完璧だった残念美少女幼馴染の世話をしています

神在月

第1話 不意に始まる

『おーい、俊哉!ちょっと来なさい!』


『分かったよ、お父さ・・・ん』


『ん?どうしたんだ俊哉、固まって?あっ、こいつが息子の俊哉です』


 俺が固まったのには理由があった。何故なら玄関にいた親子、とりわけその女の子が可愛かったからだ。モデルや女優みたいな仕事をする人はきっとこういう人なんだと、当時の僕は直感的に感じていた。その少女の名は・・・


四条絵里しじょうえりと申しますわ♪』


 ・・・・・・


 というのが、幼い頃・・・いや、最近までの俺の、結城俊哉ゆうきとしやの絵里に対する事実ベースの印象だ。だが実際は違う!本当の絵里は・・・


「おい起きろ、起きろ!」


「・・・んえぇ、あと5分」スゥ


「ゲームで寝不足になってる奴にやる5分なんてねーよ!!」


「あぁ!!愛しのお布団君が・・・酷い!こんなのもはやNTRだよ!?」


「何でお前の布団と一線を越えなきゃなんねーんだよ・・・」


 ご覧の通りのグウタラでサブカル気質の超絶インドア人間だ。


 しかし、ここで諸君らにはいくつか疑問を持つことだろう。例えば、『何でテメェが四条さんの家にいんだよ?』とか、『そもそも親に起こしてもらえよ!』とか、まあそう思うのも当然だ。


 だが、そんなに騒ぐことではない。事は1週間前に遡る。


 ・・・・・・


『おい、俊哉。お前、四条さんのとこの娘さん覚えてるか?』


『四条さんの・・・あぁ確か、絵里さん。だったっけ?絵里さんがどうかしたの?』


 俺がそう答えると、親父は神妙な面持ちで言った。


『どうやら、四条さんとこの親御さんが海外に出張らしい。だからその間お前に一緒住んで世話をしてほしいそうだ』


『・・・え?』


『ちなみにもう了承はしてある。だから早く荷物をまとめて四条さんの家に行くといい』


『は・・・?』


 ・・・・・・


 と、いう訳で俺はコイツの面倒を見ている。俺の拒否権・・・どこ?


「ほらよ、コーヒーで良かったか?」


「今日は何となく牛乳飲みた味の民だったんだけど・・・」


「そうか、コーヒーで良かったなら何よりだ」


「無視っ!?」


 俺は朝食を食べながら絵里に尋ねる。


「絵里は今日何か予定あるか?」


「んー?世界救う予定」


「ゲームだろ?じゃあ買い物付き合え」


「えー!?まあいいよ?今日別にイベントとかでもないし」


 そう言うと絵里は箸を置くと、上の階の自分の部屋へと戻っていった。


「さて、俺も食器片付けて準備してするか」


 ・・・・・・


「おーい絵里!準備できたか!?」


 準備が出来た俺は1階から絵里を呼ぶ。


 すると、少しドタバタと音がした後に絵里が階段を降り始めた。


「ごめ!準備ちょっと時間かかっちゃ・・・きゃっ!?」


 そう言うと上から絵里が降ってきた。えっ、これって危な・・・


 ドシーーン!


「痛っつつ・・・おい絵里、気をつけろ」ハッ


 そう言いながら俺が目を開けると、助けた絵里と目があった。


 よく見ると絵里の頬は真っ赤に染まっていた。そのまま少しして正気に戻った絵里は俺から離れて言った。


「え、えと・・・ありがと、アンタのおかげで怪我しないですんだ」


 俺はその絵里の表情に思わずトキメキそうになってしまった。


「そ、そうかよ・・・」


 この時の俺たちは何も知らなかった。この奇妙な生活がまさかこんな結末を迎えるだなんて。

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