第148話 みっけ

 フェルカナにジャンプしてコッコラ商会に出向き、久々に会長から貰ったコインを提示し支店長に面会を求めた。


 「ユーゴ様でしたね。今日はどの様なご用件でしょうか」


 「口が固く信頼出来る者を使い、内密に人を探して欲しいのだ」


 「それは問題ありませんが、どの様な方でしょうか」


 「名前も何も判っていないが、数年前に授けの儀を受けている。その際に神様の悪戯だと言われた者に会いたいのだ。出来れば内密に」


 当座の費用だと言い、金貨20枚の包みを渡す。


 「旦那様のお客人の頼みです。その様な気遣いは無用です」


 協力して貰うには、店の者以外にも聞く必要が有るだろうからと受け取らせて、十日後に来ると伝えて街を出る。


 * * * * * * *


 「お待ちしておりました。ユーゴ様」


 「問題の者は見つかったのですか?」


 「お探しの者はいました。その者はベイオス現在18才ですが、親に売られて奴隷同然の身です。まぁ売られたとは語弊がありますが、親の借金のカタに奉公させられています」


 「何処に居るのか判りますか?」


 「荷運びを請け負う運び屋で〔ランゴット商店〕です。近隣への荷物の配達等で居所は一定していません。フェルカナが拠点の運び屋ですので、待っていれば戻ってきます。必要でしたら、指名して仕事を依頼しましょうか」


