不抜の聖剣使い〜聖剣を抜くまでもないんじゃなくて抜けないんですう?!
コパン
第1話 抜けた聖剣
聖剣を抜けたら。
それは世の子供達が一度どころか、大人になった後にも数えきれないほど考え、酒を飲みつつ
「聖剣を抜けたら俺もモテモテのウハウハなんだよなあ!」
とか皆で聖剣を抜いたらしたいことあるあるややってみたいことあるあるを語りだすものである。
勿論俺もある。
選ばれし者にしか抜けない聖剣。
抜けば聖剣から凄まじい力が与えられ、国や教会からの援助や補助も得られ、貴族や一国の王ですら迂闊に干渉できないほどの地位や権力を持つことになるとも。
古来、今と違い魔物も魔族も大量にいて、魔王とかもいた時代では最前線に出て戦う義務もあったそうだけど、平和な今では年に1回か2回ちょっと強めのやつを聖剣の持つ圧倒的なパワーで駆逐する程度。
俺も見たことある。
あれは俺が子供のころ、大木のような一つ目の魔物を一方的に蹂躙する聖剣使いの姿を。
事前に告知がされ、あたりには出店が並び、お祭りみたいな雰囲気の中で行われた討伐だった。
討伐後には金髪で、見目も整った聖剣使いは返り血もなく、息も切らした様子も無く、爽やかな笑顔を群衆に振り撒いていたなあ。
その後、町中の女性に囲まれ、女性達が熱に浮かされたような表情を浮かべる様子を見て、俺だけに限らず誰しもが羨んだものだ。
あの時の経験が今思えばその後の俺の人生を決めたのかもしれない。
聖剣を抜いたらそれだけで人生勝ち組。
それが俺の認識である。
しかし勿論抜く事はたやすいものではない。
各国と聖剣を保管する聖教会が協力し、年に一度行われる聖剣適合の儀があるのだが、何万、何十万もの人が試し、何十年、物によっては100年以上経とうとも抜けないことも少なくないのが聖剣なのである。
まず聖剣そのものは古代の超技術、今は失われた時代に72本作られた。
結構多い。
でも壊れたり、紛失したり、行方が分からなくなった物もあり、現存し、把握されている聖剣は30本くらい。
そのうち抜くことができ、現在使われている聖剣は9本のみ。
世界で9本、つまり今聖剣使いは9人しかいなかったのである。
そう、今までは。
「聖剣が抜けた…」
静寂の中誰かが呟いた。
誰しもが、目まぐるしく変わる状況に心が着いてこなかった。
聖剣適合の儀が行われる広場は、大量の人が行き交いできる作りとなっている。
そこに突如現れた魔王軍を名乗る鬼の魔族。
騎士が見上げるほどの褐色の体躯は筋肉で盛り上がり、その手にはその身体を隠せる程の大剣、人が持とうとすればおそらく10人以上は必要であろう。
それだけの大きさの剣が片手で振るわれると、一瞬で10人以上の騎士達がこの世から消え、血煙と化した。
圧倒的な魔力を纏い、武威を撒き散らす魔族。
さらに広場にいる人々を囲むように現れた無数の魔物達。
人々は絶望した。
鬼の魔族が号令をくだし、殺戮が始まろうとした時、光が満ちた。
誰しもがその光に目を奪われた。
光が収まると、先程までの絶望の象徴である鬼の魔族と魔物達は消え去っていた。
唯一残されたのは、何かに抉り取られ無数の穴が空いた大剣と、その柄に握られたままある千切れた腕だけであった。
そして人々は遅れて気付く、広場の中心、抜けないはずの聖剣が突き立った台座から剣がないことに、その剣を横薙ぎに振り切ったであろう体勢で残心している青年の姿に。
先程までの絶望が一振りで嘘のように、呆気なく払われたことに。
聖剣使いとなるだけで歴史に名が記されることとなるが、後の世において最も謎が多く、その後の時代に現れた星断ち、時斬りと並び最強を議論される聖剣使い、不抜のアインが歴史の表舞台に立った瞬間である。
なお、後の世には残されていないが青年アインはこの時小さく
「どうしてこうなった……」
と呟いていたが、その言葉は誰の耳にも届かず、群衆の爆発的な歓喜の声にかき消された。
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