第2話

「どうしてこうなった……っ!」


王宮の一室で、俺は何度目になるか分からない言葉を吐いた。


冒険者が使うような安宿しか使ったことのない俺からすれば引くほど広く、豪華な部屋である。盗聴の類の魔道具や魔法、あるいは人員が配置されていないのは確認済みだ。


そうでなければ愚痴なんか吐けないからな!


そして俺こと冒険者アインは心底困っていた。


問題があるからだ。


聖剣抜けたんだから良いじゃんって思うだろ?


俺も抜けた瞬間はそう思ったよ!!

大歓喜で狂気だよ!


たまたま依頼で立ち寄った町でちょうど聖剣適合の儀があるっていうからさ、記念にチャレンジしとくかって思う訳よ。


そしたら魔族出るじゃん?


魔物湧くじゃん? 


死んだなって思ったよ。


でもちょうど俺の番だし一応聖剣抜いてみるかって台座にある剣抜こうとするじゃん。


するって鞘から抜けました。


あ、これはやったねって思ったよ。


かーっ! 俺の時代来ちゃったなー!

歴史に名前載っちゃうなーって!

銅像とかもワンチャン立っちゃうかなって!


湧き上がるパゥワー!

全能感!


聖剣無かったら秒でミンチにされる未来しか見えない鬼の魔族も、そんなにギチギチに詰めて動きづらくないのって大量の魔物も、一振りでなんとかなるって理解させられた。


これが聖剣からの何か凄い力……!

授けられる叡智……!


横薙ぎに剣を振り切りながら、脳裏に浮かぶのはモテモテの俺!


かつて見た聖剣使いのように、町中の女性から熱い視線を受けちゃったりして!


にやけながら振ったよね。


で、振り切って魔族も魔物も皆消し飛ばした瞬間にさ、聖剣から声が流れ込んできたんだよ。


__残存エネルギー0%


__休眠モードに移行します


は?


って思った瞬間に身体から抜けるパワー。


そして休眠状態とかいうのに勝手になった聖剣。


そのままの体勢で思わず呟いちゃったよね。


「どうしてこうなった……」


って。


そしたら台座に置かれたままの鞘が勝手に俺の剣に飛んで来て良い感じに収まるのよ。


それを見てどよめく群衆。


何か皆がキラキラした目で見てくるの。


そっからはあれよあれよと言う間に、なんか偉い人きて、さらに偉い人から呼ばれて王宮よ。


で、こっからが本題。

なんで俺が困ってるのか?


それは、聖剣使いになった時にはお披露目的なやつがあるからなんだよ。


お披露目そのものは大体王宮か聖堂のどちらか、その後民衆向けの計2回行われる。


聖剣の能力を披露して、宣言をするまさに歴史に刻まれる1ページって感じのやつ。


俺も見たことある。


あれは俺が子供の頃、丁度使い手がいなかった炎の聖剣が抜かれた時、がっしりとした体格の聖剣使いが、


「我こそは炎の聖剣使い! 身命を賭し、魔を焼き払い、民の灯火となることを誓おう!」


って噴き上がる炎と共に宣言する姿を……!


はい、そこで問題、俺の聖剣は休眠してます。


つまりお披露目しようにもなんもできません!


聖剣使えないことがモロバレです!


え? 素直に言えばいいじゃんて?


俺も考えたよ?

素直にごめんなさいすれば良いって。


でもさ、聖剣使いだよ?


皆の憧れだよ?


なんとかその恩恵を享受したいって思うのが人情だろ?!


何とかしたい、何とかせねば、そうやってうんうん唸っていると


「マスター、複数の存在がこの部屋に近付いてきています」


幼い声が俺に掛けられた。


声の方向を向けば、ふかふかの椅子に座る銀髪の少女。


肩まで伸ばされた銀髪、恐ろしいまでに整った顔立ち、真っ直ぐに向けられる赤色の瞳。


無表情でどこか無機質な少女。


これが問題その2、聖剣そのものであると主張する少女だ。


俺のキャパシティはもういっぱいいっぱいである。

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