や
くちゃくちゃと女性が真川を喰らう音ばかりが響いていた。真川は既に体の半分を失い、動かぬ人となっていた。
そんな殺伐とした中。
ぴろりろりん
不意に緊張感を削ぐ着信音が響く。常ならば「おいこんな時に誰だよ」と葉松が誰彼構わず絡むところだが、異常な空気に彼すら黙り込んでいた。
代わりにその携帯電話の持ち主が言う。
「こんな時に一体……」
そうぼやいたのは白いワンピース姿の林道だった。林道が携帯を開き──ふと気づく。
ここは山の中にある寺。携帯は圏外。電話はもちろんのこと、
「だ、誰から……?」
恐る恐る、園田が声をかける。だが、林道は凍りついて答えない。焦れたように園田が画面を覗き、絶句する。
「ち、チェーンメール……!?」
林道ががくがくと震えながら首肯した。
「二十九人のクラスメイトに回してください。死にます、って……」
メールの内容は、林道が百物語で語った内容そっくりだ。
しかし、実行するにも問題があった。現在、怪異に襲われず、生き残っている人数は四十四人目や、
つまり。
二十九人には一人足りない。
「で、でも、話した怪談をなぞってるなら、回さなくても大丈夫、だよね」
不安げに、けれどよすがが欲しいのだろう、林道が笑顔で言う。「そ、そうね」などと東海林が同意を示すが、塞の中に渦巻く予感が警鐘を鳴らし続けていた。
「馬鹿だねぇ、君たち」
四十四人目のそんな言葉が場に落ちた途端、
ウィィィィィィィィィィンッ
そんな機械音がした。金属が回転するような。どこか、モーター音が混じっている。
「……へ?」
目を丸めて放ったその一言が、林道の最後の言葉となった。
その声すら打ち砕かんばかりの轟音が林道の真後ろの戸を破ってきたのである。林道は悲鳴を上げただろうか。それすら聞こえない、ドゴゴゴゴガガガという物凄い音。
戸を破って現れたのは、ミキサーの中身を大きくしたようなもの。林道の細身など、あっという間にミンチに仕立て上げた。
肉塊が飛び散る。顔に当たった園田などはひぇっと飛び上がった。
「な、なんなんだよぉっ」
もういつもの横暴な力強さなど欠片もない情けない声で葉松が誰にともなく問う。
「楓ちゃん、メール回さなかったのに、なんで……」
唖然と呟く真城。その眼前にぬっと四十四人目が現れ、「それはねぇ」と告げる。真城が驚くのもお構い無しだ。
「みんな馬鹿だねぇ。回さなかったからって死なないなんて、
……そう、まさしくその通りなのだ。なんとなく予想のついていた塞が拳を握りしめる。けれど、予めそれを伝えていたところで、どうにもならない。
四十四人目は、誰も逃がす気など、毛頭ない。ただの傍観者すらも復讐の対象なのだから。
「さぁて、お次は誰の番かなぁ?」
四十四人目は愉しそうにけらけら笑った。
巨大ミキサーがそのままぐるぐると刃を回転させながら、意思があるかのように部屋を進む。向かう先には……永井の姿が。
さすがに呑気でマイペースな永井も目を剥き、逃げようとするが、何故か彼は動けない。いつの間にだろう、彼は顔だけ外に出し、あとは箱詰めされていたのだ。段ボール箱に。
「ちょ、そんな、え」
迫り来るミキサーに怯え、慌て、どうにか足掻くがどれだけもがいても、永井にできるのはせいぜい箱ごとぱたりと倒れることくらい。……むしろ状況は悪化して見られる。
しかし無情にも迫る刃。周りに助けの手はない。むしろ怯えて皆退避していた。それか既に死んでいるか。
「や、いやっ……」
永井は目を見開く。へらへらと笑みばかりの目が、今は涙を滲ませていた。
段ボールのごみはバキボキバキィッと物凄い音を立ててミキサーに飲み込まれたという──
あと十センチ、五センチ、一センチ、零……
ごががががががばきごきがこんっ
想像以上にすごい音がした。
段ボールは微塵に砕かれ、血飛沫に紛れて飛び散る。そこでミキサーは止まった。
「ひゃははっ、爽快だねぇ」
笑う四十四人目。けれど他は誰も笑わない。
くちゃくちゃと女性はまだ食べている。もう骨ばかりで跡形もないそれは、真川だった者だ。
そんな恐ろしい餓狼に四十四人目はとんでもないことを言う。
「ほら、まだいっぱいよしあしのわからない子がいるからね。例えばその子」
そう指を差されたのは、真城。びくんと肩を跳ねさせ、違う違うと首を振るが女性が聞くわけもなく。
「骨の髄まで楽しんでね」
しゃぶりつく女性に、そう微笑んだ。
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