第16話 ボッチと引き篭もり、A級探索者ユニコーンに絡まれる
———ダンジョンブレイクから丸2日。
俺は姫乃の家のリビングでゴロゴロしながら姫乃のお母様———姫乃と同じ様な綺麗な黒髪に少しおっとりとした垂れ目に柔和な笑みを浮かべている美女———とお話をしている。
因みにお母様とは何故か物凄くノリが合い、口下手で引き篭もりの俺でさえ話せる様になっていた。
「そう言えばライ君は結局何歳なの?」
「んー……224歳くらいですかね?」
俺が引き篭もり始めたのは24歳の頃なので、多分それくらいの年齢だと思う。
詳しくは不老の薬を飲んでから覚えていないが、まぁ後100年くらいはこのままだし気にしなくてもいいか。
「わぁ……私より大分年上なのねぇ」
そう言ってキラキラとした表情をする姫乃お母様———葵さん。
どうやら姫乃がポンコツなのは、彼女の遺伝かもしれない。
だって200歳以上離れているのに大分で済むのってどうなのよ。
「……何となく姫乃が葵さんに似ているんだなぁと思いました」
「あらそう? 確かによく似ているって言われるわ……顔かと聞いてもそれだけじゃないって言われるのよねぇ……」
「ははは……」
不思議がる葵さんには驚きを隠せない。
これがポンコツの真価なのか。
「あ、丁度クッキー焼けたけど食べる?」
「食べますっ! 是非食べさせてください!」
やったー葵さんのクッキーだぁ!
俺が魔術で手を洗ってクッキーに手を伸ばした瞬間———姫乃が現れ、俺の体をガッシリと掴む。
俺の背中に強烈的に柔らかいものが押し付けられていて思わず顔が緩みそうになるが、近くで葵さんがニヤニヤとしていたので一気に冷静を取り戻す。
「なんだ姫乃? 俺はこれからクッキーを食べるので忙し———」
「———ライヤーさんっ! 今日も配信しますよ!」
「ああああああ俺のクッキーが!?」
「クッキーは今日の夜食べて下さい! それよりもダンジョンに向かいますよっ」
「い、嫌だ……ッ! 俺は今日は家でゴロゴロダラダラしながら葵さんと雑談やらトランプでもして過ごすんだっ!!」
俺は引っ張ってくる姫乃にソファーにしがみついて応戦する。
「最近俺は働きすぎだと思うの! 少しくらいサボっても良くない!?」
「ダーメーでーすーっ! ライヤーさんがいないと誰がドローンを設定して飛ばすんですか!?」
「そんなの現地人の姫乃がやればいいじゃんか!」
「私は機械オンチなのです!!」
「じゃあなんで配信者になったんだよ!?」
そう言いながらも俺は必死にソファーにしがみついて何とか耐える。
しかし魔術師が剣士に筋力で叶うはずもなく———ソファーごと持ち上げられた。
「行きますよ、ダ・ン・ジョ・ン!!」
「た、助けてえええええええええ———ッッ!!」
「2人共いってらっしゃ~い」
「行ってきまーすっ」
「ちょっ———葵さああああああああん!!」
俺は笑顔で手を振る葵さんに見送られ、姫乃にソファーから離されて脇に抱えられながら外に出た。
「……ぐすっ……酷い……幾ら美少女だからってやっていい事と悪いことがあるんだぞ……」
「べ、別に泣かなくても……わ、分かりました。今日は私が主に戦闘しますからっ! ライヤーさんはヒメナーさん達と会話でもしておいて下さい」
「よし、それじゃあダンジョン行くか」
「立ち直り早っ!? もしかしてこれを狙っていたのですかっ!? ひ、卑怯ですよっ!」
俺の策略にやっと気付いた姫乃がそう言って持ち前の馬鹿力で俺の身体を揺らしてくるが、すかさず懐からとある物を取り出す。
『べ、別に泣かなくても……わ、分かりました。今日は私が主に戦闘しますからっ! ライヤーさんはヒメナーさん達と会話でもしておいて下さい』
「こ、これは……っ!」
「そうだ……この世界の文明の利器、録音機だ! 此処にしっかりと姫乃の言質を取っているからな! もしもの時は配信中にヒメナー達の前で流して愚痴る!」
「容赦ない!? 容赦なさ過ぎですよライヤーさんっ!!」
「無理矢理引き篭もりに働かせようとする姫乃が悪いんだ! ふふふ……これを配信内で流されたくなかったら大人しくするんだな……」
