聞き込み再開
*
事件現場のアパートに到着した。ここは、未だ借りてがないようで空き部屋になっていた。大家から愚痴を聞きつつ、入室許可を求めると時、すでに先客がいると言う。
中には、南条がいた。
「何やってるんですか、こんなところで?」
「……」
「アリバイは崩れました? アリバイは?」
「……」
「くっ……」
相沢が尋ねるが、無視。一人でブツブツとつぶやいてる。松下は松下で、南条のことを無視して、ウロウロと動く。
「ほっとけ。今、思考中だ。どうやったらアリバイを崩せるのか」
「だったら、私たちは何のために来たんですか?」
「……」
無視かよ。
「当時アリバイがあったのは、婚約者の遠藤栞子、母親の芦屋紗栄子、元恋人の秋本理佐。梶祐介には、アリバイがありませんね」
相沢は、つらつらと知っている情報を羅列していく。管理官の吉原が言うには、自分の言葉が松下の助言になっているとのことだ。
半信半疑だが、それが事件の手がかりになるのなら、ツラツラと話してやろうじゃないかと思った。
相沢は事件資料のメモを見ながら説明する。
「3年前の12月24日。ええっと……遺体はここら辺にあって。死因は後頭部殴打。ハンマーのような鈍器で後ろからぶっ叩かれてます。それから、左腕を切られてます」
「……なんで、腕を切ったと思う?」
「し、知りませんよ。欲しかったんじゃないですか?」
「……だよな」
「だよな、って冗談ですよ」
「……なんで左腕なんだろう?」
「なんでって、どう言うことですか?」
「右腕じゃダメだったのかな……被害者の利き腕は?」
「わ、わかりません。中里さんの報告書にもありませんでした」
「なっ? ザルだろ?」
「い、言いがかりとも言えなくないですけど。そんなところ、どうでもよくないですか?」
「なんで?」
「だって、どっちも同じ腕じゃないですか」
「じゃなんで左腕を切ったんだ? お前なら、どっち切る?」
「し、知りませんよ。犯人じゃないし。切りたかった方、切ったんじゃないですか?」
「……」
な、なんか言えよ。
「腕は見つかってないんだよな?」
「ええ。もう、どこかで処理してる可能性が高いって」
「……しばらくは、持ってたんじゃないかな」
「なんでそう思うんですか?」
「戦利品はしばらく眺めるだろ。そんなもんだ」
「せ、戦利品って」
言い方が相変わらず、不謹慎極まりない。
「そんなことよりも、アリバイですよ。梶祐介にはアリバイがないんですから、そこから確認すべきでは?」
事件当日。その時、梶祐介は一人自分の部屋にいた。そして、恋人の秋本理佐は友人の女性とバーでお酒を飲んでいる。
事件当日はクリスマスイブ。恋人と過ごす日に、それは不自然だ。まず、疑うとすれば、この男ではないかと密かに相沢は思っている。
だが、松下は首を横に振る。
「動機がない」
「あ、あるでしょう。恋人である秋本理佐の元カレなんだから」
「元カレなんて、そこらへん見渡せば腐るほどいるだろ」
「友達が元カレは、なかなかいないんじゃないですか?」
「いるだろ。大学のサークルとか、一人か二人はそうだったぞ」
「み、乱れてますね。最近の若者は」
相沢の倫理観と照らし合わせると、なかなか抵抗のある話だ。
「とにかく、元カレへの嫉妬ってことで、殺さないですかね?」
「お前、それで殺す?」
「……彼氏できたことないんでわからないです」
「いや、想像しろよ。経験なんて、ないことの方が多いんだから」
「そ、そうですね」
てっきり、馬鹿にされるのかと思っていたが、案外まともな叱咤をされてしまった。相沢は、自分の恋人の元カノが友達だったことを想像した。
「……殺しますね」
「ヤバいなお前」
「だ、だって! 結婚するほど愛してる人の元恋人が友達なんですよ? 嫉妬しません?」
「逆だろ。元々、秋本理佐と芦谷海斗が付き合ってて、別れた後に梶祐介が付き合ったんだろ?」
「あっ……そっか」
「後ろめたさを感じるのは、むしろ、後に付き合った方で、嫉妬だなんだと言う感情にはならんだろ」
「実は梶祐介に隠れて、秋本理佐と芦谷海斗が繋がっていて付き合ってたとか」
「……あり得るとしたら、そんなところだろうな」
松下は、釈然としない様子だが、相沢は俄然、自分の説を推す。
「ほら、きっとそれですよ、それ」
「……なら、梶祐介のところ行くか」
「行きましょう行きましょう」
その時、松下のスマホが鳴った。
「おお、新堂君? 相変わらず仕事早いねー……うん。そうか、わかった。ありがとう」
言葉少なめに、スマホを切って相沢に話し始める。
「芦谷海斗が殺された日に、別の場所で行方不明者が1人出てる……被害者は内藤皐月。当時、28歳」
「芦谷海斗は当時大学生ですよね。結構、歳が離れてますけど、関連あるんですか?」
「……」
松下は、何も答えない。
「それよりも、早く行きましょうよ。ほらほら、早く」
相沢が自身の刑事のカンを証明したくて、松下の背中を押しながら歩く。すると、突然、南条がボソッとつぶやく。
「わかった」
「……何がわかった?」
「ここ……殺人現場じゃないですね」
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