一目惚れした新人Vtuberが同じクラスの隠れ美女(陰キャ)だと判明したのでチャンネル登録者数100万人を目指すことになった件【読み切り版】
四志・零御・フォーファウンド
デビュー編
第1話
世はまさに、大Vtuber時代。
動画投稿サイトのおすすめ欄はVuterが当たり前に鎮座している。
例えば、大手
だがそれは、
『初心者Vuber、初めての配信』
ありきたりなタイトル。
同時視聴者数、たったの2人。
身体全体を映した自画像と見栄えの悪い小さい文字で書かれた、ハッキリ言って出来の悪いサムネイル。
こんなライブ配信のサムネイルがおすすめに出てきたところで、普段なら絶対にスルーしてしまうだろう。
だが、この瞬間の僕、
言うなれば……そう、彼女に一目惚れしてしまったのだ。
チャンネル名は「
ひとまず、配信を覗いてみる。
『―———おと~~~さん、おとうさん!』
激しいピアノの音はカラオケ音源ではなく生演奏のようだ。
そして、天使の歌声のような透き通った声。
Vtuberという存在は、声というのも重要なポイントだ。
けれども、そんなことよりも——。
「コイツ、魔王を歌ってやがる! 初配信だよな!?」
Vtuberの初配信と言えば、既にテンプレートのようなものが出来上がっている。
だが、彼女にそんなことは無用のようだ。
一通り歌い終えると、満足したように身体を左右に揺らしていた。
『以上、魔王でした♪』
現在の視聴者数、1人。
つまり、僕との対面状態。
せっかくなので、応援の意味も込めてコメントを打つ。初配信で同接が少ないのは心に来るものがあると知り合いの配信者が言っていた。
<お上手でした>
『あっ、コっ、ココ、コメント!? ありがとうございます! えーっと、ジュンジュンさん? あの、魔王、得意なんで!』
魔王が得意なんて面白い人だ。配信者としての才能がある。
「……あ、そうだ」
<この配信、切り抜き動画作ってもいいですか?>
初配信で魔王を歌うVtuberなんて、聞いたことがない。きっと話題性がある。
1時間越えのライブ配信でこの部分を視聴するまで初見の人が辿り着けるとは限らない。だったら、面白い部分だけを切り抜いた3分ぐらいの動画を見て貰った方が、知名度の向上に繋がるはずだ。
『切り抜き動画? よくわからないですけど、いいですよ!』
<ありがとうございます>
しかし、やはり気になるのはどこかで聞いたことがあるこの声。
どこだろうか。どこかで聞いたことがある。
頭の中で候補が浮かんでは消えを繰り返していくうちに、夜は更けていくのだった。
*
次の日。寝不足気味の僕は、朝のHRが始まる10分前に高校へ来ていた。
教室に入ると、入れ違いで女子生徒と軽くぶつかってしまう。
「あ、ごめん」
とっさに謝ると、女子生徒は丸い目をして口をパクパクする。
「あ…………す……せ……ん」
何を言っているのか分からなかったが、謝罪の意思は伝わって来た。
彼女は同じクラスの
僕が困惑していると、上坂はぺこりと頭を下げ、急ぎ足で教室を出て行った。もうすぐ朝礼だというのにどうしたのだろうか。腹でも下したのか。
上坂と言えば、同じクラスの女子と和気藹々としているところは見た事がない。会話も事務的なものしかないのだろう。
所謂、陰キャと呼ばれる分類をされる上坂はクラスでも謎の存在として扱われている。
「初めて会話? した気がするなぁ~。いや、初めてでは無かったか~」
貴重な体験にしみじみとしながら、友人の
彼はスマホを眺めてニヤニヤしていた。
「おはよっす」
「よぉ潤」
「何してんだ?」
「朝活」
「朝に推しを見る活動であれば朝活とは言わんぞ。たぶん」
「何を言う。朝に何かしらの活動をすりゃあ、それは全て朝活っだ。いいか、サキちゃんの配信を見るのがオレの朝の日課だぞ」
「どうせ、昨日の夜からハマったってとこだろ。昨日まで違う子を推してたくせに」
「いやいや、ナデシコちゃんも推してるぜ? サキちゃんも推しだ。いいかねワトソン君。推しはいればいるほど良いとされる。実に簡単なことだ」
「そうですかい」
そこで話を切り上げるが、僕はその場に留まった。そもそも、晶と雑談するつもりもなかったのだ。
理由は単純。
髪の先まで金髪に染め上げた女子生徒が、僕の机の上に座って同じクラスの女子たちと談笑しているのだ。
「ちょっと、僕の席なんだけど」
僕が声を掛けると、不機嫌そうに振り向いたのは
「椅子、空いてるじゃない」
八重子はそれだけ言って、女子トークに戻った。
「たしかにそうだな」
無駄な争いは避けるのが僕のモットー。何事も無かったように、荷物を机の中に入れる。
ふぅと一息つくと、正面には可愛いく突き出されたお尻に気付いた。喋るたびに後ろで結ばれた長い髪がふさふさと揺れる。同時にスカートもずれて、中に穿いた下着が見えそうになる。
今日は朝から数学の小テストがあったはずだ。本来ならその勉強をするべきなのだろうが、そんなことよりも拝めなければならない
テストの結果なんてどうでもいい。ただ一瞬の輝きを――。
スカートの中に秘められし財宝を——。
僕は
「……どこ見てんの?」
「ケツ」
視線を感じたらしい八重子は、僕の言葉に焦って立ち上がり、手でお尻を抑える。
「ちょっと、スケベな視線で私を見ないでよ!」
「目の前に女のケツがあったらガン見するし、しなきゃ失礼だろ」
「っんッ!!!」
声にならない悲鳴を口から漏らすと、プンスカと頭を沸騰させて自分の机に戻って行った。
「……オマエらホントに幼馴染なの? 俺の知ってる幼馴染とだいぶかけ離れてるんだけど」
後ろから晶の呆れた声が飛んで来た。
「そりゃアニメの見過ぎだ。これぐらいが普通だろ」
「そうか?」
「そうだ」
頭の中から可愛いお尻の存在が消え、聞こうと思っていたことを思い出した。
「なぁ、聞きたいことがあったんだ。黄泉平坂ミキって知ってるか?」
「知らん。新人V?」
「昨日デビュー」
「そりゃ知らんわ。Vtuebr黎明期ならまだしも、いまとなっちゃあ、毎日わんさか出てくる新人Vを見てられんだろ」
Vtuber黎明期とは、Vtuberというジャンルが確立される前に出来た、ブームの火付けとなった時代のことだ。当時はまだ100人もいない時代で、全員の名前を覚えられるような人数だった。
いまでは視聴者層の変化から、ゲーム配信と雑談がメインの界隈だが、その時代は先進気鋭のVtuberが多かった。絵描き、3Dモデラ―、ゲームクリエイターなど、その分野の尖ったクリエイターが多く集まっていた。
「ま、知るわけないよな」
——だが、その日放課後。思わぬ形で新人Vの正体を知ることとなる。
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