ボクとおっとりシスターの日々

烏目 ヒツキ

シスター・ジェノサイド・マリア

退魔人シスター?

 夜の公園は、当然人通りなんてなく、虫の鳴く声だけが聞こえている。

 夏ということもあり、ジッとしていると蚊が頬にくっついて、我が物顔で血を吸っていく。


「あなたの悪事もこれまでです!」


 ブランコに乗っているボクは、目の前で繰り広げられる光景を眺めていた。


 外灯に照らされた姿は、とても物騒だった。

 黒い修道服に身を包み、フードからはみ出した髪の毛は、柔らかい風に揺れる。スタイルがかなり良いために、素晴らしい曲線美が浮き彫りになっており、男として眼福以上の何物でもない。――が、それ以上にくぎ付けになるのが、手に持っただった。


「へっへっへ! スケベな体しやがってよぉ」

「いや、逃げた方がいいと思うんだけど」


 シスターの目の前にいるのは、スーツ姿でバーコードハゲのおっさん。

 金づちを持った物騒な出で立ちのシスターを見ても、平然と立っていた。それどころか、舌なめずりをして、あわよくば『いけないこと』をしちゃおうって雰囲気だ。


 いや、金づち持ってるからね。


 目の前で繰り広げられる光景は、『戦い』や『バトル』というワクワクするようなものではない。


 下手をすれば、オヤジ狩り。


「てやああああ!」


 振りかざした金づちを躊躇いなくぶん回すシスター。

 金属の部分がメコッと頭に当たり、おっさんは「へんぶっ!」と奇妙な声を上げて沈黙した。


 シスターはスカートをたくし上げて、馬乗りになった。


「てやあああああ!」


 めったくそに殴りまくるシスターは、一切手加減がなかった。

 おっさんはひたすら『ん”ん”っ!』と奇声を上げていた。

 でも、不思議なことに返り血は浴びていない。


「シスター。もう、その辺で……」

「セイチくんは離れていてください! 危険です!」

「うん。……シスターがね」


 時間にして、だいたい10分が経過した頃、ようやくシスターが離れた。手を団扇代わりにして扇ぎ、「ふう」と一息。


 おっさんは全身痙攣を起こしていた。

 ここだけ見ると、本当にヤバイ光景なのだけど、しばらくしてから、おっさんに異変が起きた。


 中途半端に怪我が治った状態で、むくりと起き上がる。


「大丈夫ですか?」

「え、ええ。ここはぁ」


 顔が腫れた状態で、おっさんは辺りを見回す。


「お酒に酔いすぎて倒れていたんですよ」

「は、はぁ。そうなんですか。……いって!」


 頬を押さえ、ふらふらになりながら起き上がる。

 シスターは笑顔で支え、さりげなく金づちを地面に落とした。


「なんだか。悪い夢を見ていたような」


 おっさんは首をかしげていた。


「実家に連絡をして、オレオレ詐欺をする夢を見ていた気がするよ」

「まあ。きっとお疲れなのですね。さ、お家に帰ってゆっくり休んでください」

「どうも。すいません。……では。いてて」


 と、まあ、これがボクとシスターの夜の活動だったりする。

 一つ間違えば、オヤジ狩りと通報されそうなものだが、不思議とシスターは警官に捕まったりしない。


「セイチくん。わたし達も帰りましょう」


 笑顔で振り向いたシスターの顔は、爽やかな汗で輝いていた。

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