第4話 こだわりの色々
夫人の誕生日パーティーは大盛況だった。
アロイス様にエスコートされた私の隣で、旦那様にエスコートされてにこにこしながら夫人が挨拶をしてパーティーは始まり、同じ並びで挨拶して幕を閉じた。盛り上がったことは私もとても嬉しいが、この並びでは勘違いしてしまう人が出てくるのではと不安だ。
家族の一員に見えるかもしれないけれど、私はローデンヴァルト家とは養子縁組もしていないただの居候。今年学院を卒業したら家を出ていくのでほとんどローデンヴァルト侯爵家とは関わりがなくなる一般異世界人です……と、侯爵家との繋がりを求めるお客様が私にも親切にしてくれるたびに、もうしわけなくて眉尻が下がってしまう。
パーティーには男性のエスコートが必須とはいえ、アロイス様が私をエスコートしているのも問題だ。
でも私にはこういう場でエスコートをしてくれる男性はいないし、後見してくれるローデンヴァルト家のご当主様直々に「アロイスにエスコートしてもらいなさい」と言われている。
後見人であるローデンヴァルト家で開かれた身内のパーティーならば、侯爵家の並びに私が紛れ込んでいるのもアウトかセーフかでいえばセーフ? などとぐるぐる考えながら、アロイス様と一緒に最後のお客様をお見送りしている私である。
「どうしたニコ、疲れたか?」
「いえ、大丈夫です。体力には自信があります」
「本当か? こちらの世界に来たとき、熱を出して倒れたと聞いたぞ。うちに来てからも何度か寝込んだだろう」
「またそんな古い話を……もう大丈夫ですよ」
疑わし気な視線を向けられてしまった。
アロイス様の言う通り、こちらの世界に来たばかりのころは何度か体力不足のせいで寝込んだことがあるけれど、それは向こうの世界でお菓子パンばかり食べていたからだ。給食だけでは栄養が足りなかったのだと思う。
ローデンヴァルト家でお世話になってからは毎食きちんと栄養を考えられたご飯を食べてすくすくと成長し、なんと身長が20㎝近くも伸びたし肉も付いた。
しかし軍属のアロイス様にしてみれば足りてないように見えるのかもしれない。アロイス様、大きいし。
「無理をするなよ?」
アロイス様はいつも優しい。
それは聖女様の結界修復のための旅に同道していたときに、忙しいだろうにまめに手紙をくれていたことからもわかる。文通のように何度も往復する手紙のやり取りははたから見れば報告書のようなものだったけれど、穏やかで、遠征先の危険さは微塵も感じさせないたわいのないものだった。
口調も気安く、貴族という存在に馴染みがなかった私に合わせてくれる。
年の離れたお兄ちゃんがいたらこんな感じで接してくれるのだろうか? という距離感で、アロイス様は私をかまう。
私はそれが嬉しい反面、苦手だった。〝きょうだい〟という存在には良い思い出がないし、そんなふうに感じるひがんだ自分も嫌になる。
アロイス様は今日もいつものように私の頭を撫でようとして、パーティー用にきっちり結い上げた髪型を崩すのをためらったのか、中途半端に空中で手を止めた。
「うん。今日のニコの装いは本当に似合うな。いやいつも似合ってるけど、今日はほら、アクセサリーが俺の贈ったイヤリングだし。髪飾りも、黒い髪に緑の魔石がよく似合ってる。これは母上のか? つける人が違うと雰囲気が変わるんだな」
遠回しに自分のセンスを褒めながら、夫人が笑ったときの顔そっくりの笑顔を向けてくる。
大の男にちょっとかわいいと思ってしまった。
「アロイス様の黒い魔石の髪飾りも、かっこいいですよ」
髪には魔力が溜まるというので、こちらの世界の人間は男女問わず髪を伸ばしている。アロイス様も素晴らしく美しい銀色の髪を肩まで伸ばしているが、今日はパーティー用に結わえて黒い魔石のついた髪飾りをつけていた。
髪飾りといっても女性のように魅せるための華美なものではなくて、アクセントに魔石がついた小さな飾りだけれど、色素の薄い銀髪に黒い色はよく目立つ。
「だろ。これだけしっかりした黒い色が出た魔石はなかなかなくて、遠征先で魔石屋を見つけるたびに入って探したんだ」
こだわりの黒だったらしい。新緑を思わせる澄んだ緑色の瞳をキラキラと輝かせて、アロイス様が笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます