第2回 シュムのこれから

 どうしてこうなった?


 今まで上手くやって来た筈だった。


 人間なんて矮小な存在に顎で使われるのが嫌だったから動画投稿者と言う自由な職業をすることにした。

 それが運良くバズってお金も入る様になって、同じく人外の紅戯あかぎ霧人きりひととシェアハウスをする様になって。順調だった。


 順調だったのに。


「あああぁ!!うぅううううう!」


 あれから一晩経った。


 朝になったら落ち着いていて欲しいなって思いながら寝た。

 だけどあの事故の切り抜きは大量に出回りいまだにトウィッターのトレンドには犯人外の文字。


「ぐううぅ、どうすれば。どうすればー」


 もういっそのこと顔出し配信するか?いやいや人間如きにキモい目で見られたくないし、と思考がぐるぐる巡る。

 だが兎に角何か発信しなければこの流れは止まらないだろうことは分かった。


「ううぅ、…そうだ!いっそのこと全人類殺して私の記憶だけ抜いて作り直すかー」


 とても冴えたアイデアを思いついた瞬間後ろから何か柔らかいもので頭を叩かれた。

 振り向くとエプロンをした霧人がクッションを持って仁王立ちしている。


「な、なんで叩いたの?いま、最高にいいアイデアが浮かんでたのにー」


「良くないよバカ。そんなことでいちいち全人類根絶されてたまるか」


 呆れた様な目で見てくる霧人。だけどそれは少し違う。


「1回殺して作り直すだけだから別に絶滅はしないよー」


 全く同じ人間に戻せるとも限らないけど。確かテセウスのなんちゃらって奴である。


「倫理観の問題もあるし万が一もとの人間って生物から他のナニカななっちゃったら私の同族が餓死しちゃうじゃないか」


 全く理解も納得も出来ないのだがこれ以上何か言うと霧人を怒らせそうなので黙っておく。

 でも本当にどうしようか。ここから挽回できるナニカはあるのだろうか。


「ん?待てよ、私が上位者であることを見せつけてやれば今より収入も増えて羨望も得られるのでは?」


 なんだかそれが一番いい気がして来た。別にあのチャンネルにそこまで拘っていたわけでもないのだし。メインは残してサブチャンは路線変更してもいいのではないか。


「でもどうすればいいのかな。国家転覆してみた、とかかなー」


 上位存在たる威厳を見せつけてやらないといけない。

 けど私はいくつかの縛りがある。派手に人を殺して回った日にはあの鋭角の君主どもがこっちに来てしまうかも知れない。あいつらは穢れと死の匂いに敏感なのだ。


「んんんんん?わかんない、なんもわかんない」


 うんうんと考え込んでいると何故か霧人がこっちをじっと見ていた。

 何だ、困ってる私がそんなに珍しいのか、面白いのか?あ?面白いってのか?


「なに?何か言いたいことあるのー?」


 私が聞くと霧人はとても不思議そうな顔をしていた。「馬鹿すぎて呆れるね」って顔だ。馬鹿にしやがって。我神ぞ?


「シュムが自分の力を見せつけたいなら簡単な方法があるんじゃないの?」


「ここまで言ったらわかるよね?」そんなニュアンスを含めて言ってくる霧人。

 残念ながら私には何が何だかさっぱりである。

 私が黙りこくっていると痺れを切らしたように霧人が話し出した。


「もう、何でわからないの。ダンジョンだよ、ダンジョン。引きこもりのシュムといえど流石に知ってるよね?」


 知らなかった。聞いたこともない。そう言えばたまにコメント欄で冒険者が〜とか言ってる人いたけどゲームの話じゃなかったんだ。


「し、知ってるよ、けどダンジョンで配信なんてできるのー?」


「あれ、本当に知ってたんだ。いや、ダンジョン配信と言えば今の配信界隈では一番ホットな部類でしょ」


 ブラフかよ!いや、まぁいい。ダンジョンとやらが何かは分からないけど態々霧人に教えを乞わずとも動画があるならそれを見ればいいのだ。


「その、ダンジョン配信ってのは誰でもできの?ほんとにそれ人気でるのー?」


「いや、冒険者免許は取らないとだけど。人気はもちろん、ダンジョン配信者の中には登録者数1000万超えの人もいるからね」


 1000万か。今の私の総フォロワーの20倍以上。成る程ね。


「私はダンジョン配信者になるぞー!」


「いいね、私も応援するよ。そしてできれば光熱費折半して欲しいな」


 霧人が何か言っていたが私には何も聞こえなかった。


 そして私のサブチャンネルことげーみんぐ犯人男性は明日よりダンジョン犯人男性として再スタートを切るのだった。

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