第4話 客室
階段は途中、踊り場を
南側は客室か
北側には、御手洗い、とプレートが掛かっている。まともな部屋は、錦が扉の前に立っている部屋だけだ。
――一部屋だけ北側にあるのは、奇妙だな。
しかも扉は薄い木戸だ。
「使用人部屋ですか?」
問いかけると、踊り場から声がした。
「客室です。こちらは家庭教師の
「こちらへ」
錦に呼ばれて、
血の匂いが濃い。
現一狼は奥歯を噛んだ。
空気には、あの殺人鬼の匂いも混じっている。
「血の匂いがしますか?」
錦が首を
「どのみち、この部屋で何かあったとしても、滅多に匂いはこもらないのですけれどね。扉の上の通気口から廊下の空気が流れ込み、窓側から外に出るので」
岩田に言われて見上げると、確かに、扉の上の高い位置に、大きな通気口が開いている。他の部屋には、ない。
――ともかく、死体を見よう。
扉に手を掛けて引いてみた。が、
「鍵がかかるんですか?」
「この部屋には内鍵があります。丸い棒を、扉の穴に差し込む形の」
錦の言葉に、現一狼は鍵の形状を思い浮かべ、心中で舌打ちをする。単純なしくみで、合い鍵などはない。その分、かけられると外しようがない。
「まだ、寝ている訳はないだろうな」
岩田がつぶやいて、扉を力任せに引いた。扉が
「力があるんですね」
驚いて見上げると、岩田は慌てたように手を放した。
「いや、そんなことは。しかし、これだけ物音がして起きないなんて」
再び岩田が扉に手を掛けようとするのを錦が止めた。
「まあ、待って。結城先生、錦です」
優雅にノックなどしている。現一狼が慌てて呼びかけるのと同時に、岩田が錦を扉から引き離した。
「あの、錦さん、いくらなんでも死体に返事は無理ですよ」
「錦様、おやめください。殺人犯がまともに返事をするわけございません」
途端、岩田が現一狼を見た。
「死んでいるのは結城先生ですか?」
現一狼も言い返す。
「殺人犯なら、何故、逃げもせず留まっているんです?」
岩田は申し訳なさそうな顔をして肩をすくめた。
「それは、おかしいと思いましたが。でも、どうして鍵がかかっているんですか? 自殺でしょうか」
岩田の言葉に、首を左右に振る。
自殺者の匂いだったら、ここまで匂わない。明らかに殺されている。まだ体を巡るつもりでいた血が、虚しさを追い払おうと匂う。
しかし、それを言っても信じてもらえる可能性は低い。
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