第39話 勘違い

 夜。俺はベッドに入り、目をつむる。

 眠気はすぐに訪れず、今日のことを思い出す。


     ・    


 何度考えたかわからないが、委員長との映画鑑賞は、なかなか面白かった。

 誰かと映画を見るというのも、俺にとっては珍しく、新鮮だった。


 委員長と歩いていると、色々な人間が振り返るのは驚いた。服装もあるんだろうが、たしかに久遠奏は美人なのだろう。

 中身はアレだけど、そういうのがいい奴もいるだろうし……。


 そういえば、コーヒーショップで向かい合って話をしてるとき、委員長がこんなことを言っていた。


「たしかに現代に忍者はいらないかもしれないけど、昔から、特殊な術や技を悪用する同業が絶えないのよ。だから、わたしたちは、監視役として組を作ったってこと。それってつまり、任侠ってことなの」

「なるほど……?」

 

 任侠と言ってる時点ですでに忍者ではないと思うのだけど、自慢げに胸を張って話しているので、黙っておこう。

 あと、服がニットワンピースということもあって、全身がものすごく張っていただ。しかし、これも黙っておく。


 委員長はつづけた。


「暴力で解決しようとするのは最低の行為だと思う。だからわたしは、色恋の術で、平和に問題解決したいのよね」

「色恋は平和ではないと思うんだ……」


 欲というか、なんというか、すくなくとも平和ではない。


 委員長は不思議そうに首をかしげる。


「……? でも、かかったひとは、みんな気持ちよさそうだけど。薬やってるときの人間と同じ顔をしてる。あ、もちろん薬はダメよ? 絶対」

「それって、めちゃくちゃ怖いだろうが」


 くノ一自身が、薬になっちゃってるよ。

 まさか、へんな脳内物質を出させてるんじゃないだろうな……。

 そういや、異世界でも、魔力を使った変な薬あったしな。今度、時間があったら、委員長の術の構造を調べてみてもいいかもしれない。


 恐れおののいている俺を見て、委員長は嬉しそうに笑う。


「いつか、景山君にもかけてやるんだから」

「さっきの話きいたら、ぜったいにイヤだ……」

「ふふっ。じゃあ、別の術をかけてあげる」

「別?」


 色恋の術しか使えないんじゃなかったっけ。


 委員長は、いたずらっぽい顔をして、俺の目の前で指をくるくるとした。

 まるで催眠術をかけるように。


「わたしが困ったとき、景山君は、わたしを助けたくなーる。なぜならー、いままで、学校では、わたしがいろいろたすけてあげたから~恩返しの術~」


 恩返しの術、ね……。どうにも防ぎにくい術である。


 言われてみれば、たしかに、四年前……じゃなくて、こちらでは数週間前、俺が異世界へ飛ばされてなければ、いまだに俺は、委員長に心配されながら、学校へ通っていただろう。

 なにかあるたびに、委員長が俺のことを心配して、職員室で先生に直訴してくれるわけだ。

 委員長はいつだって、俺の顔を見ると、寄ってきて、話しかけてくれたわけで。


 四年間、離れていて忘れていたけど――委員長は、義に厚く、俺にとっての勇者みたいなものだったんだっけ。


 ……そっか。だから、俺は、忍者云々の話が出ても、あっけなく受け入れて、簡単にボディガードも引き受けて、委員長が傷つかないように修行に付き合っているんだ。

 俺はずいぶんまえに、恩返しの術にかかっていたっぽい。


 黙っていると、委員長は眉をしかめた。


「……え、いきなり黙って怖い。冗談よ、冗談。助けに来る義理まではないよ。色々と鍛えてもらっているだけで十分」

「いや、まあ」


 なんと伝えればいいのか迷ったが、結局、素直に言うことにした。


「あのさ、俺、忘れてたけど……委員長には助けてもらってたよな。結構、感謝してたんだ」

「え? 忘れてたって……いつの話?」

「えーと、数週前かな」

「それ、忘れられなくない? つい最近じゃない?」

「まあ、それはおいといて、だな――とにかく、俺はたしかに恩返しをしないといけないだろうな。だから、委員長に、なにかあったら……うん。必ず助けに行くよ、俺が絶対に、久遠奏を助けるよ」

「え」


 指をひっこめて自分の顎にあてていた委員長は、動きをぴたりと止めた。

 それから、一拍をおいて、顔がボンッとでもいうように、赤くなった。


 嫌味の一つでも言われるかと思ったが、委員長は、困ったように笑うだけだった。


「あ、ありがと」


 なんて。

 こっちまで気恥ずかしくなるようなシーンだった。


     ・


 で、そのあと、俺たちは別れたわけだけど、俺はこうして眠れないまま、ベッドの中で委員長のことを思い出している……。


「これは、色恋の術なのか……? それとも、委員長に対する感謝だろうか」


 四年前に受けていた恩が、体に身に染みているのかもしれない。


 あーだ、こーだと考える。

 あっちをたてると、こっちがたたない。

 なにが、どうやら……ああ、なんか眠たくなってきたな……考えごとをしていたら、まどろんできた――その時だった。


 スマホが鳴動し、チャットアプリから通知がポップアップした。

 俺は、無意識に近いレベルで、スマホ画面を見たが、すぐに目が覚めて、ベッドから跳ね起きた。


 連絡は委員長からだったが、どう考えても、本人以外が文字を打っているようだった。


『委員長:身柄は預かっている。お前の彼女の体を守りたいなら、久遠家に連絡しないで、一人で来い。彼女もお前に会いたがってるよ。みんなの前で、縛られながらな』


 丁寧に、マップの位置情報までついている。

 

 しかし『お前の彼女』という点に誤解があるようだが……なぜ、そんな勘違いをされたかを考えてみる。


「……今日、監視されてたのか」


 目の前の久遠奏に惑わされて、気が付かなった。

 異世界と違って、魔力感知ができないぶん、コツもいるし。


 どちらにせよ、委員長が危険な状況であることにかわりはない。



 そのとき、部屋の外に気配がし、窓がコツンと叩かれた――。





(委員長サイドへ続く)











〇あとがきのような報告


なんだか体調が悪く、明日、更新はないかもしれません。

でも、がんばろう。書くのだ。


よろしければ、気力につながるので、★~★★★や、ブックマーク、

レビュー文章など、よろしくお願いいたします。

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