 そうだった、コッコラ商会は穀物商で手広くやっているんだった。


 「運ぶ荷物なんて有るの? マジックポーチかマジックバッグで運んでいるんだろう」


 「いえ、倉庫内の荷物整理ですよ。人を雇って仕事をさせれば、使用人達が楽を出来ますので」


 お願いして呼び出せる日が決まれば店に来る事にした。


 * * * * * * *


 当日、コッコラ商会の使用人に紛れてその男を待つ。

 数名の男達と共に、番頭と名乗るオヤジに連れられてきた男は狐人族で赤毛、瞳の色は金色に近く痩せて長身栄養状態の悪い痩せっぽち。

 番頭に怒鳴られながら倉庫に連れて行かれた。


 「こらー、愚図愚図するな! とっとと運べ!」


 怒声罵声を浴びせながら追い立てる様は、確かに奴隷同然だな。

 店の者の後に従いながら、問題の男を鑑定して見た。


 (鑑定!・魔法とスキル)〔風魔法・水魔法・氷結魔法・雷撃魔法・結界魔法・空間収納、魔力・78、建築スキル・加工スキル・装飾スキル〕


 魔法は六個も授かっていたが、スキルにずっこけそうになる。

 やはり神様の悪戯とは、此の世界の言語ではないと思われるが彼は転生者なのか。

 それを確かめる為に、荷物を置いて通り過ぎる男を呼び止めて地面に字を書いてみた。


 〔俺は河瀬、お前の名は?〕


 男の顔こそ見物だった。

 地面に書かれた文字を見て震えだし、やがて声も無く泣き出した。

 やはり日本からの転生者か、これで神様の悪戯と言われた者達は転生者に間違いないだろう。


 〈何をサボっている! のろまの癖にサボるなら飯は抜きだぞ! さっさと働け!〉


 「あ~、ちょっと良いかな」


 「なんでぇ、忙しいんだ仕事の邪魔をするな!」


 「彼と少し話しをしたいのだが」


 そう言って、金貨を指で弾いて見せる。

 キラキラ光る金貨から目を離さず、俺の言葉を脳内再生させているのが丸わかり。

 俺の要望を受け入れれば金貨はお前の物、と、徐に頷いて見せる。


 「アー・・・コホン、ああ、そうだなぁ~。俺はちょっと用事が・・・」俺の手から視線を外さずに答える。


 「用事なら仕方がないな、ゆっくり行って来な。その間サボらない様に俺が見張っていてやるよ」


 男の手に金貨を押しつけてウインクをしてみせる。

 「じゃっ、じゃーちょっとお願いします」満面の笑みで金貨を握りしめて離れて行く。


 「以前の名は?」


 「あんたも日本人か?」


 「時間がないのだ、質問に答えろ!」


 「俺を助けてくれ! こんな世界はもう沢山だ! 何で、なんで俺がこんな所に居るんだ!」


 いかん、同じ世界の人間と判り、感情が爆発している。

 興奮状態の男を、ブラックウルフ並みの威圧で黙らせる。

 男の声に、不審げな店の者が近づいて来るのを手で制し「落ち着け。今の生活から抜け出したいのなら俺の質問に答えろ!」


 「本当か! 本当に助けてくれるのか?」そう言って俺に掴みかかって来る。


 駄目だ、今度はブラウンベア並みの威圧で黙らせて、腰砕けになるまで威圧を続ける。


 「これが最後だ。俺の質問に答えるか、今の生活を続けるか選べ!」


 威圧を掛けたまま、ゆっくりと言い聞かせる。


 地面にべったりと座り込み震えているが、漸く俺の言っている意味を理解した様だ。


 「助けてくれ。何でも喋るから助けて下さい」


 「だから名前を聞いている」


 「本間・・・本間浩一、だ。今の名前はベイオス」


 「借金のカタに奉公に出されたと聞いたが、借金の額は?」


 「俺が知った時は80万ダーラだったんだ、だけど巣立ちの前には300万ダーラに膨れ上がっていて、親父が俺を奉公に出す条件で又100万ダーラ受け取りやがった」


 育った街と家の場所、親の名を聞いたら用はない。


 「判った。もう暫く辛抱していろ。お前を引き抜く手配をしてやる。それから何か聞かれたら借金の事や奉公に出された話をしたと言っておけ」


 「必ず助けてくれよ。頼むよ、絶対だぞ!」


 男を仕事に戻らせると、どうやって引き抜くか考える。

 話の経緯から、借金漬けにしての人身売買に等しい遣り口に思えるので、不当な利子の請求か人身売買の方向で責めてみるかな。

 それには貴族の権威を笠に責めるのが手っ取り早いし、幸いにもロスラント伯爵が御領主様だ。


 支店長に礼を言って店を後にし、辻馬車を雇い勝手知ったる領主の館に向かう。


 * * * * * * *


 ロスラント邸では、顔見知りの執事ペドロフに迎えられて奥様にご挨拶。

 適当な事情を話して、ペドロフに俺の指示する文言を書かせた書類を一枚貰い、馬車を借りて街に戻る。


 先ずジンバル通りに向かわせたが、一つ手前の通りで馬車は止まり「これ以上は進めません」と言われてしまった。

 馬車を待たせてジンバル通りに踏み込むが、路地より広い道なのだが馬車では通れない。


 通りに佇む者達は胡乱げな目で俺の様子を探る様に見てくる。

 22番地4階8号室、汚いドアをノックするが出て来ない。

 人の気配は有るのだが、息を潜めている感じなので「ルークス、御領主様の使いの者だ、開けろ!」と怒鳴りつける。

 貴族の使いはとは、尊大で横柄と学習しているので実践する。


 「居るのは判っている。開けねばドアを蹴破るぞ!」


 カタリと閂を外す音が聞こえ、細くドアが開けられた。


 「ベイオスの父ルークスだな。さっさとドアを開けろ!」


 怒鳴りながらドアを押し開けて室内に踏み込む。


 四畳半二間くらいの部屋に、年老いた女と子供が二人。

 典型的な貧乏暮らしで、借金漬けの生活の様だ。

 一枚の書類を眼前に広げ「お前が奉公に出した、ベイオスについて聞きたい事がある!」


 上等な街着を来ているが紋章すらつけていない。

 その俺が伯爵様の代理人を装い、横柄に問うと恐縮して頭を下げる。


 「幾らの借金でベイオスを奉公に出した?」


 「へい・・・そのう、家は貧乏でして、それで」


 「聞いている事に答えろ! 素直に答えなければ、お前が自分の借金を子供に負わせて売り飛ばした、人身売買の疑いで取り調べる事になるんだぞ。判っているのか?」


 「滅相も御座いません。ただ、伜が働き口がないと申しますので」


 「ほう。そんな言い訳が通用するとでも。ベイオスから話は聞いているが、お前は話す気がない様だな」


 此処でブラックウルフ並みの威圧を掛け「取り調べは厳しいぞ。犯罪奴隷になりたいか」と、耳元で囁いてやる。

 この脅しは効いたようで、顔色を変えて喋り始めた。


 「最初はほんの僅かな飲み代だったんです。その、持ち合わせがない時に立て替えて貰い、ついズルズルと奢って貰っていたんですが」


 「で?」


 「その立て替えた金を払えと言われまして・・・手持ちが有りませんので借用書を書き、そしたら金が要るのなら貸してやると」


 「で、ベイオスを売り渡した時は幾らの借金になっていた」


 「確か700万ダーラになっていて」


 まるで高利のヤミ金から借りたと言うか、飲み代を集ったつもりが借金漬けにされた間抜けか。


 「借用書の写しを出せ」


 「へっ」


 「借用書の写しが有るだろうが! それを出せと言っているんだ」


 差し出した借用書の写しには700万ダーラの金額、発行日は二月前で返済日は一月前と、とっくに過ぎている。

 金利も何も書かれていない借用書ねぇ。


 ちょいと脅して新たな借用書を書かせれば幾らでも借金漬けに出来るし、僅かな元手で雪だるま式に借金を背負わせられる。

 端から元手の回収は考えておらず、利子と子供が大きくなれば取り上げてただ働きをさせる。


 「此れは貰っていくぞ。お前は借金の事を忘れて働け。多分もう来ないと思うが、ランゴットの奴が何か言ってくれば、借用書は御領主様が持っていったと言え」


 年老いた女に銀貨を幾らか握らせ「子供に飯を食わせてやれ」と言っておく。

 ベイオスの用事が済めば返してやるので、少しは生活が楽になるはずだ。

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