第6話 青と灰
「【ウォーターボール】!」
事故があった次の日もグレイは訓練場にやってきた。魔法を使うところを見たいと言うのもあるが一番はライルと話したかったからだ。
そして、それはライルも同様だった。
昨日のお礼、そして今までの仕打ちの謝罪をする為にも魔法を練習するところを見せると言うのは建前としても場所作りにしても丁度良かった。
とはいえ、すぐに会いに行って話すには生まれてきてからの行いとそもそも会話をしたことがない為にどんなふうに話し始めれば良いのかと言う接し方が分からないことで二の足を踏んでいた。
(いつもはもっと簡単だったのに……!)
訓練場の真ん中にいるライルと端の方でじっと見てくるグレイの距離がそのまま彼らの積み重なった負債の大きさとなっていた。
そんな二人を見かねてか、それとも本人も話したかったのか助け舟が流れてきた。
屋敷からアルベルトと老執事がグレイの元にやってきたのだ。
「昨日は礼も言わず済まない。それから……」
「顔が怖すぎます、それにもっと言うべきことがあるでしょう」
相変わらず怖い顔でグレイと話すアルベルトを叱咤する老執事によって、無意識だったのか少しだけ怖かった顔が和らいだ。
物凄く父が娘にかける会話にしては他人行儀と言うかこちらも距離が遠い。
「今まで見ないふりをして済まなかった。忘れてほしいとも言わない。今更すぎるが父としてやり直す機会を貰えないだろうか」
部下にすら下げない頭を惜しげもなく下げ答えを待つアルベルトはどんな反応が返ってくるのか恐れグレイの顔を見れなかった。
対するグレイはと言うと………
「???」
物凄く困惑していた。
父親が父親になりたいと言ってきた。
無視してたから?
(すでに父な筈……?)
グレイとしては自分が目の前の男の娘であることを認識しているし本も貰った。
だから感謝している。それだけだ。
本を買って貰って感謝しているし父親だと思っていたのだが違うのか?
そうアルベルトに伝えようと思ったグレイ。
しかし、それを可能とする
そこで、本に頼った。
仲良くなる方法その1、相手の目を見ましょう。
頭を下げる父親の顔を両手でふわっと掴み持ち上げる。そして、父親の目をじっと見た。
その行動に傍に使えていた老執事や今が切り出す時と近づいていたライルがぎょっとした。
見つめていてもどうにもならなかったので老執事の目を今度はじっと見る。
そこで老執事は何か伝えたいのだと気がついて紙とペンを差し出した。
グレイはそれを手にとり『父親、違う?本、嬉しかった』と書いてアルベルトに手渡した。
グレイの思っていたことからかなり文は短くなっていた。そもそも筆談ですらまともにしてこなかったので人に何かを伝えるのはかなり下手になっていた。
かなり簡略化された文に戸惑うアルベルトだが本と言うのが去年グレイに買った本のことだと気がついた。
父親として何もできなかったと思っていたアルベルトはそれを知って泣きそうになるのを堪える。
「あ、姉上……俺も…その、今までごめん!魔法が使えないからっていろんなこと」
今ならばお互いに言葉を交わせると思ったライルも謝罪をしようとした矢先ーーー
『蛇、見せて』
ライルに意識が向いたグレイはすかさず自身の目的のために動いた。
「え、蛇?俺は謝りたくて……」
謝罪をしようとしていたら急に蛇を見せろと紙を見せてくる。よく見たら目を輝かせている姉のことがよくわからなくなった。
『魔法、見せて』
続けて連投してくる姉を見て感じていた距離なんてものは自分だけが勝手に感じていただけなのだと感じ取ったライルは【ウォーターサーペント】を作り出す。
それを見たグレイは眩しいくらいに目を輝かせてクルクル蛇の周りを歩き回っていた。
その姿は何よりも大事な妹、リリィのようでやはりグレイも自分の家族なのだと改めて実感した。
「リリィを助けてくれてありがとう。今度会ってあげて欲しい、お礼を言いたがってたから」
『わかった』
そうして姉とのわだかまりを少し解消できたライルは少し疑問に思った事を聞いてみた。
「そういえば姉上、リリィを助けてくれた時どうやったんだ?魔法は使えない筈だろ?」
グレイが喋れないことは知っているライルはどうやって魔法を使っているのか気になった。
どうしても蛇にすることができないグレイはライルからの話も聞きたくて水のロープを作り出す。勿論、詠唱は無しで。
「な!?詠唱してない……!?」
ライルも簡単な魔法は関しては詠唱を縮められる。【ウォーターボール】がその例。それでもウォーターボール、と言わなければ発動はしないのだ。
「凄い……」
ライルはグレイがどれほどありえない事をしているのかを理解していた。
ライルがグレイに驚愕と尊敬の感情を向けているのに対し、屋敷からその様子を見ていたローズは敵意どころか殺意にまで発展していた。
「今のうちに消しておかないと………領主になるのはライルよ!」
ローズは捨てた考えを拾い直した。レティシアのように誰からも愛されるような忌々しい存在になる前に。
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