ハッピー・アンハッピー・ウエディング ー湊と詩の場合ー
さくらみお
詩の結婚報告
「結婚することにしました」
「久しぶりに結婚するという若者の報告が聞けて、私も嬉しいよ。……で、お相手は? 大学の同級生かい?」
いつもならば電話のコール音に、仕事の相談、他愛のない雑談と賑やかで姦しいくらいの営業部。
今だって、表向きは通常通りだが周囲の社員達は会話しながら、パソコンに向き合いながらも詩の次の言葉を聞き逃すまいと、聞き耳を立てている様に感じる。その空気に詩は何やら悪い話でもしているかの様な気持ちになる。
しかし、詩は何も悪いことなどしていない。
堂々と告げた。
「総務課の
再び、周囲の空気が不穏に騒めくのを詩は感じた。
「へえ、下村君と?! それは驚きだねえ。めでたい、めでたい」
部長も周囲も知っている相手の名前が判明すると、ヒソヒソと周囲の声が詩の耳に入ってくる。それは詩の結婚を喜ぶ声でも、羨んだり、残念がる声ではない。
みんな信じられない、理解出来ない、とばかりに数奇な目で詩を見ているのだ。
――詩に問題があるからか?
東雲詩は現在26歳。
身長164センチ、体重47キロ。
某有名国立大学を卒業後、日本国内では知らない者はいないほどの大企業である乳製品メーカーの営業部で働いている。
洗練された和風美人で、性格も真面目で責任感強く、気遣いも出来、上司にも部下にも信頼が厚い。少し人と発想が違うと言われることは度々あるが、それも個性。
つまり、非の打ち所がない女性なのだ。
――では、相手の下村湊に問題があるのかというと、
下村湊は現在29歳。
身長177センチ、体重68キロ。
某有名私立大学を卒業後、詩と同じ乳製品メーカーの総務部で働いている。
こちらも人の目を惹く整った容姿の持ち主。大人しく、おっとりとしていて表情が乏しいせいかどことなくミステリアスだが、誰にでも分け隔てなく優しい男だ。こちらも人望が厚い。
そんな社内の人間から好感度の高い二人の結婚となればみんなが諸手を上げて喜んだりしそうなのだが、この二人の生まれた時代が悪かったのだろう。
この二人が結婚宣言をした2123年。
今や『結婚』をする男女は5%以下になっていたのだった。
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