放課後の昇降口にいつも一人でいる学園マドンナの七瀬さん

武 頼庵(藤谷 K介)

放課後の昇降口にいつも一人でいる学園マドンナの七瀬さん



 その女の子ひとは放課後、皆が帰る背中を見ながらいつも一人っきりで誰かを待っていたんだ――。


 突然だけど、学園のマドンナと呼ばれる存在が自分たちの通う学校に居るだろうか? 俺、日立春花ひたちはるかが通っている双葉学園高等部には、誰もがその存在を知っている女の子が存在する。


 学校自体はそんなに特徴のある学校じゃない。進学校として名が知られているわけじゃないから生徒の学力もそこそこだし、スポーツに関しても何年か前に野球部が県のベスト16に残ったというのが唯一の実績。つまりあまり力を入れているわけじゃないって事。

 

 ただそんな我が学園にも有名な事はある。それがこの学園のマドンナの存在だ。


 名前は確か……七瀬茜ななせあかねさんだったかな? 普通といっても差支えの無い学園内でも学年ではいつも成績上位に入り、運動をさせればトップクラス。そして何よりもどこぞのアイドルグループにいても遜色のない程の容姿端麗。それでいて誰とでも分け隔てなく接してくれるという事で、自分の学校の中だけじゃなく他校からもその存在をわざわざ見に来る人が居るほど、その子の事は有名なのだ。


 どうしてらしいなんて言うのかというと、勿論平凡な学校の平凡な生徒の一人であり、あまり目立つことの好きじゃない俺には、その存在自体と全く関わり合いが無いから。

 だからその子の事は、噂は耳にする事が有る。あるけど実際に話したことが無いからどんな子なのか分からない。


 もちろん偶然にも同じ年に入学したのだから学校内でも見かける事はある。その程度の間柄ともいえる。こちらは向こうの事を知っていても、向こうは俺の事など存在すらも知らないだろう。


 そういう関係――なんて事も言っていいのか分からないけど――が既に2年過ぎた今でも続いている。



――住んでいる世界が違うとはこういう事だろうな。

 なんてことを思いつつ、今日も仲良くなったクラスメイト数人と放課後になって遊びに行くため、一緒に昇降口へと降りていく。



「おい……」

「お?」

 ここ最近は常にと言っていい程一緒にいる友達の間宮と五十嵐が、自分たちの靴の有る場所へと移動をしている時にちょっとだけ外を向きつつ声を上げた。


 俺もその声を追うように視線をそちらへ向ける。



「今日もいるぜ?」

「やっぱり誰かを待ってるんじゃね?」

「誰を?」

「カレシじゃね?」

「俺かな……」

「ばぁ~か!!」

 二人が言っているのは、放課後になると決まってに一人で立っている女のこの事で、それは学園にいる人なら誰もが知っている女子生徒の事。


――あぁ、今日も居るのか……。本当に誰を待っているんだろうな?

 俺もその姿を見ながらふと思ってしまう。


 俺達の学園では学年が上がるごとに生徒用の昇降口は奥へ奥へと移っていくので、春になるとすぐ側にある桜の木から、ひらりひらりと舞い落ちてくる花びらのが春の雨の様に見える。


 容姿端麗とは良くあらわされた言葉だと思う。小さな色白の顔に綺麗に収まる顔のパーツ。そして日差しを受けて輝きながらも、風に流れるように踊る腰まで伸びた黒い髪。


 そんな中で独り佇む女の子。


――学園のマドンナさんがこんなところで何してるんだろ?



