第11話 聞いて
「トシヤ!今週の土曜日空いてるかしら?」
その提案は何の前触れもなく突然やってきた。
「時間はあるが、どうかしたのか?」
「いやー、それがさ!この前福引で手に入った遊園地のペアチケットが今週までなのよ。でもサクラは用事があるみたいで・・・だからトシヤ代わりにどうかなってね・・・」
何とまぁ白々しい、棒読みもいいところだ。でもきっと、アイツなりに俺を励ませそうと頑張ってくれてるんだろうな・・・だったらその気持ちに応えてやるのも友達か。
「分かった、せっかくのチケットが無駄になるのは俺としても忍びない」
俺がそう言うとユイの表情は今までに見たことがないほど明るくなった。
「ホントっ!?じゃあ土曜の朝9時に現地集合でよろしく!」
・・・・・・
てな訳で当日、俺は予定よりも早く着いてしまった。まだユイの姿は見当たらない。しばらくそこで待っていると、
「トシヤー!」
そう言って俺に駆け寄ってきたのはエリだった。
「エリ?何でお前がこんな所に?」
「それがね?ユイがよかったら行ってきたらってチケットくれたんだよ」
アイツ、ハナからこのために・・・とんだお節介焼きだ。
「エリ、俺と回りたいのか?ここ」
「回りたい!むしろトシヤと一緒がいい!」
俺がそう尋ねると、エリは強く肯定してきた。だとしたら一緒にいるのが俺がするべき事だろう。
「分かった、そしたら早いとこ中に入ろう」
「・・・ッ!うん!」
・・・・・・
そうして俺とエリはいくつかアトラクションを回った。それらは全部それなりに楽しかった。けれど、俺たちの間の会話はとても少なく基本的には沈黙が俺たちを支配していた。
時折、エリが俺に何やら話しかけようとモゾモゾしていたが結局何も話してこなかった。
そうこうしているうちにあっという間に日が暮れそうになっていた。ボーッとフードコートで座っていた俺に対してエリが口を開いた。
「トシヤ、せっかくだし観覧車乗らない?」
俺はそう言われて観覧車の方を向く。観覧車は遊園地の1番高い所にある。今の時間帯なら綺麗な夕暮れが見れるだろうか。
「そうだな、せっかくだし乗るよ」
・・・・・・
ガシャン
そう音を立てて扉が閉まると、俺とエリを乗せたカゴは上へと上がり始める。そして、自分は今高い所にいるのだと自覚できるほどの高さに達した時、エリが口を開いた。
「トシヤさ、あの日から私のこと避けてるでしょ?」
突然の言葉だった。だけど俺の答えは案外すんなりと俺の喉を通った。
「いや、あるべき関係になっただけだ」
「そっか、じゃあそのあるべき関係がこの形なのはあの日、私を突き飛ばした日の後悔があるから?」
「・・・・」
「何も言わないってことは、そうだってことだよね・・・」
「・・・ああ」
「ていうことは私のために色々してくれるのは身の回りを世話して、ついでに堕落した私の生活を前の状態に戻すことでその罪を償うため。だよね?」
「・・・そうだ」
すると、エリは一瞬の間を置くと、1つ息を吸って言った。
「それなら、もうそんなことはしないでください」
「・・・・」
「トシヤはもう十分に苦しみました。それに、ワタクシも」
俺はその言葉に驚き顔を上げた。
「ワタクシも苦しんだ、って・・・それに、ワタクシ?」
こいつの普段の一人称は私だ。ワタクシはオフィシャルな場での一人称のはず。
「そのことも今からする話をすれば分かって頂けます。ワタクシが、トシヤと再び会うまでのお話を・・・」
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