そんなことをしながら戯れあっていると、何処から共なく罵声が響く。
「———やはり貴様は我らの女神———姫乃様には相応しくないっ!!」
俺達がその声の主を探すと、そこには大剣を背中に担いだ身長190センチはありそうな大男が怒りに震えながら立っていた。
突然の見知らぬ者の登場に、陰キャ筆頭の俺達は呆然&困惑&恐怖。
「え、えっと……姫乃、彼は君の恋人か何か?」
「こっ!? こここ恋人なんて今まで居たことありませんよっ!」
「だろうな。だってボッチだし」
「ぐすっ……ライヤーさんもどうせ恋人いたことないくせに酷いです……。ですが、彼は1度も会ったことありませんよ」
「じゃあ誰だよ」
俺達がコソコソと話し合っていると、いきなり男が目の前に現れて俺と姫乃を引き離すかの如く俺達の間に滑り込む。
そして姫乃の肩を抱き(驚きと異性に触られたことにより固まる姫乃)、まるで俺が悪役かの如き表情で指を刺して来た。
「貴様! 先程
「さっき
「五月蝿い! 醜い悪は黙っていろ!」
「み、醜い!? ……おい、言うじゃねぇかこの野郎! 引き篭もりに醜いなんて言った日にはソイツ死ぬぞ! お前の安易な言葉選びで人が死ぬんだぞ!?」
俺がまさか激昂するとは思っていなかったのか、少し怯む男。
というか———
「お前誰だよ!?」
「俺の名前は
「…………ああ……これがユニコーンって奴らなのか」
因みにユニコーンとは、推しが誰かと付き合う、又は仲良くすることは許さない奴らの事で、所謂ガチ恋勢に多い奴らの総称らしい。
俺が納得したとばかりに頷いていると、白波和也が、こんな人の多い都市部にも関わらず俺に剣を向ける。
その瞳は血走っており、明らかに普通の理性ある人間ではない。
「おいおい何しようとしてんの? こんな公共の場で武器を抜くのはいけないんじゃないのか?」
「五月蝿い! 俺は姫乃様を助けるからいいんだ! しかしお前はダメだ! 貴様は姫乃様の害悪だからだ!」
「ひでぇ何でも理論だなおい。ただ1つ忠告しておくぞ」
公共の場での魔術使用は禁止と分かっているが、今回は仕方ない。
恐らく誰かしらが録画でもしてるだろうからそれを証拠に警察に言い訳すればいっか。
「———陰キャは突然のボディタッチを嫌うんだわ」
俺は身体強化魔術を使い一歩でユニコーンに近付くと、姫乃をユニコーンから引き離す。
こういう時はお姫様抱っこだと全ての漫画で書いてあったので勿論お姫様抱っこで。
「なっ———い、いつの間に!?」
驚くユニコーンを他所に、俺は姫乃へと話し掛ける。
「大丈夫? 何かエロい事されなかった?」
「そ、そんな事されていませんけど……少し怖かったです……」
俺の腕の中で少し恥ずかしそうに頬を染めて目を逸らす姫乃。
エロい事と言ったのがいけなかったのだろうか?
しかしどうやら俺の後ろでお尻を揉んだり……なんて漫画の様な事は起きていなかったらしい。
まぁ仮にされてたら姫乃がユニコーンぶん殴って終わりか。
「どうしてくれんのユニコーンさんよぉ? 俺の大事なパートナーが怖がってんじゃん」
「だっ、大事なパートナー!?」
「ライヤーさんっ!? な、何急に言っているんですか!?」
「え?」
ユニコーンが驚きと更なる怒りを込めて声を上げ、姫乃が先程よりも一層顔を真っ赤にしながら俺の腕の中で悶える。
そんな予想外の2人の行動に、俺の頭の中は『?』まみれだった。
何か俺おかしなこと言った?
俺はただ、姫乃は俺を居候されてくれてるルームメイトで、ダンジョン配信での初めてのパートナーだからっていう意味で言ったのだが……。
俺はイマイチ釈然としなかったが———
「貴様だけは絶対に許さん……! 姫乃様が俺に触れられて怖いだなんて言うわけがない……! 貴様はこの場で殺してやるッ!!」
「ええ……片想い乙。推しと付き合えるなんて思ってる奴は痛いぞぉ? 推しは届かないからこそ推しなんだからな? 異世界人の俺が何言ってんのって思うかもだけど」
———取り敢えずこの頭イカれユニコーンを何とかすることにしよう。
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