諦めから始めよう

403μぐらむ

第1話

一度に五作品手を付けたのでとっ散らかってます。とりあえず完結したので短編を。

よろしくお願いします……。お茶濁しかも。

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 夜の繁華街。人通りは思いの外多い。


 駅からほど近い一軒の居酒屋に俺は居る。どこにでもあるような特徴のない店。

 数ヶ月ぶりに大学時代の親友が声を掛けてきてくれて、この店で一杯引っ掛けようってことになった。


「っんにしてもよ、誘っておいて遅刻するとかどうかしてんだろ」


 そいつからさっきラインでメッセージが来た。『終業時間間際に急ぎの仕事を先輩から押し付けられた。残業確定(泣)』だと。


 俺らは社会人3年目とは言えいまだペーペー扱い。先輩の命令に対する拒否権があるわけないのでそうなる事情は分かる。

 俺だって一昨日から今日は絶対に残業できないって周りに根回ししていた。ま、日頃の行いがいいからか根回しが効いたのか知らないけど定時で上がれたのは良かったけどな。


 人のこと誘っているのだからあいつもそれくらいのことはやっておいてくれてもいいのではないか? と、今更な愚痴を言っても仕方ないが。




 四人がけのテーブルに俺一人。こんなになるならカウンター席でも良かった気がしている。

 週末のせいなのか、店内もそこそこ混んでいる。『あいつ一人なのに席を占領しやがって……』なんて目で見られている気がして落ち着かない。


 全国チェーンのこの居酒屋は安いのが売りのようで、店内のポスターには『安い』『お得』の文字が踊る。給料の上がらない昨今はこんな店が流行るのかもしれない。

 ただアルコールは薄いし、つまみも冷凍食品に多少の手を加えた程度のものなので満足できるかと言うと素直に頷けないはたしか。


 今の俺はにぎやかな店内で一人ちびちび酒を舐めている。思わず寂しくて、ついこの店の粗を探してはネガティブレビューをネットにあげてしまいそうになるのを堪えているのに苦労する。


「残業は一時間程度になるって言っていたからもうそろそろ来てくれてもいいんだけどな……早く来てくんないかなァ」


 生ビール、ハイボール、酎ハイと三杯も立て続けに飲み干してしまったのでそろそろ次の飲み物を頼まないといけないなと考え始めたところでやっと待ち人来る。


「ごめん、ごめん! 待たしちゃったね。急に月曜の朝イチでプレゼンする資料を手伝えって言われさ」


 久しぶりに会ったというのに挨拶もそこそこに言い訳してくるそいつ。ま、会うのは久しぶりだけど連絡はそれなりに取り合っているからな。これくらいで目くじら立てないさ。


「何にする? 生でいいか?」

「うん。とりあえずナマで」


「おまえ、それが言いたいだけだろ?」

「バレた? でも生ビールでいいよ。頼んで」


 俺は手元にあるタブレットをポチポチとタップして注文を済ます。


「顔合わすのは三ヶ月ぶりくらいか?」

「もっとじゃない? すぐ近くで働いている割にはなかなか会う機会は作れないよね」


「職種が違うからな。なかなか時間は合わないだろうよ」

「だね。定時プラス一時間で上がったのだって久しぶりだしさ」


 暫くすると生ビールの大ジョッキが二つテーブルに運ばれてくる。では、再会を祝って――


「「かんぱーい」」


 俺はこれで四杯目だけど、一杯目のような感覚でぐびっといった。


「ぷはぁ~ やっぱ一人で飲むより二人のほうがいいな。俺にはひとり酒は似合わんよ」


「なになに? そんなにあたしのことが待ち遠しかったの? それに、いきなり大ジョッキなんて早々に酔わせて何するつもりかな?」


「……相手は誰でもいいんだよ。それにビールぐらいじゃおまえ、酔わないだろ?」


「ふっふふ。またまた無理しなくていいんだよ。あたしらの仲じゃない」



 こいつの名前は高橋薫タカハシカオリ。大学の同期で学部も一緒。見ての通り女だ。

 身長一六三センチ、バスト八六センチ、ウェスト六〇センチ、ヒップ八八センチのナイスなボディ。体重は絶対に教えてくれなかった。

 明るい茶色のショートボブにくっきりとした目鼻立ち。控えめに言っても美人の類といって間違いはないだろう。


 まあ、俺の元カノなのだけどな。


 俺は高橋薫タカハシカオル。彼女とは漢字は同じで読みの最後の一文字が違うだけ。

 大学の入学式のオリエンテーションで彼女とは隣同士になって、同じ名前だってことで意気投合。そのまま友だち、そのうち恋人って流れだった。

 訳あって恋人関係は解消したけれど、気の置けない親友としてはずっと付き合いがあるってわけだ。

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