狂獣戯画

ばーぼん

プロローグ

「てめぇら、そこをどけぇー!」


 日が沈み始め薄暗くなり始めた富士山の麓、狂獣きょうじゅうの血と人の血が混じり、鉄臭さと獣臭さが蔓延する戦場に、突如1人の戦士の大声が響き渡たった。飛び掛かり襲う狂獣をなぎ払いながら狂獣の群れへと1人突進していく。

 切り裂いた狂獣の血を全身に浴び真っ赤に染まるその青年は鬼の形相で刀を振り舞わし、ただひたすらに狂獣へと向かっていく。|


 口から火を吹き、頭に生えた角から電撃を放つ狂獣や普通よりも倍程の大きさの狂獣が混じる大群に囲まれ、退路も全て防がれしてしまい絶対絶命の状態に恐怖と焦りから興奮状態に陥り、そう叫ぶ虎城雷音こじょうらいとに背後から落ち着いた声が掛けられる。


「雷音、余り前線の位置を崩すな。危ない時こそ冷静に判断して、周りを見るんだ!」


 戦闘中でも冷静さを保ち、雷音に的確に指示を飛ばすのは、雷音の所属する第7小隊のリーダー大山勇おおやまいさみだ。雷音以外にも、恐怖で混乱状態に陥るものや、戦意喪失しているものが多い中、狂獣に襲われながらも瞬時に状況を整理し的確な指示を飛ばしている。


「そうだよ雷音!落ち着いて!」

 

 勇に続くように声を掛けてきたのは、同じ小隊で幼なじみの守武凛もりたけりん。興奮状態の雷音のそばで背中合わせに、狂獣と対峙しており、その手は狂獣の返り血と二の腕辺りの傷口から流れ出た血で赤く染まっていた。

 

「うっ・・・悪ぃ、すまねぇ」

 

 雷音は少しバツの悪そうに返事を返す。

 なぜなら、凛の傷は狂獣の攻撃から雷音をギリギリの所で守った時に負った傷だからだ。戦闘服を着ていたおかげで、戦場を離脱するほどの傷へとは至っていないものの、出血が多く武器を握る凛の右腕は上手く力が入らない状態になっていた。その凛の状態を加味し、2人は背中合わせで戦闘し何時でも手助け出るようにしていたのだ。

 そして、先程の凛の言葉に続いて更に小隊のメンバーから声が掛けられる。

 

「そうだよ虎城、ただでさえバカなのにそれ以上頭に血が上ったらもっとバカになるよ!」

 

 雷音をバカにするようにそう言うのは、同じ小隊で同じクラスの鬼多見愛李きたみあいり。先程まで他の小隊へと救援に行っていた愛李だが、凛の負傷の連絡を急いで受け戻って来た。

 

 

「チッ、戻ってきたのかよ戦闘狂アホ女」

「ニッシッシ、それを言われてしまうと何も言い返せないね〜」

 

 戦闘の最中、お互いにいつものように言い合いを繰り広げる雷音と愛李。2人のこのやり取りは日常茶飯事なのか、それを見ながらため息をつく凛。そして、愛李が戻って来てこら言い合いを続けている2人にまたしても冷静さのある声が掛けられる。

 

「2人とも、じゃれ合いはそこまでにしてそろそろ戦闘に集中しなさい・・・流石にこの状況は不味いかもれないわ・・・」

 

 そう声をかけてきたのは同じ小隊メンバーの三条美咲さんじょうみさき。いつも冷静沈着でどんな状況でも顔色を変えずに戦闘を行うが、今の状況だとさすがの美咲でも冷静さの中に少しの焦りが含まれていた。


狂獣との戦闘が始まってから、1時間程時間が経過しており、第7小隊のメンバーとそれ以外の戦闘に参加している小隊のメンバーから疲労の色が見え始めていた。中には武器を握る手が震えており、握るのがやっとの者、大怪我を負い地面に倒れている者、狂獣の攻撃により息絶えてしまった者。その惨状に戦意喪失してしまった戦士があちこちから見受けられ、

 

 『敵の数が多すぎる・・・』

 『もう無理だ・・・これ以上はもたない、救援はまだなのか!』

 『嫌っ、こっちに来ないで・・・』

 

 そんな悲痛の叫びが戦場の至る所から聞こえてる。

 そんな中、第7小隊のメンバーは違っていた。迫り来る狂獣の群れを見つれながら不意に不敵な笑みを浮かべる。

 

「皆思い出しなよ、僕達第7小隊は今まで窮地な状況の時こそ生き残り、勝ち、輝いてきたじゃないか」

「あぁ俺たちはまだ終わりじゃねぇよ・・・俺たちがこの戦いに勝つのは決定事項で絶対なんだ、だからこんなところで逃げてたまるか」

 

 劣勢の状況で周りが絶望の色に染まる中、勇の声で冷静さを取り戻し、今度は闘志を燃やし己を奮い立たせる雷音のその表情からは恐怖や焦りの色は消えていた。

 それに続くように、他の第7小隊メンバーも己を奮い立たせ、武器を強く握りしめ、狂獣たちを睨みつける。迫り来る絶望に抗わんとばかりに。

 

「お前ら、俺に続けぇー!」

 

 雷音の叫びにより再び戦闘の火蓋が幕を開けた。

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