第145話 噂話
シエナラに到着した時には、王都を出てから二月半も経っていた。
お陰でデリスの土魔法も十分上達したし、索敵や気配察知も並みの冒険者に引けを取らない程度には使える様になった。
ハブァスではギルマスを脅したのに、デリスはアイアンの二級に昇級した。
デリスに獲物を売りに行かせると俺は受付に行き。パーティー仲間募集の張り紙の許可を申請。
10日で銅貨2枚2.000ダーラって、確り金を取るのかよ。
30日分の銅貨6枚を支払い〔ユーゴ、連絡を待つ〕と書く、張り紙の下に有効期限が記され、期限内の張り紙を捨てたものは罰金だそうだ。
金は取るが、その間目的の為の保護もするって事か。
食堂でエールを飲みながら待っていると、デリスがゾロゾロとお供を連れてやって来る。
面白そうなので、目配せをして素知らぬ顔を決め込む。
デリスも素知らぬ顔で俺の横を通り過ぎてカウンターに向かった。
〈なぁ~、俺達のパーティーに入ってくれよ〉
〈幾ら腕が良くても、ソロは大変だぞ〉
〈魔法使いなら、詠唱の間に襲われたら一巻の終わりだぞ〉
〈いやいや、俺達のパーティーなら稼ぎの半分はお前に渡すよ〉
〈邪魔をするな! 俺達が勧誘しているんだから〉
あらら、デリス君大もてだねぇ~。
デリスが返事をせずに、エールとサンドイッチを受け取り俺のテーブルにやって来る。
黙って俺の前に座ると俺の顔を見てビクッとし、デリスと俺の顔を見比べる奴や〈ゲッ、奴の連れかよ〉等と言って、そそくさと逃げて行く失礼な奴等。
デリスに群がっていた奴等が、あっと言う間に散ってしまった。
「デリス君、モテ期だったのに振られちゃったねぇ~」
「ユーゴさん、シエナラで何をやったんですか? 王都じゃこんな事は無かったのに、まるで・・・」
「まるで、疫病神かな」
まっ、似た様な物だけど、絡んでこなきゃ俺は無害だぞ。
「おい、来ているのなら何か持っているだろう」
「サブマス、相変わらず煩いって事は・・・」
「悪かった。此れでも声を控えているんだぞ」
「声を控えても、サブマスが此処まで出てきた時点で注目の的だろう」
「何を言う。ギルドの隅々まで目を光らせるのも俺の仕事だ! それでだ、王都のギルドに渡した奴に負けない様なのが欲しいんだが」
声を潜めても地声が大きいので、周囲の奴等が騒ぎ出す。
「サブマスがのこのこ出てきて、獲物なんて言ったら碌な事にならないからな」
「お前がドラゴンスレイヤーだと皆知っているので、どのみち注目の的だぞ」
「白いフォレストウルフを二頭持っているよ」
「それって王都のギルドに卸した奴か?」
「そうだ、シエナラのギルド用に二頭残しているのだけど、要らないのなら王都で売るよ」
「待てまて、頼む! 売ってくれ! 折角ドラゴンを売ったのに、白いフォレストウルフに人気を攫われてしまってな。それに、あれは金貨730枚で落札されたぞ」
「またまたぁ~、たかが毛色の白いフォレストウルフだぞ」
「馬鹿! 多寡がじゃない! 初めてオークションに掛けられた超希少種だ! それとドラゴンの代金426,880,000ダーラは、お前の口座に振り込んでおいたからな」
「ん~、それって手数料を引いた額だよな」
「当然だ。20%の手数料でギルド本部もご満悦だそうだ。と言うか、確認してないのか?」
「サブマス、煩いって。俺はエールを飲んでいるんだから、唾を飛ばすなよ」
俺達の遣り取りにデリスがクスクス笑う。
「ん、誰だ?」
「俺の連れだよ。冒険者登録をしているし、一応俺の配下でもあるな」
「腕の方は」
「未だ訓練中だけど、さっき解体場で獲物を渡しているよ。俺もエールを飲んだら持って行くので、誰も入れるなよ」
「判った、待ってるぞ」
確か皆が狩ったドラゴンが手数料を引いて364,300,000ダーラだったはず。
少し大きいドラゴンが426,880,000ダーラ。
その差62,580,000ダーラ、2m程の差で此れほど差が付くのかねぇ。
サブマス立ち会いの下、純白のフォレストウルフを引き渡す。
解体主任もサブマスも初めて見るので、唸りっぱなしで煩い。
デリスは、あんぐりと口を開いて見惚れている。
* * * * * * *
商業ギルドで残高確認をしたが、16億ダーラを越えていた。
月に30枚の金貨すら使い切ってないのに、商業ギルドに1万6千枚以上の金貨が有る事になる。
頭が痛いので放置する事にした。
昼は草原に出て、デリスのストーンジャベリン作りと射撃練習。
俺は魔力量の確認をする。
魔力は73と変わらないが、ストーンランス10発射って残魔力69程なので、推定180回の魔法使用が可能となっている。
