頭上

春道累

update

 普段行かないようなところってあるじゃないですか。

 いや変な話じゃなくて、用事がないと行かないところ。例えば旅行に行ったときに、駅からちょっと離れたところのホテルを取ったらそこまで歩いていかないといけないじゃないですか。バスとかタクシーとか、そこまでの距離ではないけどちょっと遠いみたいな。

 そういうところの話です。


 それこそさっきの例みたいに、旅行に行った時の話なんですけど。初めて泊まる駅で、N駅ってとこですね。知ってます? はい、はいそうです近くに有名な和菓子屋さんがあって。勘でホテル取ったら思ったより遠くて、しかも出口を間違えちゃったんで大変でした。荷物も重いし。

 でも駅前は結構栄えてて嬉しかったですね。朝コンビニ飯じゃなくて喫茶店とかで食べられそうな感じだったのが。次の日もゆっくり目の日程だったので、スタバにしようかなコメダにしようかなみたいな感じで考えながら歩いてました。


 目的のホテルまでは歩いて15分くらいで、割と周りもタワマンとかでっかい企業ビルとかみたいな大きな建物が多いところでした。あ~地域ぐるみで緑化してるんだな、って感じの公園っぽくしてある道を歩いてたら、上から声が聞こえてきたんです。


 いや、普通の声なんですよ。若い男、高校生か大学生くらいじゃないかな。アラサーまでは絶対行かんでしょってくらい。それで、ウェーイって叫んでるんですよね。


 急に聞こえてちょっとびっくりしたんで上、見てみたら。タワマンの駐車場でした。下3階分くらい、タワー型の駐車場にしてその上が居住区になってるよくあるやつですよ。だから、ああ住んでる人かその子供かが友達と遊んでるんだろうなと思って。


 ただ、タワマンなんで、そこそこ幅があるんですよ。建物の。それで、その横をずっと歩いていってもう一つか二つ先の交差点を曲がったところのホテルに予約取ってて。そこ、その建物の前歩いてる間ずっと聞こえてたんですよね。そう、ウェーイ、ウェーイって。楽しそうな声で、普通に。それに対する返事とか、他の声でのウェーイとか、そういうのはなくて。ちょっと……ちょっと長すぎません?だって僕、足遅いから5分くらいマンションの前歩いてたんですよ。


 次の日? ああ、それからは何もありませんでした。二泊くらいしたんですけど、その間も駅まで行くのにそのマンションの前通ってたんですけど、それからは聞こえたことないです。マジで何だったんだろなあれ。


 まあ普通にね、ちょっと変な人がずっと叫んでただけなのかもしれないですけど。気味悪かったなって話です。それだけ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る