異世界転移者が嫌われる世界で7つの国を旅する

らん

第一章 ゴルム

第1話 異世界転移

「どこなんだよ、ここ」


 何度目かの怒りの疑問。十回目あたりから数えていないが、何度もそれを口にしては答えは返って来ない。


 寝転んでいる俺はんだ青い空とねれてしまうほど心地よい芝生しばふというなごやかセットでなんとか持ちこたえているものの俺は怒りを叫びに変えたかった。


「大丈夫ですか?お名前は覚えてます?」


 心配そうに尋ねる声にハッとした。寝心地の良さそうな状況で俺は無意識にボーッとしていたようだった。


 声が聞こえた方向に目線を動かすと胸のせいで横になっている俺からした表情をとらえることの出来ない女性がいた。


 意識がだんだんとはっきりしてからゆっくりと体を起こすと、心配そうにこちらを見つめる彼女の顔が見える。倒れていた俺を心配してくれているようだった。


 彼女は銀色の長髪とあおい目をして、座っている姿勢が綺麗で言葉遣いも上品であった。


 目が合った彼女は不思議そうに首をかしげる。それで、俺はようやく質問されていたことを思い出し、慌てて答えた。


快斗かいと桐崎きりざき快斗」


「私は天音あまねです。記憶があるようなので大丈夫みたいですね」


「記憶があるって。そりゃ、寝てただけだし、そんな簡単には無くならないだろ」


 変なことを言う天音は俺が言ったことにクスッと笑うだけだった。


「ところでここはどこなんだ?気がついたらここにいて」


 辺りを見渡す。肌触りがいい芝生が広がり、その先に鬱蒼うっそうとした森が続いている。とりあえず、確かなのは俺がここを知らないということだけだ。


「ここですか?ここはサイアントという地域になります」


「さいあんと?なんだ、それ?」


「まぁ、分からなくても当然でしょうね。ただ、……体は動かせます?少し場所を変えて話しましょう。ここの外は危険ですから」


「あぁ、分かった」


 別の場所へ移動しようと天音が提案し、俺もそれに賛成して立ち上がると太鼓の音を間近で聴いた時のお腹にズンと来る地響きのような低い音と共に地面が激しく揺れ動いた。


「な、なんだ!?」


「快斗さん!私のそばに」


 狼狽うろたえた俺のことを勢いよく引っ張って体に寄せた天音は怖がることもなく周囲を警戒し、見渡し始める。


『グオーンッ!』


「そこッ!」


 天音の体の柔らかい感触を感じていると耳がおかしくなるような凄まじい叫び声が森から鳴り響く。音が鳴った方向に合わせて天音は手から破壊光線顔負けのビームのようなものを発射し、森の奥にいた何かにそれを正確に当てた。ビームが通った場所は芝生がげて木がぎ倒され、さっきのビームがどのくらいの威力だったかを物語っている。


 しかし、爆音に引き寄せられたのか、クマに似た生き物がゾロゾロと森の方から姿を現した。


「お、おい、あれ見ろよ!」


「ふっふふ」


「ちょ、天音?」


「あっははは!」


 数多の怪物に戦慄せんりつしていると俺を抱きしめている天音が不気味に笑い始め、戦いにえている戦闘狂のような恍惚こうこつとした表情を見せた。


「快斗さん、掴まっていてください!」


「え?ちょ……」


「死ねッ!」


 天音はもう一度俺を抱きしめると、そのままノータイムで二十メートルは離れていた一体の怪物の元に近づき、一言暴言を吐いて手から何かを出して倒した。


「久しぶりのこの感情……!たかぶってきたッ!あっははは!」


 仲間がやられたことで怒り始めた怪物たちは四方八方から天音を同時に襲いかかるが、天音はそこから動く様子を見せない。


「消えろッ!」


 一言天音が叫ぶと光のドームのようなものが天音の周りに生成され、それに触れた怪物は跡形もなく消えていった。


 一分も経たない内に彼女は魔物を一掃した。


「これだけですか。つまらないですね」


「今のはなんだ?変わりすぎだろ、お前」


「私は戦うのは好きですし、最近ろくに戦えていなかったので少し嬉しくなってしまっただけです。気にしないでください」


「あー、……そうか」


 少し嬉しくなっただけか……。いや、あんな殺すのを生業なりわいにしてそうな目とか表情されたら、気にしないでと言われても無理だろ。今日の夢に絶対出てくる。


「さっきの怪物と光のドームはなんだ?」


「あれですか?怪物はクマ型の魔物、光のドームは魔法です」 


「んな、馬鹿なことを」


 それはファンタジーの世界だけであってここは……。


「快斗さん。もう言ってしまいますが、ここはあなたが元々暮らしていた場所ではありません。ここは魔法が当たり前にある世界。そして、あなたはここに転移してきた身です」


 先行していた天音が振り向いてこちらを見るとそれに合わせたかのようにブワッと髪がなびくほどの強さの風が吹き、日陰が不自然に出来る。


 上を見ると全長が五メートル、いやそれ以上はありそうな程の巨大な体躯たいくつばさを広げるわばドラゴンのような姿が目に映った。


 竜のいさましい姿か、それとも天音の絵に描いたような端麗な姿か分からないが、俺はグッと胸を掴まれるような感覚におちいった。


「さっきのは魔物は人に明らかな敵意を見せる獣のようなもので四つのレベルに分類されます。まぁ、今はあまり知る必要もないですから説明はまた今度にしましょう。この森を抜ければ街に着きます。そこでもう少しこの世界について詳しく説明しますから着いてきてください」


 淡々と説明してくれる天音に本当に付いていっていいのだろうか。心が汚れている俺は天音が油断させるために優しく接しているんじゃないかと思ってしまう。それに俺は出所不明だし、天音がこんな厚く接する必要はない。ただ、疑って付いていかないという選択肢は捨てるべきだ。この何もかも分からない世界で俺がどうこうできるわけでもないし、素直に付いていくしか生き延びる方法はない。例え、こいつが裏切り者だとしても。

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