 その様子を見ながら俺たち三人は靴を履き替えつつ、話をしながら昇降口を歩いて出て行く。



「…………て……」



「ん?」

「どうした? 春花」

「いや、なんか聞こえなかったか?」

「え? 何も聞こえなかったぞ?」

「そうそう!! 春花の気のせいだって!!」

「……そうだな」

 歩いていくうちに何か聞こえた気がして立ち止った俺を、横に並ぶ二人が不思議そうに振り返る。


――そうだな……気のせい……か。

 俺も二人と同じように感じたので、そのまま今日出掛ける先の事などを話し始め、その時の事を全く気にもしてなかった。



「ただいまぁ……」

 色々と回ったり、遊んでいる内にすっかり暗くなってしまって、家に帰る時間が遅くなった。


「おかえりぃ~!!」

「おかえりなさい……」

 玄関のドアを開けて靴を乱暴に脱ぎ始めると、どたどたと足音をさせながら駆け寄ってくる女の子が二人。


「おにぃ~!! おかえりぃ~!!」

「お!? こら背中に乗るな秋穂あきほ

 最初に声を掛けてきて、背中に乗っているのが歳の離れた妹の秋穂。まだ小学2年生になったばかり。

 そしてそんな俺たちの事をじっと見つめるもう一人の女の子が、秋穂の友達のあかりちゃん。


「おかえりなさい……」

「お? 光ちゃんいらっしゃい。今日も仲良く遊んでた?」

「うん……」

「そっか」

 そう言うと俺は光ちゃんの頭を一撫でしてあげた。



 この光ちゃんも、ようやく俺に慣れてくれたみたいで、もじもじとしながらも成されるがままになっている。


 初めの出会いは本当に偶然だった。それは高校入学直後の事。


 

共働きの両親な為、時々妹の世話をしている俺は、働いて帰って来る両親を少しでも安ませてあげる為、週末は近くの公園へと秋穂を連れて遊びに行っていた。


桜が散り始めて公園内も桜の花びらの道ができ始めていたのだけど、そんな中を走ってかけていく秋穂。その後を追いかけていくと一人の女の子が数人の男の子に囲まれていたのを見つけた。


近付いていくとどうも女の子が一方的に男の子たちに大きな声で言われているようで、女の子の方が怯えたような表情のまま縮こまってしまっていた。


「おにぃ……」

「おう!!」

 先に公園の中へと駆けて行った秋穂だったが、その現場を目撃してどうしたらいいのか分からず立ち止っていた。そして俺が来たことに気が付くと俺のズボンをくいっと引っ張って目で「どうにかしてあげて!!」と訴えかけてくる。


 すぐにその場へと走って行って女の子の前に立ち、男の子たちとの間に入った。するとその女の子は俺の脚にぎゅ~!! としがみついてきたのだ。

 たぶん凄く怖かったのだろう。


 そして俺の登場で男の子たちもどうしていいのか分からなくなったのか、それまで威勢のいい大きな声を出していたのがぴたりとやんで、何も言わずにさっさと逃げ出した。


 そんな事が有って無事に助けることが出来たのが光ちゃんで、聞いたところによると春になる前に俺たちが住む町に引っ越してきたばかりで友達がいないとのこと、更にこの日は越してきたばかりで荷物の整理をしているから近所という事もあり、一人で遊びに来ていたことが分かった。秋穂と同じ年だということで、話している間に秋穂と仲良くなったようなのでそのまま一緒に三人で遊ぶことになったのだ。


 その後は空がオレンジ色に染まり始める前に、光ちゃんのお姉さんが迎えに来たので解散となった。その際にぺこぺこと頭を下げて凄くお礼を言ってくれるお姉さんを見ながら、良い姉妹だななんて事を思う。お姉さんの顔は暗くなり始めていたこともあり、眼鏡をかけているということくらいしか分からなかった。ただあまり会う事は無いだろうなとも思うので、あまり気にしてない。


 

 そして新学期になって、その光ちゃんが秋穂と同じ小学校へと入学したことがわかり、更に仲良くなった二人は良く遊ぶ間柄になるのも時間がかからず、俺の家に来ることも良くあるので、俺も光ちゃんがもう一人の妹のような感じがして、なんというか可愛さが二倍になった!! みたいな想いを抱いていた。



――仲良くていいな。こういうのを幼馴染って言うんだろうな。

 仲良く遊ぶ二人を見ながらそんなことを考える。





そして本日も彼女――七瀬さん――は昇降口に一人で佇んでいる。



 春というのは体感する機関が短く感じるようで、あれほど自己主張していた春の使者である桜は既に青々とした葉だけを残して、来年に備えるために街中からも姿を消した。


 いつもは三人ないし四人で帰るのだけど、その中の一人である五十嵐が「俺にも春が来ました!!」などというラインを送ってきたと思ったら、どうやら彼女が出来たようで俺達三人でいる事が少なくなった。

 そして本日は友達無しの俺一人で帰るという事になったのだけど、久しぶりに独りで帰るという事で、少しゆっくりと学校を出る事にした。


 誰も居なくなった教室で独りぼーっとして時間を潰し、外で部活そしている人達の元気な声を聴いてから、「よし!!」と一人声を出して気合を入れ、カバンを肩にかけると教室を出る。


 そのままゆっくりと廊下を歩き、階段を下りて昇降口まで近づいていくと、そこにいつもと変わらない風景が目に映る。


――やっぱり今日もいるんだな……。

 階段を下りてくる途中からすでにその姿は見えていたけど、俺の知る限り毎日の様に同じ場所に立っている女子生徒がいる。


 静かに靴を履き替えて外へと一歩踏み出した途端――。



「あ、あの!!」

「え?」

 思わぬところから掛けられた声にビクッとする俺。


「よ、良かった!! こ、声掛けられた!!」

「ほぇ!?」

 胸の前でグッと両手を握り締めるその声の主に対して変な声がでてしまう。


「あ、あの!! 日立君……だよね?」

「え? は、はい。そうですけど……」

「一緒に帰ってもいいかな?」

「はぁ?」


――え? なにこれ? どっきり? それとも罰ゲームか何かとか?

 声の主は学園で知らない人が居ないと言われる美少女で、昇降口にいた女子生徒。そう七瀬茜さん。まさか自分に声を掛けてくるとは思わないからびっくりするのも無理はないと思う。


「ダメ……かな?」

「えっと、その……いいけど……」

 俺の目の前に来て上目遣いでお願いしてくるなんて反則だと思う。


――確かに……かわいいけどさ……。

 圧に押されるように――いや、その可愛さに思わずオッケーしてしまう。



「…………」

「…………」

 とはいえ一緒に帰る事になったは良いけど、会話は全くない。二人で並ぶようにして校門へ向かって歩いていくときも、学園の生徒たちから好奇な眼――男子からは明らかに敵視されてた――で見られながら歩き、敷地を抜けて自宅まで歩く道程でも会話が無いまま、既に十分ほどが経っている。


 因みに俺の家から学校までは徒歩二十分圏内である。



すたすたすた

すたすたすた


 俺達からは歩く足音しか聞こえない。


――何だこの状況? しかしこのままではいけない!! 何か、何か話さなければ!!



「「あ、あの!!」」

「え?」

「あ……」

 タイミング悪く二人同時に話しかけてしまう。



「えっと……お先にどうぞ」

「え? いえその……日立君からどうぞ……」

「そ、そう?」

「はい」

「えっとじゃぁ……」

 俺は思っていたことを聞いてみることにした。



「家この辺りなのかな?」

 今まで話したこともない相手なだけに、まずは聞いておかなければと思った事をそのまま聞いた。


既に俺の家までは歩いて五分程度の場所まで来ていた。



「えっと……はい。近いです」

「そっか……七瀬さん……でいいんだよね?」

「え? ハイ。七瀬ですけど……」

 何故か俺の方を向いた七瀬さんはプクッと頬を膨らませていた。

 そしてしばらく会話の無いまま歩き続ける。


「えっと……ここ、俺の家なんだけど……」

「はい……」

 会話の続かぬ間に家の前まで来てしまった。


――あれ? 何か用事があったんじゃないのか? ただ一緒に帰りたかっただけ? そんなまさか……相手は学園のマドンナだぞ?

 二人で会話の無いまま玄関前で立ち止っていると、ガチャッという音と共に、家の玄関ドアが開いた。


「あれ? おにぃ? おかえりぃ~」

「おかえりなさ……」


 ドアの先から出てくる女の子二人。勿論妹の秋穂と光ちゃんだ。しかし俺を見た瞬間にニコッと笑う秋穂とは違い、何故か視線が俺を通り越えて驚いた表情をしている光ちゃん。


「ただいま秋穂」

「……ただいま」

「「え?」」

 俺の挨拶の後に聞こえた声に驚く俺と秋穂。


「えっと……誰ですか?」

 少し目が細くなった秋穂が声の主を見つめる。



「お姉ちゃん!?」


「はい?」

 光ちゃんが大きな声を出し、その声の大きさではなく内容に今度は俺が驚いた。



「え? えっと……お姉ちゃん?」

 二人の顔を交互に見ながら声が出てしまう。

 そんな俺を見ながら少し微笑む七瀬さん。


「はい。改めまして、七瀬光の姉の七瀬茜です」

 ぺこりと頭を下げる七瀬さん。


「え? 七瀬……光……ちゃん?」

「うん。そうだよ。あれ? 言ってなかったっけ? そっか!! どこかで見たことある人だと思ったら、光ちゃんのお姉ちゃんだったのね!!」

 俺の独り言のような声に秋穂が答える。


 そのまま驚いて立ち尽くしている俺をよそに、七瀬さん姉妹と一緒に家の中へと入っていく秋穂。



――え? どういう事?

 ぐるぐると頭の中で考えるが、理解が追い付かない。そうこうしている内に俺が家に入ってこない事に気が付いた秋穂が俺を迎えに来て、何も言わずに腕を引っ張り、無理やりのように家の中へと連れ込んでくれた。





――なにこれ? どうして俺の家の……しかも俺の目の前に学園のアイドル様が座ってるの?

 未だに俺の頭の中は混乱中である。






「七瀬さん」

「「はい(!!)」」

 目の前のソファーに座る二人から同じように返事が返ってくる。


「あ、えっと……お姉さんの方の……」

「わかりづらいよ!! 二人共七瀬だもん!! お姉ちゃんはあ・か・ね!!」

「え?」

 思わぬところからダメ出しが入る。それも七瀬さんの妹光ちゃんから。


「いやでも……」


――呼べるか!! 


「そうね……どっちも七瀬だものね。それに……(光だけなんてずるいわ)」

「え? なんて?」

「え? あ、ううん!! わ、私の事は茜って呼んでもらっていいわよ!! うん!! いや呼んで是非!!」

「いやいやいや……そんな。それに今日初めて会話するわけだし」

「え? 初めてじゃないよ?」

 キョトンとする七瀬さん。その際に少しだけ首を傾げる。


「え? 初めてでしょ?」

「ううん。初めてじゃないよ。公園で話したじゃない」

「公園で……?」

「うん!! 話したよ!! 私をお迎えに来てくれた時!!」

「あ!!」

 七瀬さんのいう事を考えていると、光ちゃんが初めて会ったという時を教えてくれた。確かにお姉さんと挨拶はした。それが目の前にいる七瀬さんだったとい事らしい。



「そ、そうなんだ。あの時のお姉さんが七瀬さん――」


「あ・か・ね」

「…………」

「あ・か・ね!!」

「……いや、そんなに圧かけられても呼べないよ? カレシでもないし……カレシに悪いでしょ?」

「え?」

「お姉ちゃんカレシさんいるの?」

 またも俺の言葉にきょとんとする七瀬さん。その七瀬さんに顔を覗き込むように聞く光ちゃん。


「居ないけど……」

「居ないって!!」

 ニコッと俺に笑顔を向ける光ちゃんと、困惑しているような七瀬さん。


「でも、いつも誰かを待ってるでしょ?」

「どこで?」

「昇降口で」

「あぁ!!」

 なるほどといった感じでポンっと掌を一つ打つ仕草をする。


「違う違う!! そうじゃないよ!!」

「ん?」

「誤解だよ!! あれは日立君を待ってたの!!」

「え? 俺を? 七瀬さんが?」

「そうそう!! 声を掛けようとしていたんだけど、いつも一人じゃないから声を掛け損ねちゃってて……」

 てへへと照れながら笑う七瀬さん。


――か、可愛いなおい!! 美少女が照れるって反則級じゃね? 