魔力の回復を見計らってデリスを鑑定して見ると〔魔力・80〕と一つ増えているので、俺の周辺に居る者は魔力切れを続けると魔力が増える様だ。
五日目にハリスン達と合流し、近況報告がてら俺を探している奴がいるらしいと教えてくれた。
それも冒険者パーティーらしいとの事だ。
七日目の夜にはコークス達が訪ねて来て、ハリスン達と同じ事を言われた。
「ユーゴ、あんたを、ドラゴンスレイヤーを探しているんですって。私も又聞きだけど〔鋼鉄の牙〕って六人だそうよ。何でも揃いの黒い軽鎧と黒装束の嫌な連中って」
「多分、ユーゴがドラゴンスレイヤーとして名が売れたので、お前を倒せば自分を高く売れると思う様な連中じゃないのか」
「今や無敵のドラゴンスレイヤー、お前と対等に渡り合えるだけでも仕官先には困らないだろうな」
「俺と対等なら、冒険者としても稼ぎ放題で仕官の必要はないと思うけどな」
「お前は貴族なんて屁とも思ってないが、貴族に尻尾を振るのが好きな奴もいるのさ」
「ドラゴンスレイヤーと知れ渡り、冒険者から男爵になっているんだぞ。お前と対等か強いとなれば、お貴族様になれると早とちりする奴も出て来るのさ」
「ところでグレンが王家に呼び出されて王都に戻ったが、又此方に戻って来たが何か有ったのか?」
「さぁ、何も聞いてないよ。グレン達は?」
「シエナラの森は結構面白いと言って、楽しんでいるぞ」
「ありゃー、森で遊んでるな」
「女房子供をほったらかして何をやってんだか」
「男爵様で食うに困らないってのによ」
「俺を探しているのなら、ギルドに毎日行けば会えるのかな」
「会ってどうするの?」
「ドラゴンスレイヤーと知っていて、喧嘩を売ってくる奴ってどんな奴等なのか興味が湧くだろう」
「そんなに簡単に会えるかな。俺達は時々しかギルドに来ないが、黒装束の奴なんて見た事が無いからな」
「無理して探す事も無いわよ。それよりも、その子はもしかして・・・」
「そう、あの後大騒ぎになっちゃってね。カンダール伯爵様は国外追放で、伯爵家は子爵に降格されたよ。デリスはリンディが治療して元通りになったけど、後を継いだ兄貴に家から放り出されたのさ」
「えらく簡単に言ってるが、お前が引き取ったって事は」
「金貨300枚の口か?」
「俺は一枚も貰っていないよ」
「俺はって事は、誰がせしめたの」
「せしめたなんて人聞きの悪い。デリスが家を出る資金をちょいとね」
「やっぱり毟り取ったんだ」と、ボルトの一言に馬鹿笑い。
「でも、ロスラント子爵様が、伯爵様になられたって噂だけどどうなの」
「隣のファーガネス領の御領主様になられたよ。今、シエナラは代官が治めているよ」
「ファーガネス領ってファルカナの街だよな」
「あの御領主様は気前が良かったのになぁ」
「ユーゴとは相性が悪かった様だけどな」の一言に又爆笑。
* * * * * * *
俺に用が有るのならそのうち会えるだろうと放置して、デリスを連れて森での訓練に励む。
一月程して冒険者としては問題ないと判断し、一般常識をハリスン達に頼む為にギルドに戻る。
ギルドに入ると「ギルマスが用事が有るそうです」と言われて受付嬢に呼び止められた。
無視すると食堂まで降りてくるので、ギルマスの執務室へ案内してもらう。
受付嬢がノックすると野太い声で「入れ!」の声、受付嬢がドアを開けてくれたので中に入る。
「おう、呼びつけて悪かったな。ちょっと教えておこうと思ってな」
「俺を探しているって奴ですか」
「もう耳に入っているのか、時々顔を見せるが中々腕の良い連中だぞ。ただ評判が悪いのでちょっと調べてみたんだが、後ろ暗い所はなさそうだ。鋼鉄の牙と名乗る六人組で、ゴールドランクが二人に残りはシルバーの二級と腕利き揃いだな。面白いのはリーダーのバトラで、此奴はちょいと変わっている」
「何が?」
「此奴は魔力が96も有るが魔法が使えない。使えないって言うより授かっていない。所謂神様の悪戯ってやつだな。そのせいか魔法使いを異様に嫌っているらしい」
「つまり、魔法使いが羨ましいんだな」
「それはどうか知らないがプライドが高く、何れ高位貴族のお抱え騎士になってみせるが口癖だそうだ」
「貴族のお抱え騎士が目標とはねぇ。あんなものの何処が良いんだか」
「冒険者としては大出世だぞ。推測だが、そんな彼奴の前にお前が現れた。ドラゴンを討伐し男爵になった冒険者。お前と一勝負して勝てば・・・と思ったんだろうな」
「迷惑な話だねぇ。で、ギルドはどうするの?」
「何も、犯罪を犯していないしギルドの規約にも反していない」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます