第22話 大丈夫です

 朝、俺は目覚ましのなる30分前に目を覚ます。このまま束の間の二度寝をしてもいいが、せっかくだから外に出ることにした。


 外に出て大きく伸びをする。すると不意に目線を感じた。目線を感じた方を向くと、そこには俺に向けて手を振る。そして窓から飛び降りる。


「…ナイスキャッチです」グッ


「バッドだったらどうするんですか…」


「そしたら着地してました!」


「裸足でですか?」


「…あっ」


「とりあえず靴履いてきてね」


 ・・・・・・


「何だか空気が美味しいですね!」


「やっぱり人通りも人工物の少ないから澄んでるんだよ」


「なるほど!」


 そう言うとコマリは大きく息を吸った。つられて俺も息を吸い込む。


「ふぅ…そういえば僕は昔から朝の空気が好きなんだよ」


「そうなんですか?」


「うん、何だか朝の空気って穢れがなくて、そしでそれで満ちてる感じがするんだ」


「そしてその空気を僕やランニングに勤しむ人たちで独占してる。これって特別感があると思わない?」


「何となく分かります!」


「じゃあ!今はボクとトシヤさんで2人じめですね!」


「確かに、それじゃあこの時間は2人だけの秘密ってことで」


「秘密…何だかワクワクしますね!」


 そう言ってコマリは目を輝かせたが、すぐに目を伏せてしまった。


「コマリちゃん、どうかしたの?」


 するとコマリは驚いた表情を浮かべたが、やがた決心をつけた表情で言った。


「トシヤさんは、ユイさんやエリさん、サクラさんとはあんな風に喋るんですね…」


 気づかれてたか…でもまあコマリと話す時以外はいつもの調子で喋っていたから無理もないだろう。


「まあ、そうだね」


「それは、あの3人と仲良しだからですか?」


「…ボクとはもしかして、そこまで仲がいいと思ってくれてないんですか?」


 その瞬間、俺の心が詰まる感じがした。これはコマリからしたら当然のことだ。友達の1人が自分と他の人とで話し方が違ってそっちの方がフランクそうなんだから。


 俺は思わず頭を抱えてしまった。そしてゆっくりと話し始めた。


「えっと…まず答えから言うと、コマリちゃんのことは仲良しだと思ってるよ。だけどあの3人は特別で…俺の過去を知ってるんだよ。ぁまり他人には言いたくない過去を」


「…過去を知らないとあんな風にお話できないんですか?」


「いや、そういうわけじゃない。だけど、そうしないって決めたから」


 この2面性は過去の俺に蓋をした証で戒めだ。だから、この言わば2面性の裏の部分は自分を知ってくれて支えてくれる人にだけ伝えるつもりだった。


 もうここで行ってしまおうか…いずれコマリには伝えようと思っていたことだ。


 そう思い伝えようとした瞬間にコマリが口を開いた。


「わかりました。もう大丈夫です」


「…え?」


「その過去のこと、ボクにも伝える予定だったんですよね?わざわざこのメンバーに加えてくれたんですから。でも、伝えなくても大丈夫です」


「でも、1つ約束してください」


「もしもトシヤさんが、ボクに見せるトシヤさんとエリさんたちとのトシヤさんの考え方の違いで悩んだ時は最初にボクに相談してください」


「そしたらボクは普段のトシヤさんならどうするかアドバイス出来ますから。きっとヒントになれると思います」


「コマリちゃん…」


「何て、余計なことでしたか?」


 俺は首を横にふって、そして答える。


「全然そんなことないよ。ありがとう、頼りになるね副委員長」


「えへへ、あっ!?もうこんな時間です!早く戻りましょう!」


 そう言うとコマリはあっという間に駆け出して行ってしまった。俺はその背中を見ながら考えていた。


 伝えることだけが支えてもらうための方法じゃないこと。相手に思いやる気持ちがあれば、言葉なんて必要ないってこと。


「ホントに、コマリちゃんでよかったよ…」

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