「そ、そうして七瀬さんが俺に?」

「えっと、いつも妹がお世話になってるみたいだし、日立君も仲良くしてくれてるみたいじゃない? 公園で遊んでくれているのとか時々見かけてたんだ」

「そ、そうなの?」

「うん。だからそのお礼をね」

「そ、そっか……」

 

――つまりは妹の光ちゃんがいつもお世話になっているから、姉としてちゃんとお礼をしたかったという事か。それならば話は分からないでもない。でもウチも秋穂と仲良くしてもらってるのだから、お互いさまな所もあるし特にお礼なんて必要ないんじゃないかなと思う。


 そんな事を考えていると、七瀬さんの方をジッと見つめていた光ちゃんから思わぬことを口にした。



「え? お姉ちゃんそれだけじゃないでしょ?」

「「え?」」

「だって、いつも春お兄ちゃんは優しいとか彼「うわぁぁぁぁぁっ!!」――ぎゅむ!!」

 顔を赤くしながら慌てて光ちゃんの口を押える七瀬さん。



――うん。聞こえなかったことにしよう!! というかだんだん光ちゃん性格変わって来てない? あれかな? 七瀬さんがいるからちょっと安心しちゃったのかな?



「えっと、じゃぁ七瀬さんが――」

「あ・か・ね!!」

「……俺だけが言うのはちょっと……」

 再度の圧に俺の方が負けてしまった。


「じゃぁ!! お姉ちゃんも春お兄ちゃんの事名前で呼んだら? 秋穂ちゃんもいるんだもん分からなくなるよ」

「「んん!?」」

「そうだね!!」

 いいね!! と言いながら妹二人はキャッキャと騒ぎ始める。


「えっと……」

 顔を真っ赤にしながら俺の方を上目遣いで見つめてくる七瀬さん。


「きょ、今日の所はこのままでいいじゃない!?」

「え……?」

「ほ、ほら、やっぱり恋人とかにならないとちょっと俺は……」

 またもプクッっと頬を膨らませて俺を見つめる七瀬さん。しかし俺はそれをどうにか躱し、何とか光ちゃんたちと遊ぶことでこの件をうやむやにしたのだった。


 しばらく四人で遊んで、夕日が落ちてくると、それまで日差しが差し込んでいたリビングにも少しずつ夜の静けさが訪れてくる。


 名残惜しそうにしていたけど、この日はそれまでとして二人を玄関の先まで送ることにした。


 帰り際、二人を見送って手を振っていると、七瀬さんが光ちゃんと何やら内緒話をしたかと思うと、俺の方へ向かって歩いて来た。


 そしてスッと背を伸ばすと俺の耳元へ顔を近づける。



「覚悟してね!! 絶対に茜って呼んでもらうから!!」

「え? いやだから恋人じゃないから――」

「そういう事!!」

 それだけを言い残すと光ちゃんの元へと戻って行き、二人仲良く手を繋いで帰路へとついた。




 


そして――。



「待ってたよ!! は・る・か・君!!」

「「「え?」」」


 いつものように友達と一緒に帰ろうと昇降口へと向かい、靴を履き替えて校舎から出ようとした瞬間に、いつもそこに居る女子生徒から声を掛けられて固まる俺と、声を掛けられたことに驚く友達の三人。

 

「春花……くん?」

「……だと?」

「…………」

 俺を見ながらニコニコと笑顔を見せる七瀬さん。そしてじっとりとした視線を向けてくる友達三人。


「一緒に帰ろ? ね?」

「え? い、いや……七瀬さ――」

「あ・か・ね!!」

「いやいやいやいや!!」

「むぅ~!! 絶対に呼んでもらうからね!!」


「おい!! 春花どういう事だごらぁ!!」


 俺はその場を逃げ出した。







「ねぇ……」

「なに?」

「いつになったら呼んでくれるの?」

「…………」

 いつも秋穂を遊ばせている公園で、目の前で遊ぶお互いの妹を見つめている。


「春花君!!」

「……好きになったら呼ぶよ……」

「いつになったらなってくれるの?」



「……もう……既に好きだよ……」

「え?」


 

 俺が七瀬さんを茜と呼ぶのはきっともうすぐだ。




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