


 けれど、それだと、治療のために訪れた本物の聖女と神殿騎士たちに、気づかれてしまうのではないか?

 疑問が顔に出ていたのか、アイザック様は私の方を見て、説明をしてくれた。


「ミア嬢にも経緯を説明しておこうか」


 アイザック様の話によると、ローズ嬢の協力によって、『南の丘教会』が、他の教会から離反した聖女・神殿騎士たちで構成される特殊な教会だと判明したという。


 ローズ嬢は身分を偽って南の丘教会に通い、聖女マリィと話をする機会を得た。

 そこで、舞踏会の日に聖女たちの力が必要になる可能性が高いと説明し、事前に派遣要請を取りつけた。


 さらに、聖女マリィも、南の丘教会に在籍する誰かから、事前に何らかの不穏な話を聞いていたらしい。

 彼女は、神官長に内緒で聖女と神殿騎士を動かすことを、了承してくれた。


「神官長だけは、教会上部と繋がっていて、信頼できないんだ。どうやって彼の目を盗んで聖女たちを外に出すか、そこだけ心配していたのだけど――昨日の夜になって、神官長は一人の男を連れて、外に出かけていったんだよね」


 神官長がどのぐらい南の丘教会を空けるのかは不明だが、とにかく、思いもかけぬチャンスだった。

 アイザック様とローズ様は、聖女マリィと共に、急いで聖女たちと神殿騎士たちを誘導。安全なところで、一晩待機してもらったという。


「そうして、王城近くで待機していた彼らに、事件の後、すぐに通信魔法で連絡を入れたんだ。すでに治療が始まっていて、他の教会には派遣要請は飛んでないから、問題ナシ」


「外務大臣やガードナー侯爵は、問題ないのか? 接触したらまずいのでは?」


「殿下、ご心配なく。傷病者はボールルームに集まっていますし、魔法騎士団が外部からの接触を絶っていますから。それに、ちらりと見られたとしても、彼らがどこの教会から来ているのかなんて、侯爵たちにはわからないと思いますよ」


「確かにな。偽神殿騎士団も怪しまれなかったぐらいだしな。……そういえば、ガードナー侯爵が連れていた本物の神殿騎士たちはどうしたのだ?」


「侯爵がボールルームに入って挨拶をしている隙に、制圧しました。鍵付きの部屋に押し込めて、制服を拝借して、あとは知っての通りです……協力者である本物の神殿騎士をリーダーに据えて、あとは俺と、魔法騎士団の新人たちで侯爵の元へ」


「あの……その本物の神殿騎士様も、南の丘教会の方なのですか?」


 私は、おずおずと問いかけた。


「うん、そうだよ。彼がどうかしたの?」


「あ……いえ、個人的なことなので、今は大丈夫です。ただ、後で少しだけその方とお話させてもらえませんか?」


「うん? それは大丈夫だと思うけど……」


「ありがとうございます。途中でお話の邪魔をして、申し訳ありません」


 私が謝罪すると、殿下とアイザック様は、状況の確認を再開した。

 私の態度が気になったらしいウィル様が、小声で問いかけてくる。


「ミア、その神殿騎士に、何の話があるの?」


「あの方……おそらく、母――ステラ様の護衛をしてくれていた神殿騎士様なのです。もしかしたら、私の両親の居場所をご存じなのではないかと思って……」


「ステラ様の?」


「ええ。実は――」


 私はウィル様に、例の神殿騎士にかけられた言葉を説明した。

 そして、ステラ様の手記に書かれていた、彼に関する内容も、共有する。


「そっか……それは確かに気になるな」


 そうしているうちに、殿下とアイザック様の話も済んだようだ。


「そういうわけで、夜までには落ち着くと思います。安全のためにも、もうしばらくここでお待ち下さい」


 そう言って、アイザック様は牢屋から出ていった。



 その後。

 アイザック様の言葉通り、夜になって、私たちは全員、「冤罪だった」ということで解放された。

 かわりに、上階に続く道の途中にある牢屋から、昼間に聞いた外務大臣のがなり声が聞こえてきたのだった。

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