第3話 マッサージして欲しい
//SE 食器を洗う音
//SE 水道から水が流れる音
//SE 水道の蛇口を閉める音
「食器洗い、手伝ってくれてありがとうございました、先輩」
「料理の時と違って、冷蔵庫を往復したりしなくていいので」
「食器洗いは、キッチンが狭くてもなんとかなりましたね」
「おかげでパパッと」
「とっても早く片付けが終わりました」
「……いえ、大袈裟なんかではありませんよ」
「本当に助かりました」
「……これで先輩と一緒にいられる時間が長くなりましたから」//小声で
「彼女の手伝いに積極的なのは」
「すごくいい事ですよ、先輩」
「……お礼に、なにかご褒美をあげましょうか?」
「ふふっ」
「遠慮しなくていいんですよ」
「私にして欲しいこと、まだ何かありませんか?」
「……まさか罵倒だけじゃないですよね?」//他にもあると分かっていながら
「……はい。なんでもいいですよ」
「……例えば、そうですね」
「頭を撫でて欲しいとか、抱きついてきて欲しいとか……」//本当は自分の願い
「他には……また耳元で囁いて欲しい、とか」
「でも」
「せっかくなら、さっきとは違うことがいいですよね」
「……」//考えてる吐息
「あ」
「あの、先輩」
「先輩さえ良ければ、その」
「……マッサージ、とか、しましょうか?」
「え? そんなことできるのか、って?」
「心配しないでください」
「私のマッサージの腕は、素人に毛が生えたような……」
「……というより」
「毛が生えてないプロくらいはあるので」
「そんじょそこらの人よりは全然」
「上手だと思いますよ」
「ん……何でそんなに自信があるのか、ですか?」
「私、前に整体とかマッサージとかにハマってた時期があって」
「一人でよく、色んなお店に通ってたんですよ」
「そうしたら、いつの間にか体がマッサージされる感覚を覚えたみたいで」
「なんとなくお母さんとかにしてみたら、すごく上手だって言ってくれて」
「……先輩?」
「……その顔はもしかして、ちょっと嫉妬してます?」
「私の体を、色んな人が触ったんじゃないかって」
「……ふふっ」
「大丈夫ですよ」
「そもそも整体師さんはみんないい人でしたし」
「私も男の人に体を触られるのはあんまり得意じゃないので」
「必ず、女の人に担当してもらってましたから」
「……ん?」
「あ、いえ、得意じゃないっていうのは、だから」
「……先輩は、例外です」
「わ、わざわざ言わせないでください」
「嬉しそうな顔もしない」
「ほら、早く向こうに戻りますよ」
「キッチンにいたんじゃ、何もできませんからね」
//SE スリッパの音
「えっと、それじゃあ」
「先輩は、そっちのカーペットの方でうつ伏せになってもらえますか?」
「……はい。カーペットです」
「私は座高がそんなに高くないので」
「ソファの上だとやりづらいんですよ」
「……」//呆れ気味なため息
「ここ、脚が長いんだねって褒めるところですよ」
「……今更言っても、もう遅いです」
「……あの、別に怒ってるわけじゃないですからね?」
「そんなに不安そうな顔しなくても」
「私が先輩のこと大好きだっていうの」
「……ちゃんと、伝わってますよね?」
「……はい。なら良かったです」
「先輩はそうやって笑っている方がかっこいいですよ」
「……話を戻しますね」
「カーペットがあるとは言え、そのままだとさすがに」
「うつ伏せになるには痛いと思います」
「マッサージだと、私の体重もかけるわけですし」
「なので……これ、どうぞ」
//ブランケットを手渡す
「私が普段から使っているブランケットです」
「それを下に敷けば」
「横になっても痛くならないと思います」
//SE ブランケットを広げる音
//SEブランケットの上でうつ伏せになる音
「大丈夫そうですか?」
「ほっぺたとか、痛くないですか?」
「……大丈夫?」
「……よかった」//安心したように
「それじゃあ初めて行きますね」
「……その」
「一応」
「念の為に言っておきますが」
「……先輩、さっきから呼吸が荒くなってるの、バレバレです」
「……」//恥ずかしそうな吐息
「……ぶ、ブランケットの匂い」
「嗅ぎたいなら、もっと私にバレないようにしてください」
「……まったくもう」//照れながら
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