第9話 私の価値
「わ、私は……私には……」
価値がないのだ。
アロイス様の好意に見合う価値が、私の中身には、ない。
異世界人で、次期王妃であり救国の聖女様に友人だと公言されているという貴重性。それは、私の外側にくっついている価値だ。
私は家族にすら無価値と打ち捨てられていた。
空っぽ私の中から湧きだした好意なんて返したところで、いったいなんになるというのだろう。
「私にはローデンヴァルト家の、アロイス様のくださる好意に見合うだけの価値はありません」
吐き出した言葉は情けなく、自分が恥ずかしくて悲しい。
隣に座るアロイス様の顔が見られない。
光が届かないせいで薄暗い足元を見つめながら、この世界に来てから何も気づかないふりをして自分のためだけに過ごしていたこの数年間が、いかに私にとって幸せな時間だったのかを噛みしめた。
「ニコに価値がないなんて俺も、誰も、思ってない」
「いいえ」
いいえ、いいえ……違うのです。アロイス様、違うのです。
アロイス様の顔を見ることもできず、私は両手で耳を塞いで首を振る。
「今の私に価値があるのはわかっています。けれど、違うのです、アロイス様、違うんです!」
外灯の光が届かず暗闇のなかに沈んだ自分の靴先に視線を固定して、私はアロイス様のくれた優しい言葉を否定する。
「その価値は、全部聖月さんがくれたもの、夫人が作ってくださったドレスのようなものなのです。い、今は流行の最先端のドレスかもしれません。でも、いつか流行は終わります……」
ドレスの形は古び、生地は傷み、糸はほつれ、破れて使い物にならなくなる。
「流行遅れのドレスを纏った私に、私自身には、なんの価値もありません」
情けなくて涙が出た。
泣きたくないのに泣きわめいてしまう、自制できない赤ちゃんみたいな自分も嫌だった。
せっかくアロイス様が好きだと言ってくれたのに、それに素直に返せない自分は最低だと思った。
私がもっと大人だったら、私がもっと素直な人間だったなら、私がもっと鈍ければ、私がもっとおおらかな人間だったら、私がもっと気づかいのできる人間だったなら。
私がもっと、価値がある人間で……私がもっと、可愛げのある子供だったなら。
パパは私を見るたび不機嫌にため息をつかなかったし、機嫌が悪いパパを
「ご、ごめんなさいアロイス様……ごめんなさい……」
何も返せないばかりか泣いて拒絶するしかできない自分が情けなくて、それ以上にアロイス様に申し訳なくて、薄暗い温室の中でただただ目を閉じて、何もない真っ暗な闇のなかで「ごめんなさい」を繰り返す。
私には、自分が誰かに好かれる理由が思いつかない。
今の態度だって最低だった。
ぐずぐずと泣いて自分の事情でしか物事を測れないさまは、私だって見ていてイライラしてしまう。ママは正しかったのだ。私は視界に入れる価値もない存在なのだと思った。
頭の中で発火しそうなくらい熱くなった情けなさと恥ずかしさと申し訳なさが、耳からこぼれ落ちそうだった。嫌な感情が流れ出てしまうのが怖くて、私はもう一度ぎゅっと耳を塞いだ。
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