第13話 なんなのよ!

「どうしたのよ?アンタから呼び出すなんて珍しいじゃない」


「エリからお前が心配してくれてたって聞いてたからそのお礼をしようと思ってな」


「心配ぐらい誰だってするわよ、むしろそれぐらいしか出来なかったのが悔しいくらいよ」


 ホントに……ワタシはアンタに何も出来なかった……


「でも、俺を心配してくれる人がいるってだけで俺は幸せだよ」


「何よ、ガラにも無いこと言っちゃって」


「それはまあ、色々あって思うことあってな」


「あっそ……」


 きっとこの前のエリちゃんとの一件の影響だろうけど……わざわざ聞くのは野暮よね。


「まあ、アンタに何があったかはもう言及しないわよ……でも!」


 ワタシはそう言ってグイと身体を前にのめり込む。思ったよりもトシヤの顔が近くて一瞬だけ動揺したけど言葉を続ける。


「もしこの先アンタに何かあったら真っ先にワタシに相談しなさいよ。どれだけ力になれるか分からないけどアンタの止り木にはなってあげるから」


 言い終えるとワタシは元の体勢に戻る。きっと顔は赤くなってた気がする……


「ありがとなユイ、これからは皆んなを頼って自分と向き合っていくさ。だから安心しろ」


 なんか……余裕そうで腹立つわね。顔赤くしたワタシがバカみたいじゃない……


「と、ところでアンタはこの後予定あるの?」


「いや、特に何も入れてないが……どこか行きたいところでもあるのか?」


「えっ!?あっ、そうね!そろそろ夏服買いに行きたくて……それで!せっかくだから男子の意見も聞きたいなぁ、なんて……」


 って、何でこんなにパニクってるのよワタシ!


「そうか、だったらさっさと行こうぜ」


「えっ、あっ分かったからちょっと待ちなさいよ!!」


 ・・・・・・


「……お前普段からこういうところで服買ってんのか?」


「そうね、出掛ける用の服を買う時は大体ここね。それじゃあ早く入るわよ、せっかくの機会だから使い倒してあげる♪」


 ・・・・・・


「これなんかどうかしら!ショーパンは普段履かないけどアクティブっぽくていいかなって思うんだけど、どう?」


「そうだな、確かにお前らしくていいと思う。それにそういうの好きな男も多いと思うぞ」


「そっか、なら良かった。それじゃあ……」


「こっちはどう?ワンピース系って清楚な感じで意外と好きなんだよね♪」


「それも良いんじゃ無いか?男子受けも良い感じだと思う」


 その時、ワタシはなんとも言えない違和感を覚えた。けれどその正体は掴めなかったからまた別の服を着てみることにした。


「だったらこっちは?ジーンズに白のTシャツって無難だけどスタイルを選ぶから難しいのよ。アンタはどう思う?」


「爽やかで良いと思う。ストリートな感じで男でも好きな奴多いと思う」


 あっ、違和感の正体はこれか……ワタシはトシヤに聞いてみることにした。


「何でさっきからアンタの意見が無いわけ?」


 するとトシヤは一瞬だけ目を丸くした。けれどすぐに取り繕ったような表情で言った。


「意見はちゃんと言ってるだろ?何か変だったか?」


「ワタシが言いたいのはアンタの気持ちが言葉にされてないってことよ!」


「さっきから男子全般の一般論みたいなことばっかでアンタがどう思ってるかなんて一言も言ってない!」


「そ、それの何がダメなんだよ!?」


 その言葉に怒りがマックスになったワタシは店中に聞こえる声で叫んだ。


「ワタシは誰でもないアンタにこの服を見てもらいたいの!!だから他の奴の意見なんか言わないでアンタがどう思うか答えなさいよ!」


「アンタ言ったじゃない!自分と向き合うって!そのためにワタシたちを頼るって!」


「だからワタシはアンタに頼ってもらえるようにアンタのこと少しでも知りたいの!」


「じゃないとワタシは……またアンタに何も出来ない……」


 そう、ワタシはトシヤのことを何も知らない。昔のことも今のアンタのことも……そんな奴が隣にいていい訳無い


 その言葉を聞いたトシヤはしばらく黙っていた。けれど言われたことを噛み締めるように、行き場の無い感情を飲み込むようにしかめたその表情は、見ていていたたまれなかった。


 そして不意にトシヤが口を開いた。


「ハッキリ言って、1つなんて選べねえ」


「……え」


「だってお前身長高いし手足も長いから何でも着こなすからさ……最初のやつ見た時に他のも見てみたいって思ったんだよ」


「だからってこんなやり方は汚すぎたよな。すまない」



 ワタシはその言葉に思わず力が抜ける。そして言った。


「アンタ、バカよね。そんなことしなくてもアンタにならいくらでも見せてあげるわよ」


「そうだよな、ホントにすまない……」


 そう言ってションボリするトシヤは何だか怒られた大型犬みたいで可愛かったけど、このままだとあんまりだからワタシは試着室を出て言った。


「そんな顔しない!これ全部買うから、アンタの少しは出しなさいよね!」


「おっ、おう!そうだな!って、いくら出させるつもりだ?」


「それは……秘密♪」


 ワタシとトシヤの関係はまだ以前の通りじゃないかもしれない。前みたいに漠然とした関係にはもうなれないかもしれない。


 けれど、ワタシたちはもっと仲良くなれる!そんな確信がワタシの中にはある。そしていつか、この気持ちにも決着つけてやるんだから!

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